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ガンナー  作者: 小哲
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第一章 生 存

俺は求めていた・・・人と同じではなく、人と違う自分自身の存在意義を。


周りに流され、他人と同じように人生を過ごし、老い、死んで行く。


平凡な日常、平凡な家庭、変化の無い自分。


怖かった・・・。


その他大勢とくくられる事の存在。


個ではなく全。


そこに自分は在るのか。


幼い頃から考えていた・・・・。


こんな考えは悪いことだったのだろうか?

「・・・・・・ん・・・んん・・・」


ゆっくりと目をあける。


「いっ!・・・・」


うつ伏せに寝ていた体を起こそうとした瞬間、体中に激痛がはしる。


「ん、どこだここ?」


痛みに耐えつつ、体を起した。


晴れ渡った綺麗な青空を見上げ少し考えた。


「ん〜・・・」


しかし、頭がぼーっとする。状況がまったくわからない。


「なんだ?何でここで寝てんだ?」


体中を見回すと擦り傷と切り傷だらけ、少し痛みはあったが幸い手も脚も動く。


「・・・なぜに森?」


周囲を見渡すと、どこかのジャングルのような森だった。


「えーっと確か旅行・・・あっ!!」


思い出した。


バコーンッ!!


地響きのような爆発音。


な、なんだ?!!


「・・・あっちか!!」


もくもくと立ち上がる黒煙をめざし、哲哉は地を蹴って走り出した。


距離は思ったより近い。息を切らせ、咳きこみながら必死に走った。


「ゴホッ!ゴホッ!・・・なん・・だ・・これ!?」


着いてみるとそこには鉄の塊と化した空飛ぶ機械が真っ二つに割れ炎上していた。


「おいおいおい、冗談じゃねぇぞ!」


大分距離が離れていたのにもかかわらず哲哉のいた場所でさえ炎の熱が伝わってくる。


「携帯!救急車!!」


混乱しながらも、携帯を取り出し電話をかけようとする。


「圏外かよ・・・くそ!役にたたねぇ!」


しかし、最悪なことに携帯の表示画面は圏外。


くそっ!!・・落ち着け俺。ま、まずは状況確認を!!


――ゴゴゴゴォォォ!!


「な、なんだ?!」


地割れの様な轟音。


土煙を立てながら何か分からないソレは近づいてくる。


「くっ!!」


俺は正体不明のソレを確認する為、逃げる様に体を隠す。


「き、騎馬隊?!・・・どういう・・」


轟音の正体は中世ヨーロッパをモチーフとした格好の軍団だった。


ざっと見積もっても五千はくだらない。


「・・・映画の撮影・・って訳じゃなさそうだな」


どう見ても不釣り合いな現実と事実。


目の前に広がる光景は無残な広がりを見せていた。


真っ二つに裂かれた腕と足。


黒く塗りつぶされた人だったのモノ。


それらは作り物のそれでは無い事を素人の俺でさえ理解させた。


「・・・意外と冷静なんだな俺」


平常心という訳ではない。


体の至る所が震え、いつもの調子では無い事は自身でもよく分かる。


だが、状況を飲み込め無い程、混乱した状態では無い事に少し驚く。


「・・・・・女?」


目を凝らして良く見ると約五千人鎧兵の中央に立つ、一人女性が目に入った。


歳は俺とあまり変わらない。


白銀の鎧を身に纏い、ジャンヌダルク思わせる姿で布陣していた。


美術の絵が飛び出た様な美貌。


金色をした髪に透き通る様な白い肌。


そして、誰をも魅了する碧色をした瞳が特徴的だった。


「%#$*@!!」


突如の叫び声。


その声に一糸乱れぬ反応を見せる鎧兵達。


「・・助けてくれてる?」


号令の様な声に対し、鎧兵達は事故に遭った人間に手当てをしていく。


「・・・・えっ?・・・」


自分の目を疑った。


明らかにおかしい。


手当てに行った鎧兵達の手から淡い光が発せられ次々に事故に遭った人間の傷が癒えていく。


「んな馬鹿な!!」


意味が分からない。


目で見た事実を常識が否定する。


「・・・・・は・・・ははは」


体中の痛みは消えていない。


目の前の現実を幻想では無い事を肯定させる。


―ガサガサッ!!


「――!!」


背後から聞こえる草の音。


振り返った瞬間全てが遅かった事を悟らせた。


「@&%$#*っ!!!」


喉元に長剣が付きつけられる。


「―――うっ!!」


樹木を背に預け、堪えていた膝が大きく笑い始める。


「@&%$#*っ!!!」


二度目の怒声。


鎧を着た男が殺意の眼差しで俺を睨みつける。


額の汗が頬を伝い、剣を伝って地面に零れた。


「――待ってくれ!俺は何も・・・!!」


全てを言い終える前に柄で殴られ地面に落ちる。


「――くっ・・・そ・・」


消え入りそうな意識の中で抵抗を試みるも為されるがまま紐で縛れ、馬に乗せられた。


高速で流れる地面を虚ろに見つめ、俺は気を失った。


「・・・・ん」


何か声が聞こえる。


「・・・・He・・」


ゆっくりと意識が覚醒していくのが分かる。


「・・He・・Hey!!」


「・・・え?」


気づくと目の前には心配そうな顔をした白人男性が顔を覗かせていた。


「Are you all right?」


え、英語?


「I’m fine」


起き上がりながら拙い英語で何とか元気な様子を伝える。


「speak English?」


話がしたい様子で俺に訪ねてくる。


「えーっと、I don’t understand English」


うまく喋れない事を伝えるとそうかと言った感じでトボトボと俺から離れて行った。


「・・・英語をもっと勉強しとくべきだったか?」


そんな事を呟きながら俺は立ち上がり部屋を見渡す。


「ここは・・・?」


薄暗い部屋。


壁や床、天井に至るまで全て石で固められたそれらは漫画などで見たことある光景だった。


入口らしき扉には鉄板と呼ぶには少々言葉足らずな分厚い鉄の塊。


窓らしき所には鉄格子が五本、そこから漏れだす月明かりで辛うじて見える程度だった。


「君は日本人か?!」


突然薄暗い部屋の奥から話しかけられる。


「え?・・・あっはい」


コツッコツッコツッと革靴の響く音が聞こえる。


「よかった、日本人は私と娘だけで話が出来る人が居なくてね」


姿を見せた優しそうな男性が穏やかに話しかけてくる。


見た目は四十代と言ったところか。


中肉中背。


眼鏡を掛け、スーツを着たその人はいかにも日本人サラリーマンといった感じだった。


「・・・お兄ちゃん大丈夫?」


声を掛けてきたのは父の後ろから顔を覗かせた可愛らしい女の子だった。


小学生ぐらいだろう。


クマのヌイグルミを抱え不安そうに俺を見つめてくる。


「ああ、ありがとう」


そう答えると女の子は照れ臭そうに笑顔を見せてくれた。


「すまないね、すぐに駆け寄ってあげれば良かったんだけど」


「いえ・・・」


本当に申し訳なさそうな表情で話を続けてくれた。


「君が来るまで結構な数の人間が部屋にいたんだけどね」


「一人ずつこの部屋から連れ出されて今の人数になったんだけど・・」


「・・・・」


「そうすると何故か君だけが遅れて入れられてたから、娘が怖がっちゃって」


「そうですか・・・ごめんね?」


女の子に向き直り不安にさせてごめんねと笑顔で気持ちを伝える。


「大丈夫♪」


女の子はハニカミながら答えてくれた。


「・・・ところでこの人達は」


「ああ、乗客乗員の人達だよ」


目が慣れてきた所為か細かなところまで見えてくる。


部屋の片隅で多種多様の乗客が座り込んでいた。


「そういえば自己紹介がまだだったね」


サラリーマンが何かを思い出したかの様に尋ねてくる。


「・・・小谷哲哉(こたにてつや)って言います。大学4年です」


「学生さんだったか、私は田山聡(たやまさとし)、この子は香奈(かな)私の一人娘でね」


宜しくとお互い挨拶を交わし、疑問に思っていた事を口にする。


「・・・ところで何故皆さん落ち着いているんですか?」


そう、ずっと疑問だった。


騎馬隊の存在、飛行機事故、ここの人間の静かさ。


普通だったら混乱状態になってもおかしくないこの状況で。


――この落ち着き方。


「あーそれはね。」


――ギィィィィィ!!


田山が話そうとした時、鉄扉が低い音をたてて開いた。


そこには相変わらず時代錯誤な格好をした鎧兵が立っていた。


「§Ε¶ΘΗζΨ」


何を言っているのか分からないが外に出ろとジェスチャーしているのが分かった。


「どうやら私達の番だね」



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