天然たらしの真髄
まさか。
そんなはずはない。
学園一のモテ男であるアルバ・ラングレイが“女”だなんて。
私はどうにか彼女の部屋から抜け出して自室へ戻り、眠れない夜を過ごしている。
…でも、もしそうなら?
私が彼女にときめいてしまったのはサキュバスの“精気を吸う本能”ではなく、もっと別の抗いがたい何かのせいだというの…!?
私はわなわなと震える。
「…確かめてやるわ。もし女なら、私の“魅了”が効かないのも道理だもの!」
一夜明け、私は一睡もできないまま教室の席にいた。 目の前では今日も今日とて“学園の王子様”ことアルバが女子生徒たちに囲まれて爽やかに微笑んでいる。
(…女の子。あいつが私と同じ“女の子”?…というか、私、あの子の胸を触っちゃったのよね!?)
思い出すだけで顔から火が出そうだ。
学園一のモテ女を自称している私がこのザマ。
これはよろしくない。
私は意を決して、昼休みに中庭の隅へとアルバを呼び出した。
「…リリィ、改まってどうしたんだ? そんなに真剣な顔をして」
アルバは相変わらずの整った顔で私を見つめる。
私は周囲をきょろきょろと見渡し、声を潜めて切り出した。
「あの…聞きたいことがあるんだけど。アルバ、あなた…本当は…その…女の子、なのよね?」
私はおそるおそるそう言う。
下手すれば空気が凍りつくかと思った。
しかし、アルバは、え?と拍子抜けするような声を出し、不思議そうに首を傾げた。
「…うん。そうだけど…それがどうかした?」
「…はぁ?」
「んん?」
私はお互いに聞き返す。
アルバがあまりにもあっさり返答したため、私の思考はフリーズする。
「い、いや、どうかしたのかじゃないわよ! 学園の皆、あなたのこと“王子様”だの“理想の男性”だの言ってるじゃない!? 男装して、性別を偽って入学したんじゃ…」
私がそう言えば、アルバはきょとんとした。
そして、首を横に振る。
「いや、偽ったつもりはないよ。入学願書の性別欄にもちゃんと“女”って書いたし」
「えっ」
「制服はスカートが動きにくいからズボンにしたいって言ったら、教官が納得してくれたんだ」
どうやらアルバの家系が騎士の名門すぎて、教員側が勝手に“深い事情がある男装”だと解釈して、性別を確認すること自体を“無礼なタブー”として封印してしまったようだ。
絶句する私をよそにアルバは微笑んだ。
「そうか、君は知らなかったんだね」
私の頭をぽんぽんと優しく撫でる。
「驚かせてごめんね。…女の子同士だと知って、僕のことが嫌いになった?」
そう言って、彼女は少しだけ不安そうに捨てられた子犬のような瞳で私を覗き込んできた。
…これはずるい。
女の子だと知った後でも、その仕草は破壊力抜群だ。
「…き、嫌いになるわけないじゃない。むしろ……」
「むしろ?」
「…なんでもないわよ! バカ!」
私は彼女の手を振り払って背を向けた。
知らなかった。
男の子だと思って落とそうとしていた時よりも、女の子だと知ってしまった今の方が彼女の天然たらし具合が心臓に毒だなんて。
(性別なんて関係ないじゃない。あんなの…反則だわ…!)
私のプライドはもはや“彼女への恋心”へと完全に作り変えられようとしていた。




