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『“また今度ね”が、最後だった』  作者: れんれん


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第4話 「やっぱり、好きだった」

それは、本当に何気ないタイミングだった。

 仕事の合間、スマホを確認したとき。

 見慣れない通知。

 ――誰?

 そう思って開いた瞬間、息が止まる。

『久しぶり。元気?』

 その名前。

 消したはずの名前。

 指が、止まる。

 心臓の音が、一気に大きくなる。

 ――なんで、今。

 頭の中が、一瞬であの頃に引き戻される。

 既読は、まだついていない。

 返信も、もちろんしていない。

 でも。

 “無視する”という選択肢が、浮かばなかった。

 画面を閉じる。

 でも、すぐにまた開く。

 何度も、同じ動作を繰り返す。

 ――どうしよう。

 返した方がいいのか。

 無視するべきなのか。

 考えている時点で、もう答えは出ている気がした。

 少しだけ、息を整える。

 そして。

『元気だよ』

 送ってしまった。

 送った瞬間、後悔が押し寄せる。

 ――なんで返したの。

 やっと終わらせたのに。

 やっと、少し楽になってきたのに。

 でも。

 数秒後、すぐに既読がつく。

『よかった』

 それだけ。

 それだけなのに。

 胸の奥が、強く揺れる。

 ――ああ。

 やっぱり、好きだ。

 認めたくなかった感情が、あっさり顔を出す。

 どれだけ距離を置いても、

 どれだけ忘れようとしても、

 “好きだった気持ち”は、消えていなかった。

 その日の仕事は、ほとんど頭に入らなかった。

 帰り道。

 気づけば、またスマホを見ている。

 ――来ないかな。

 そう思っている自分に、気づいてしまう。

 嫌だ。

 やめたはずなのに。

 もう振り回されないって、決めたのに。

 スマホが震える。

 心臓が、跳ねる。

『今日、少しだけ会えない?』

 その一文を見た瞬間、

 全部が崩れた。

 ――会いたい。

 考えるより先に、その気持ちが浮かぶ。

 ダメだって、わかってる。

 行ったらまた同じになる。

 でも。

 “もう一度だけなら”

 そんな言い訳が、自然に浮かんでくる。

 しばらく画面を見つめる。

 断る理由を考える。

 でも、思いつかない。

 いや、違う。

 “断りたくないだけ”だ。

『少しだけなら』

 気づいたら、送っていた。

 ――終わった。

 心のどこかで、そう思う。

 でも、止められなかった。

 待ち合わせ場所に向かう足取りが、少しだけ早くなる。

 ――なんでこんなに嬉しいの。

 自分でもわからない。

 ただ、会えることが嬉しい。

 それだけで、全部許してしまいそうになる。

 彼は、先に来ていた。

「久しぶり」

 何も変わらない声。

「……久しぶり」

 自然に返せた自分に、少し驚く。

「元気そうじゃん」

「まあね」

 本当は、全然そんなことないのに。

 でも、そう言ってしまう。

「最近どう?」

 何気ない会話。

 前と同じ距離感。

 懐かしい。

 楽しい。

 ――ああ、やっぱり好きだ。

 再確認してしまう。

 時間が、あっという間に過ぎる。

「そろそろ帰る?」

 彼が言う。

「うん」

 本当は、まだいたい。

 でも、言えない。

 前と同じだ。

 帰り際。

「また時間あるとき連絡するよ」

 軽く言われる。

 その言葉に、一瞬だけ引っかかる。

 でも。

「うん、待ってる」

 笑って返してしまう。

 本当は。

 “また今度”じゃなくて、

 “ちゃんと約束してほしい”のに。

 帰り道。

 スマホを見る。

 新しいメッセージ。

『今日はありがと』

 短い一文。

 それだけなのに、

 また期待してしまう。

 ――次もあるかもしれない。

 そんなふうに思ってしまう。

 そのとき。

 もう一つの通知に気づく。

『今日はありがとう。また行こうね』

 別の名前。

 今日の昼間に会った人。

 胸の奥が、少しだけ痛む。

 比べてしまう。

 優しさも、言葉も、全部。

 どっちが正しいとかじゃない。

 でも。

 心が動くのは、やっぱり――

「……最低だな、私」

 ぽつりと呟く。

 ちゃんと終わらせたはずなのに。

 前を向こうとしてたはずなのに。

 全部、簡単に揺らいだ。

 ベッドに倒れ込む。

 天井を見つめながら、思う。

 ――やっぱり、好きだった。

 その事実が、何よりも苦しかった。

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