一人目はプレゼントをくれず、二人目は他の女に貢ぎ、三人目は‥‥‥公爵令嬢の恋物語
「いやぁーーーーーーーーーー」
エフェリーヌ・ルテル公爵令嬢は婚約者ルディアス・アテル伯爵令息が事故で死んだと聞いて、ショックのあまり倒れた。
昨日、会いに来てくれて、将来の事を話し合ったばかりではなかったのか?
黒髪黒目のルディアス。
美男ではなかったけれども人の好い笑顔を浮かべて、いつも領民の事を思っていたルディアス。
そんなルディアスの話を聞くのが好きだった。
互いに12歳の頃に結ばれた婚約。
婚約して2年間、幼いながら、ルディアスと交流をしてきた。
幼いルディアスはエフェリーヌに話をする時にいつも、
「どうしたらアテル伯爵領が潤うだろうか。領民たちが喜ぶだろうか。私はいつも考えているよ」
「尊敬するわ。ルディアス」
彼のキラキラした瞳を見るのが好きで。
本当に楽しかった2年間。
そう、たった2年間でルディアスは亡き人になってしまったのだ。
葬儀でエフェリーヌは泣きに泣いた。
棺に縋って泣いた。
泣いて泣いて泣いて。
涙が枯れ果てるまで泣いた。
そんなエフェリーヌを両親と幼い弟が慰めてくれた。
それでも、傷は癒えなくて。辛くて辛くて悲しくて。
エフェリーヌは14歳で、ルディアスという婚約者を失ってしまった。
あっという間に、3年間が過ぎて、エフェリーヌが17歳になった現在。
「エフェリーヌ、金を貸してくれないか?」
また、金の無心をしてきた。ファルト・ジェトス公爵令息。
ファルトはそれはもう、美しき金の髪に青い瞳の歳は17歳の男性だ。
王立学園でエフェリーヌ・ルテル公爵令嬢。銀の髪に青い瞳のエフェリーヌと美しきファルトとは、15歳の時に婚約が結ばれた。
ルディアスを亡くしてすぐに、うちの息子ファルト婚約してくれないかと、名乗りをあげてきたのがジェトス公爵。
ジェトス公爵は、
「歳も同い年、家格もつり合いが取れているし、どうかね?」と、ルテル公爵であるエフェリーヌの父に話を持ち掛けてきた。
ルテル公爵は、ジェトス公爵と仲が良かったわけでもない。
まして、ファルトについて、良い噂を聞かなかった。
勉強も好きではなく遊び歩いているというのだ。
前に伯爵令嬢の婚約者がいたが、ファルトの我儘で婚約解消になった。
そんなファルトと婚約の話が持ちあがった。
この王国の令息令嬢達の婚約年齢は低い。
だから、今更、つり合いの取れた良い縁が見つかるとは思えない。
ファルトに会ってから決めようと、両親に言われて、ジェトス公爵家に出向いたエフェリーヌ。
あまりの美しさに一目惚れをしてしまった。
柔らかな金の髪。透き通る青い瞳。
「ファルトです。エフェリーヌ。よろしくね」
手を差し出されて思わず手を握り返してしまった。
エフェリーヌは両親に頼んで、
「わたくし、ファルト様と結婚したいわ」
「しかしだな」
「お願いお父様、お母様」
ファルトと婚約することになった。
王立学園に通うようになって、3年間の付き合いで、だんだんファルトから金の無心をされることが増えてきたのだ。
「愛しいエフェリーヌ。金を借りたいんだが」
「何にお使いになりますの?」
「君にプレゼントをする首飾りを買うためのお金だよ」
「それなら、ジェトス公爵様から出して貰えば」
「君にふさわしい高い首飾りを買いたいんだ。だから、ね?愛しいエフェリーヌ」
木陰に連れ込まれて口づけをされた。
耳元で囁かれる。
「愛しているよ。愛しいエフェリーヌ」
エフェリーヌは自分の小遣いから金を貸してしまった。
翌日、ファルトは首飾りをプレゼントしてくれた。
大きなエメラルドがついた首飾り。
「綺麗だろう。高かったんだ。君がお金を貸してくれたから、返せるときに返せばいいかな」
「ええ、返せる時でいいわ。なんて綺麗」
ぴかぴか輝いて綺麗なエメラルドの首飾り。
自分の為にこんな高価なものを?
嬉しかった。凄く嬉しかったのだ。
ファルトが顎に手を添えて、口づけしてくれた。
「美しい君に似合っているよ。そのエメラルドの首飾り」
「有難うございます。ファルト様」
家に戻って、母親に首飾りを見せたら母親が、
「これは偽物ね。それもかなり安いガラスで出来ているわ。でも、精巧につくられているから普通に見たら解らないわね。ファルトから貰ったのね?」
「ええ、本当に偽物ですの?お母様。ファルト様が騙されて買ったのかしら」
「公爵家となれば、貴方も知っての通り、しっかりとした店と取引するはずよ。それなのに。あの男にお金を渡していないでしょうね」
「わ、渡してはいないわ。お母様」
思わず嘘を言ってしまった。
ファルトが安物の首飾りを?
プレゼントしてくれるっていうからお金を貸したのに。
翌日、ファルトに聞いてみた。
「あの、あの首飾り‥‥‥」
「気に入ってくれたかい?苦労して選んだんだ。君がお金を貸してくれたお陰で買えた素晴らしいものだよ」
「そ、そうね。とても嬉しいわ」
ファルトにキラキラした瞳でそう言われると何も言えなくなった。
ファルトはエフェリーヌに、
「言いにくいんだけど、お金を又、貸してくれないかな。今月苦しくて」
「またなの?お父様に頼んでお金を出して貰えないの?」
「父上には言いにくくて。エフェリーヌは優しいだろう。だから、頼みやすいんだ。お願い」
エフェリーヌは自分の小遣いからお金を貸した。
ファルトは嬉しそうに財布にお金をしまって、
「有難う。エフェリーヌ。愛しているよ」
エフェリーヌはそれからも、ファルトに頼まれたら頼まれただけお金を貸してやった。
今まで貯めていたお金も持ち出して、ファルトの為にお金を差し出した。
ファルトが愛しているって言うから。
手を繋いで、高級レストランに連れて行ってくれて、貸し切りで素晴らしい料理をご馳走してくれた。
「君がお金を貸してくれたから、こうして美味しい料理が食べられる。有難う。エフェリーヌ」
にこにこしながらそう言われると、お金を出してよかったと思ってしまう。
エフェリーヌは、
「ここのステーキ、美味しいですわね。ファルト様が喜んでくれてよかったですわ」
ファルトが愛してくれて、こうして喜んでくれて、もっともっとお金を貸してあげなければ。
そう、ファルトが返してくれるって言っているもの。貸しているだけよ。
そんなとある日、母親に呼ばれた。
「貴方の事を調べさせたの。ファルトの事も。お金を出しているわね?エフェリーヌ」
「お母様。貸しているだけよ。ちゃんと返して貰うわ」
「そのお金、どこへ行っていると思っているの?ファルトが夢中になっている、フランソワ・ミッテル伯爵未亡人に貢いでいるのよ」
「えええっ?貢いでいる?」
「ええ。貴方が出したお金をね。貴方、騙されているわ。お金は戻って来ないわよ。そういえば、貴方の元婚約者、ルディアス・アテル伯爵令息の事故死の事なんだけれども、それも改めて調べたの。そうしたら不審な点が出て来て。馬車に細工がされていたそうよ」
ルディアス…
ルディアスの事は愛していた。
ただ、彼は幼かったので、プレゼントはアテル伯爵家からくれるはずなのだが、アテル伯爵家はケチだった。
「贅沢は敵だ。そのお金は領民の為に使うべきだ。だから君へのプレゼントはあげられない。ごめんね」
彼の領民思いの所は好きだった。
アテル伯爵家は事業で成功していて大金持ちだったけれども、ルディアスは贅沢をするような性格でもなく、プレゼントはあげられないと、そう言われた。
ルディアスの笑顔がとても好きだった。
でも、彼が選んだというプレゼントが欲しかった。
女の子ですもの。好きな男性からプレゼント位欲しいわ。
そんなルディアスが馬車の事故で亡くなったと聞いた時、ショックを受けた。
ちょっと不満のあった婚約者。
でも好きだったから、葬儀の時は人目をはばからず泣いた。
そして、新たに決まった婚約者ファルト。
ルディアスは普通の顔だったけれども、ファルトは美しくて、そしてプレゼントも豪華な物をくれて。
偽物のエメラルドだって、きっと本物と思ってどこかで買ったに違いないわ。
高級なお食事にだって連れて行ってくれるし。
ルディアスに対して思っていた不満がファルトで満たされていたというのに。
それなのに、疑わしい点?ルディアスは誰に殺されたの?
まさか???
母は頷いて、
「ルディアスが亡くなった後、ファルトの妹が、ルディアスの弟と婚約しているのよ。そして、貴方にはファルトが。ジェトス公爵家に取って、ルディアスが亡くなる事は得することだったのでしょうね」
あんなに領民の為にアテル伯爵領の為に、夢見て勉強していたルディアス。
その彼が殺された。
それも、ジェトス公爵…おそらく公爵に。
金使いの悪いファルトを自分に押し付けて、ファルトの妹をアテル伯爵家に嫁がせて利を得る為に?
許せない。許せないと思った。
父が母の傍にやって来て、
「どうする?お前はファルトに騙されて、金を貢いでいた。婚約破棄をするか?」
母は扇を手に、
「甘いですわ。それなら、しかるべきところに頼んで制裁を加えるべきですわ」
「変…辺境騎士団か?屑の美男を教育するという。ファルトの奴は美男だ。やつらにさらわせるか?」
母はホホホと笑って、
「メリア・カルディウス公爵夫人に頼むのがよさそうね。わたくし、彼女と仲がいいのよ」
「メ、メリアにか??」
エフェリーヌは思った。
そういえば、母はカルディウス公爵夫人と仲がいい。地味な感じのそれ程、華やかではない公爵夫人。
父は眉を寄せて、
「娘を馬鹿にされたんだ。いいだろう。お前から頼むがいい」
エフェリーヌは母に言われた。
「貴方、ファルトに未練はない?メリアに頼むけどいいかしら?」
ファルトは自分を裏切って、未亡人に金を貢いでいたのだ。
エメラルドだって偽物で。高級料理店だって、結局はエフェリーヌの金で‥‥‥
ルディアスは政略により殺されたのだ。
ルディアスから愛は感じなかったけれども。
領民の事ばかり考えていたけれども。
でも、彼と話をしているととても楽しくて。
いつか心が繋がればいいと思っていた。
ファルトからのプレゼントは嬉しかった。
愛していると囁かれるたびに心がときめいた。
でも、彼が夢中になっていたのは、未亡人の女。
許せない許せない許せない許せない許せない。
母に向かってにこやかに、
「わたくしが愚かでした。お母様にお任せしますわ」
「それなら、メリアに頼むわ。変…辺境騎士団に頼んだってお金にならないじゃない?貴方が貢いだ分以上に返して貰わないと」
ファルトがどうなるのか……
母が目を細めて微笑んだのが怖かった。
でも、わたくしを裏切っていた男を許せない。
わたくしが本当に愚かだった。
本当に許せない。憎くて仕方が無い。
地獄に落ちろ。そう思えた。
ファルトが行方不明になった。
人々は変…辺境騎士団にさらわれたのではないかと噂した。
ファルトはそれはもう変…辺境騎士団が好みそうな、金髪に青い瞳の美しい男だったから。
しかし、ファルトは‥‥‥
エフェリーヌは母と一緒に、カルディウス公爵家に向かった。
夫人のメリアが夫のマーク・カルディウス公爵と共に出て来て、
「お約束の物を確認致します?ルテル公爵夫人。それからエフェリーヌ・ルテル公爵令嬢」
母、マーガレット・ルテル公爵夫人は、
「マーガレットといつものように呼んで頂戴」
「今日は友としてではなく、仕事として対応しておりますわ。ね?あなた」
口ひげを蓄えた、カルディウス公爵も頷いて、
「取り分は、こちらが3割、そちらが7割でよいですかな」
母は頷いて、
「ええ、よろしくてよ。ファルトを見せて頂戴」
「では地下室へ」
エフェリーヌは不安に思った。
地下室にファルトがいるの?行方不明になったファルトが。
檻に入って縛られていた。
ファルトは目隠しをされていて。
メリアはちらりとファルトを見つめながら、
「娼館に売り払いますわ。隣国の。これだけ美しければ、さぞかし稼げるでしょう」
ファルトは叫んだ。
「誰かっ。助けてくれ。私はジェトス公爵家の息子だ。父に言えば金を出してくれるはずだ」
エフェリーヌはファルトに向かって、叫んでいた。
「お金は返して貰うわ。貴方、わたくしを騙していたのね。しっかりと稼いで返して下さいな。愛しているだなんて嘘ばかり。本当に酷い男。貴方なんて大嫌い。大嫌いだわ」
「エフェリーヌっ???悪かった。助けてくれっ」
聞きたくない。もうこの男の声を聞きたくない。
この男の家のせいで、殺されたルディアス。
この男に利用されてお金を貢いでしまった自分っ。
頭がごちゃごちゃで。胸が苦しくて。
メリアに向かって、
「もう、いいわ。もう聞きたくない。もう見たくないっ。もうっもうっ」
母が優しく後ろから抱きしめてくれた。
「さぁ、帰りましょう。これからの事は一緒に、考えましょう。このような男の事は忘れて。いいわね?」
母に抱き着いて、泣いた。
そして、ファルトに向かって、最後に、
「さようなら。ファルト様。貴方の事は大嫌い。わたくしは貴方の事を忘れます」
ファルトは隣国の娼館へ売り渡したと、メリアから報告があった。
ジェトス公爵から、
「息子が行方不明になったので、婚約解消をしたい」
と話があった。思いっきりこちらを疑っているようだったが、メリアの夫、マーク・カルディウス公爵に、何かを囁かれたら黙りこくってしまい、何も言ってこなくなった。
弱みを握られているのだろう。
もう、つり合いの取れた家柄の人と、結婚は出来ない。
そう諦めていた所、王弟から、後妻にどうかという話があった。
歳は10歳年上の27歳。
黒髪碧眼の王弟は、妻を病で亡くしていた。
王弟カイド・キャドル大公は、エフェリーヌを見るなり、
「こんな若くて美しい女性が私の妻になってくれるなんて、私は果報者だ」
そう言って、エフェリーヌに色々とプレゼントしてくれた。
本物のエメラルドの首飾りや、ルビーがついた腕輪、キラキラした金のティアラ等。
エフェリーヌに会うたびに、薔薇の花を持ってきてくれて。
「結婚するのが楽しみだ。美しいエフェリーヌ」
そう言って褒めてくれた。
エフェリーヌは幸せで、ルディアスを失った傷や、ファルトに裏切られていた傷が癒えていく気がした。
今度こそ、幸せになれる。
そう信じていたのに。
とある日、カイドの屋敷に突然、訪ねて行った。
丁度、近くに来る用事があったので。
門の中に馬車を入れて貰えば、先客がいた。
そう、あの紋章は。
フランソワ・ミッテル伯爵未亡人。
鮮やかな金の髪に、胸が開いたドレスを着て。妖艶な魅力で社交界に君臨する毒の花。
そんな彼女がカイド様に?
客間で待たせて貰う。
なかなか、カイドは現れなかった。
メイドに向かって、
「わたくしはカイド様の婚約者です。カイド様はわたくしをいつまで待たせるつもりかしら」
メイドが頭を下げて、
「申し訳ございません」
廊下で喧嘩をしている声がした。
「もう少し、ベッドで楽しみましょうよ」
「婚約者が来ているんだ。だから、あまり待たせるわけには」
「わたくしはもっと貴方とイチャイチャしたいわ」
廊下に出れば、あの女とカイドが言い争っていた。
女は乱れたドレスを着て、カイドに縋りついている。
カイドはガウン姿で、廊下を歩いていて。
エフェリーヌを見るなり、
「すまない。ちょっと寝ていてね。こんな格好で」
女、ミッテル伯爵未亡人フランソワは、カイドの身体に腕を絡めて抱き着きながら、こちらをちらりと見つめ、
「今までベッドで楽しんでいたの。いきなり訪ねてくるだなんて失礼よ」
あの女がっ。ファルト様を誘惑して搾り取るだけ搾り取って。
今度はカイド様まで手を出して。
どこまでわたくしを馬鹿にしているのかしら。
エフェリーヌは、ミッテル伯爵未亡人の前に出て、
「貴方、失礼よ。わたくしの婚約者なのよ。カイド様は。それなのに。カイド様もカイド様よ。何故、この女と?」
カイドは慌てて謝って来た。
「申し訳ない。この女とは前から身体の関係があって。でも、遊びだ遊び」
ミッテル伯爵未亡人は口端を引き上げて、にんまり笑い、
「貴方みたいなお子様は、王弟殿下にふさわしくないわ。私が貰ってあげる」
「ば、馬鹿にして。わたくしはルテル公爵家の娘よ。貴方は伯爵家の未亡人。場を弁えなさい」
「なんで私が場を弁えなくてはならないの?」
「カイド様だけでなく、ファルト様まで誘惑したでしょう。どれだけわたくしを馬鹿にしたら気が済むの?」
「偶然よ。偶然。私は色々な男性と褥を共にしているの。だから偶然だわ」
「許せない」
「まぁ怖いっ。助けてカイド様っ」
カイドはエフェリーヌに、
「フランソワは悪気はないんだ。ただただ、色々な男と遊びたいだけだ」
涙が零れる。
こんな女の為に、わたくしは沢山泣かされてきた。
カイド様となら、幸せになれると信じていたのに。
カイド様となら‥‥‥貴方は庇うのね。わたくしなんかより、この女がいいのね。
バンと扉が開いて、四人の男達が入って来た。
無言で、カイドを簀巻きにすると、
「我らが辺境騎士団。王弟殿下を貰って行く」
猿轡を嵌められて、カイドは連れ去られていった。
ミッテル伯爵未亡人は、喚きたてて、
「ちょっとっ。何するのよーー。王弟殿下をさらってただですむとっ」
金髪美男の騎士団員がにこやかに、
「俺達はどこの王国にも属していないんでね。屑の美男は教育対象だ。じゃあな」
未亡人が掴みかかろうとしたら、触手が一人の男から飛び出て来て、弾き飛ばされた。
「ちくしょうっーーーー。私のカイド様をっ」
般若の形相でぎりぎりと怒りまくるミッテル伯爵未亡人。
エフェリーヌは背を向けて、部屋から出て行った。
自分が連絡した訳ではない。
彼らがかぎつけてきたのだろう。
三度も恋をして、三度も敗れて、縁が無くて。
いつか、ちゃんとした人と恋が出来るのかしら。
貴族だからそういう訳にもいかないのだろうけれども。
フランソワ・ミッテル伯爵未亡人は、あれから一月後、一人の令嬢に胸を刺されて、命を終える事になる。
恨みをあちこちに勝っていたので、こうなって当然だろうなと人々は噂した。
エフェリーヌは王宮の廊下を用事があって一人で歩きながら、
あの人らしい最後ねと、ぼんやりと思った。
「エフェリーヌ・ルテル公爵令嬢?」
背後から声をかけられた。
幼馴染の公爵家の令息だ。隣国に留学に行っていて、帰って来たのだ。
隣国の方が色々と進んでいるので、エフェリーヌの弟同様、婚約者も決めずに留学してしまう貴族が何人かいた。
彼もその一人だ。
彼とこの後、交流を深め、二年後に結婚する事になるとはつゆ知らず。
懐かしい幼馴染との再会に、
「少し、話をしたいわ。隣国について聞かせて」
「ああ、色々と話をしよう」
新たな恋の始まりになるとはつゆ知らず、エフェリーヌは懐かしい幼馴染と共に、王宮の中にある貴族専用カフェに向かうのであった。
とある晴れた春の日の出来事であった。
桜の花びらが二人の出会いを祝うように、王宮の庭で舞っていた。




