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『“また今度ね”が、最後だった』  作者: れんれん


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第7話 「普通のふりをする日々」

朝は、いつも通り来る。

 アラームが鳴って、起きて、顔を洗って、服を着る。

 何も変わらないはずの一日。

 でも、鏡に映る自分だけが違って見えた。

 目の奥が、少しだけ重い。

 眠れていないわけじゃない。

 ただ、眠っても回復しない何かが残っている。

 ――昨日のことは、夢だった?

 そう思いたくなるのに、スマホが現実を連れてくる。

 通知はない。

 それだけで、少しだけ安心してしまう自分がいる。

 そしてすぐに、落ち込む。

 「何期待してるんだろう」

 誰にも聞こえない声で、そう言う。

 会社に行く。

 人と話す。

 笑う。

 仕事をする。

 全部できる。

 できてしまう。

 でも、どれも“自分じゃない感じ”がする。

 会話の途中で、ふと意識が飛ぶ。

 返事はできる。

 でも、内容が頭に残らない。

 ただひとつだけ、何度も戻ってくる思考がある。

 ――あの言葉は、本当に終わりだったのか。

 昼休み。

 無意識にスマホを見る。

 新しい通知。

 彼からではない。

 別の人。

『昨日はありがとう。ちゃんと楽しかった』

 新しい出会い。

 悪い人じゃない。

 優しい。

 ちゃんと向き合おうとしてくれる人。

 なのに、心は動かない。

 “いい人”だとわかるほど、比べてしまう。

 ――なんで、あの人じゃないんだろう。

 最低な思考だとわかっているのに、止まらない。

 その夜。

 帰り道で、もう一つの通知が来る。

 心臓が跳ねる。

 名前を見る。

 彼だった。

 息が止まる。

『この前の話なんだけどさ』

 短い一文。

 たったそれだけなのに、全部が揺れる。

 ――また、始まるの?

 期待してはいけない。

 そう思うのに、もう遅い。

 指が動く。

『どうしたの?』

 送ってしまう。

 すぐに既読がつく。

『ちょっと、会える?』

 その一言で、心が一気に崩れる。

 ――また同じだ。

 ――わかってるのに。

 でも同時に、別の感情も生まれる。

 “今度こそ違うかもしれない”

 もう一人の自分が囁く。

 やめろ、と言う自分と、行きたい自分。

 その間で、呼吸が浅くなる。

 夜。

 待ち合わせ場所。

 彼は、少しだけ疲れた顔をしていた。

「ごめん、急に」

 その言葉が、懐かしい。

「いいよ」

 そう返す自分も、懐かしい。

 沈黙。

 昔なら心地よかった沈黙が、今は怖い。

「この前の話なんだけどさ」

 また、その言葉。

 逃げたくなる。

 でも逃げられない。

「やっぱ、ちょっと気になっててさ」

 心臓が跳ねる。

 ――誰のこと?

 聞けない。

 でも、答えはすぐに来る。

「ほら、前に話してた子」

 その瞬間、現実に戻される。

 また、私は“相談相手”だ。

 恋愛の中心ではなく、整理のための存在。

 それでも彼は続ける。

「でもさ、お前にしかこういう話できないんだよ」

 その言葉が、一番残酷だった。

 必要とされている。

 でも、選ばれてはいない。

 役割だけがある。

 沈黙が落ちる。

 私は笑ってしまう。

「そうなんだ」

 本当は、泣きたいのに。

 帰り道。

 またスマホを見る。

 新しい通知。

『今日はありがとう。また話そう』

 優しい。

 でも、違う。

 どれだけ優しくされても、埋まらない場所がある。

 そこには、もう別の人がいる。

 過去の人。

 そして気づく。

 私はまだ、終わっていない。

 終わったはずの恋に、まだ反応してしまう。

 新しい出会いにも、完全には向き合えない。

 どちらにも属していない状態。

 宙ぶらりん。

 それが、一番苦しい。

 ベッドに倒れ込む。

 天井を見ながら、思う。

 ――私は、どこに向かえばいいの?

 答えはない。

 ただ、心だけが揺れ続けていた。

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