大胆&焦らしの合わせ技
ある日の放課後。
私たちは図書室で行われる試験に備えての勉強会をしていた。
…といっても私の頭には数式はおろか問題文さえ一文字も入ってこない。
なぜなら。
(…近いのよ。近すぎるのよ!)
隣に座るアルバの肩が私の肩に時折ちょこんと触れる。
彼女は真剣な顔で問題を解いているけれど、その真剣な眼差し、長い睫毛、シャープペンが当てられた唇ーーーその横顔があまりにも綺麗で…。
私は赤面しながら教科書をぎゅっと握りしめた。
「…リリィ?惚けてどうしたの?どこか分からない?」
「ひゃいっ!?」
突然、アルバが私の手元を覗き込んできた。
ただでさえ近い距離がもっと近付く。
私の解いている問題を確認するようになぞるアルバの手がたまたま私の手に触れる。
すらりとした指先。
そこから伝わる体温に私はドキドキが止まらない。
(なによ…!?サキュバスの私をここまで動揺させるなんて…あんたくらいなんだからねっ!?)
私が心の中で負け惜しみ?のような大きい独り言をしている間、アルバが私の真っ白なノートと私の持つ教科書と広げている問題集を見て首を傾げている。
難解な問題に出会ってしまったと言わんばかりの表情だ。
そんな顔まで綺麗だと感じさせるなんて卑怯だとさえ思う。
「…リリィ。国語の教科書見ながら数学の問題は解けないんじゃないかな?しかも…それ、歴史のノートじゃない?」
「そんなの分かってるわよ!」
私は言われてばんっと教科書を机に叩きつけた。
誰のせいで今まで集中できないと思っているのか。
…いや、集中できてないのは自分だけど。自分だけど!
アルバはお茶目だなぁと微笑んでいたが、ふと私の開かれた教科書のページに目を向けた。
そこには古典の恋の歌集が集められていた。
「そういえば…ねえ、リリィ」
「こ、今度は何よ?」
「…君はどんな人がタイプなの?」
アルバが私をじっと見つめた。
いつも通りの穏やかな声。しかし、その瞳の奥には祈るような、だけど、どこか怯えるような色が混ざっている気がしたが、アルバに不意打ちを受けた私はそれどころではない。
口を尖らせ、人差し指を自分の前でつんつんさせながら、しどろもどろに答える。
「た、タイプ?そ、そうね…その…なに?私としてはっ?た、例えばよっ?」
私はちらりとアルバを見た。
「その、綺麗で…笑顔が素敵でっ?モテるんだけど、本人はそんなこと気にしてなくてっ?大胆で…私の予想外のことしてきたりなんてして!?それでいて、包容力があって…!」
「…なんだか、具体的だね?」
「そ、そんなことないわっ!!!」
私は必死に否定する。
が。
確かにおかしい。
思いつくまま並べてみたはずなのに途中からだんだんと目の前にいる“彼女”のことを羅列するだけになっていたような…。
なんだか私の言葉に考え事したアルバは何か思い付いたのか、更に私の方へ身を寄せた。
逃げ場のない机の端。
彼女の瞳がなんだか熱を帯びたように私を射抜く。
「…じゃあ、試してみようかな?」
「えっ!? な、何を…?」
「それは“大胆で、予想外のこと”?…リリィがそういうのが好きだって言うから」
アルバの手が私の頬を包み込むように触れた。
図書室の静かでどことなくひんやりした空気の中、彼女の指先だけが熱を感じさせる。
彼女は私の耳元に顔を寄せると、吐息が触れるほどの距離で騎士が愛を誓うような甘く低い声で囁いた。
「大胆で予想外なこと…もっとしてもいい?」
「あ、アルバ…わ、私…そのっ…ちょ、ちょっと待っーーー」
心臓の高鳴りも最高潮で私はこれからアルバにされることを妄想して水が沸騰しそうな程の熱い顔のまま、ぎゅっと目を閉じる。
しかし、待てども何も起きない。
あれ?と私がおそるおそる目を開けると、少し照れた様子のアルバの姿。
「…なんて。君を誘惑するのは私にはまだ荷が重いかな?」
「~~~~っ!!?」
頭の中で何かが真っ白に弾け飛んだ。
(これで自覚なしなんて…存在が罪すぎないっ!?)
いつもは“王子様”みたいに澄ましているくせにこういう時にはずるい。
荷が重いですって?
いつも十分すぎるくらい…なんなら、いつでもオーバーキルよ!?
そして、私はぼそりと呟いた。
「…あんた、性格悪いんじゃない?」
「…えっ!?そうなの!?」
なにやらショックを受けている彼女に私は悔しくて、だけど愛しくて、彼女の肩を弱々しく一度ぽかりと叩くことしかできなかった。




