1話 出会い
「小手ありぃ!」
高三の夏、自分は剣道の全国大会男子の部で優勝した。正直最後は面で決めたかったという気持ちより最後の大会で優勝できた喜びが勝った。ここまで支えてくれた姉には感謝しかない。表彰式は女子の部でが終わってからだ。一回戦負けの友達が、
「女子のやつ見に行こうぜ!」
と無邪気に声をかけてきた。高三で一度も試合で勝てなかった奴がなぜこんな元気に女子の部を見に行こうと言えるのか。自分は不思議で仕方なかった。
自分たちが行った時ちょうど決勝が始まろうとしていた。試合に出ているのは自分と同じ学校のマドンナの友梨だった。友梨は昔、自分に告白してきた。学校1美人でありカリスマ的存在。こんな完璧な女性はいないのではないかと思っていた。しかし自分は振った。自分の好きな女性は可愛い女性ではない。自分は世間的にはイケメンという部類らしくクラスの女子からたくさん告白されている。もちろんみんな顔は可愛い。しかし自分が好きなのは可愛い人じゃない。
こんなことを思い出してるともう試合は終わっていた。会場はどよめいている。何があったのか自分はアホな友達に聞いた。アホな友達は冷や汗をかきながらこう答えた。
「友梨は何も打てずに負けた。今まで見てきた中で一番圧倒的な試合だった」
いつも圧倒的に負けている友達の言うことはあまり信用できなかった。しかし相手の名前を見た瞬間納得した。彼女は刈谷莉央。高校の3年間公式戦無敗の女。こんな相手に勝てるわけもない。友達は友梨のことを見ていた。自分と同じ学校の子以外も友梨のことを見て可哀想と言っている。しかし自分は違った。自分だけ刈谷莉央のこと見ていた。圧倒的な実力と過度な喜びの感情を見せない。
「かっこいい」
初めて自分が思うかっこいい女性に出会った。そして今まで好きになられる側から好きになる側となったと感じた。まもなく表彰式が始まった。幾度となく表彰式に出ていたがこれほど変な感覚なのは初めてだ。表彰式は男女同時に行われた。自分の後に呼ばれた刈谷さんの後ろ姿はかっこいいと言う言葉では収まらない。これが好きと言う感覚なのだろう。だが自分は知っている。初恋の相手とは結ばれないと言うことを。まず同じ学校でもなければ試合でも交わることがない。17年で初めての恋はこんなあっけなく終わってしまうのか。そんな時この大会の主催の方がスピーチをし始めた。いつもは全く聞かない長い話。今回ももちろん聞かない。聞いているふりはする。しかしスピーチの中である言葉が聞こえた。「王者と王者のエキシビジョン」「3月」ここで初めてスピーチを聞いた。
「今回の大会で優勝した二人には3月に行われるチャリティー大会にてエキシビジョンマッチで戦っていただきます」
自分の脳内に電撃が走った。なぜか詳しくはわからない。けど好きだと言うことが関わっているのは確か。ふと横にいた刈谷さんの顔を見た。驚いたりせずただ真っ直ぐを向いていた。かっこいい。この時完全に自分のハートを射止められた。しかしその後は何もすることなく帰宅した。
家に帰っているのは姉だけ。両親はとうの昔に亡くなった。姉とは6歳差。関係値は良好で女性との関わり方も姉から学んでいる。すると突然姉が「ちょっと大事な話があるの」と話しかけてきた。自分はどうせまたつまらない話だろうと感じながら自分の部屋に荷物を置きリビングへ戻った。すると姉は間髪入れずには薬指を見せてきた。そこにはキラキラと輝く指輪がはめてあった。
「姉ちゃん!どうしたのそれ!?」
「まあ見たらわかると思うけど私結婚するの」
「誰と?」
この質問が自分の全てを狂わせた。
「知らないと思うけど、刈谷誠さんって言う1歳年上の人!明日妹も連れて私たちん家くるから挨拶くらいしてね。後妹ちゃんは碧と同い年なんだってよ。仲良くしてみたら?」
今日2度目の電撃が脳に走った。まだ彼女とはわかっていないはずなのに。
「その妹はなんていう名前なの?」
少し震えた声で姉に聞いた。
「名前は忘れたけど剣道してる子だってよ。気が合うんじゃない?」
ほとんど確定だ。最後に姉に
「てことはその子と義理の関係になるってこと?」
姉は
「義理というかもう家族になるんじゃない?w」
全く言っている意味がわからなかった。
姉は続けて
「私たち同居するの!けどあっちも同じような境遇で挨拶とかできてないし。しかも向こうも2人で暮らしてるらしいから碧も含めて同居するの。向こうの妹ちゃんも含めてね」
聞いた瞬間心臓が張り裂けそうになった。初恋は実らないのではなかったのか。初恋相手とこんなチャンスがあっていいのか。姉に「わかった」とだけ返し自室に戻った。いろんな想いが交差したが一つ言えるのは奇跡というものはこういうものなのかということ。けど何も考えたくない。だから今日はすぐに寝た。明日何時に来るのか、同居はいつからするのか。色々聞かなければいけないことがあったもののあまりにも現実離れした現実に逃げ出したくなったので一瞬で寝た。本当にすぐに寝た。




