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『“また今度ね”が、最後だった』  作者: れんれん


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第1話 「また今度ね」

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スマホの画面に表示された一行を、何度も見返していた。

『ごめん、今日無理。また今度ね』

 短い。

 理由も、代わりの日もない。

 それでも、既読がついただけマシだと思ってしまう自分がいる。

 ――ああ、まただ。

 ため息を飲み込んで、画面を伏せる。

 カフェのテーブルに置いた手が、少しだけ冷えていた。

 「今日、会える?」

 たったそれだけのメッセージを送るのに、二十分かかった。

 重いって思われたくない。

 でも、会いたいと思うのは普通でしょ?

 ――どこまでなら、許されるの。

 考え始めると、何もできなくなる。

 付き合って、八ヶ月。

 最初は彼の方からだった。

「なんか、一緒にいると落ち着く」

 そう言われたとき、

 自分がちゃんと“選ばれた”気がした。

 それが嬉しくて、安心して、

 少しだけ、自信が持てた。

 でも、今は違う。

 好きって言うのは、いつも私。

 会いたいって言うのも、いつも私。

 彼から来る連絡は、

 “時間が空いたとき”だけ。

 それでも、嫌いになれないのは。

 たまに見せる優しさを、

 勝手に特別だと思ってしまうから。

 ピコン、と音が鳴るたびに心臓が跳ねる。

 でも、そのほとんどが関係ない通知だ。

 そのたびに、少しずつ気持ちが削れていく。

「また今度って、いつ……」

 口に出してみても、答えは返ってこない。

 わかってる。

 “また今度”なんて、ほとんど来ない。

 それでも、

「そっか、じゃあまた今度ね」

 そう返してしまう。

 ――本当は、「寂しい」って言いたいのに。

 カップのコーヒーは、もう冷めていた。

 帰り道、駅に向かう人の流れに紛れながら、スマホを何度も確認する。

 既読はついている。

 でも、それ以上は何もない。

 わかってるのに、見てしまう。

 こういう自分、嫌いだ。

「それ、やめた方がいいよ」

 友達は言った。

「絶対しんどくなるやつじゃん」

「もうなってるよ」

 笑って返したけど、

 自分でも、少し引くくらいにあっさり出た言葉だった。

「なんでそんな人好きなの?」

 その質問には、いつも困る。

 ちゃんとした理由なんてない。

「好きになっちゃったから」

 それしか言えなかった。

 改札を抜けたところで、名前を呼ばれる。

「○○?」

 振り返ると、そこにいたのは高校の同級生だった。

「久しぶり」

「……ほんとに」

 少しだけ驚いて、でもすぐに懐かしさが追いつく。

 変わっていないようで、少しだけ大人になった顔。

「こんな時間に一人?」

「うん、ちょっと」

「送るよ」

 あまりにも自然に言うから、少し戸惑う。

「大丈夫だよ」

「大丈夫じゃなさそうな顔してる」

 その一言で、言葉が止まった。

「そんな顔してた?」

「してる」

 否定したかったのに、できなかった。

 並んで歩く帰り道。

 会話は少ないのに、妙に落ち着く。

 無理に何かを言わなくていい空気が、少しだけ楽だった。

「さ、ここでいい?」

「うん、ありがとう」

 家の前で立ち止まる。

 じゃあね、と言いかけたとき。

「ねえ」

 呼び止められる。

「ちゃんと泣いた方がいいよ」

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

「……泣いてないし」

「うん、だから言ってる」

 その返しに、胸の奥が揺れる。

 見透かされてる。

 ちゃんと隠してたつもりだったのに。

「……しんどいんだよね」

 気づいたら、口に出していた。

「好きな人に、好きになってもらえないの」

 言葉にした瞬間、涙がこぼれた。

 彼は、何も言わなかった。

 慰めもしないし、否定もしない。

 ただ、隣に立っていた。

 それだけで、十分だった。

 その夜、スマホを見つめる。

 彼の名前。

 これまでの会話。

 全部、そこにある。

 楽しかった時間も、

 優しくされた記憶も、

 全部嘘じゃない。

 でも。

 “続かないもの”だった。

 指が、少し震える。

 消したら、終わる。

 でも、このままじゃ――

 ずっと同じ。

 深呼吸して、画面をタップする。

 「連絡先を削除しますか?」

 一瞬だけ迷う。

 ――寂しい。

 でも。

 それ以上に、疲れた。

 「はい」を押す。

 画面が切り替わる。

 それだけ。

 本当に、それだけだった。

 少し遅れて、涙が落ちる。

 でも。

 思っていたよりも、軽かった。

 “終わらせた”のは、私だった。

 それだけで、少しだけ救われた気がした。

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