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『“また今度ね”が、最後だった』  作者: れんれん


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第9話 「選べないまま、終わるもの」

朝起きた瞬間、体が重かった。

 眠ったはずなのに、休めていない。

 まるでずっと浅い水の中にいるような感覚が続いている。

 スマホを見る。

 通知はない。

 それだけで、少しだけ安心してしまう自分がいる。

 ――また期待してる。

 その事実に気づいても、感情は止まらない。

 もう何が正しいのか、わからなくなっていた。

 彼に対して、まだ何か残っているのか。

 それともただの習慣なのか。

 優しくしてくれる人がいるのに、心が動かない理由もわからない。

 ――まだ、元の人が好きだから?

 そう考えようとして、途中で止まる。

 好きだったのかすら、もう自信がない。

 ただ疲れているだけのような気もする。

 ただ壊れているだけのような気もする。

 判断する力そのものが、もう残っていない。

 仕事中も、思考は途切れる。

 会話はできる。

 笑うこともできる。

 でも、どれも薄い膜越しの世界みたいだった。

 昼過ぎ。

 スマホが震える。

 彼からだった。

『今日、ちゃんと話したい』

 短い文章。

 嫌な予感だけが強くなる。

 でも、断る理由も見つからない。

『わかった』

 送ってしまう。

 その瞬間、胸が少しだけ痛む。

 ――また、何かが終わる気がする。

 夜。

 待ち合わせ場所。

 彼は、いつもより静かだった。

「ごめん、急に呼び出して」

「うん」

 短い会話。

 沈黙が落ちる。

 その沈黙が、今日はやけに長く感じる。

 彼は一度だけ視線を落としてから言った。

「実はさ、ちゃんと決めたんだよね」

 その瞬間、空気が変わる。

 心臓が嫌な形で動く。

「今、付き合ってる子と」

 言葉が止まる。

 理解が追いつかない。

 でも、続きは聞こえる。

「ちゃんと向き合うことにした」

 静かに、確定する。

 ――終わった。

 その言葉だけが、遅れて意味になる。

 頭の中で何かが崩れる音がする。

 でも不思議と、涙は出ない。

 ただ、体が動かない。

「……そうなんだ」

 それだけしか言えなかった。

 彼は少しだけ申し訳なさそうに笑う。

「ごめん。ちゃんと伝えたくて」

 ちゃんと。

 その言葉が一番残酷だった。

 今までの曖昧さが、すべて“整理された関係”として処理されていく。

 私はその外側に押し出される。

 でも、どこかで理解してしまう自分もいる。

 ――これで、終わるべきなんだ。

 でも、心は追いつかない。

 ただ、何も考えられない状態だけが残る。

 帰り道。

 足取りは軽いのか重いのかもわからない。

 街の光が遠い。

 音も遠い。

 自分だけが、少し遅れて世界にいる感じがする。

 スマホが震える。

 新しい通知。

 優しい人からだった。

『今日、会えない?話したいことある』

 画面を見つめる。

 でも、意味が入ってこない。

 誰が悪いのかも、何が正しいのかもわからない。

 ただ、心が限界に近いことだけはわかる。

 ――これ以上、何を選べばいいの?

 答えは出ない。

 指は動かない。

 返信もできない。

 選ぶことそのものが、もう重すぎる。

 そのままスマホを閉じる。

 夜風が冷たい。

 でも、何も感じない。

 ただひとつだけ、薄く浮かぶ思考がある。

 ――私は、どこで間違えたんだろう。

 その問いにも答えは出ないまま、

 選択だけが、勝手に終わっていく。

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