死人
登場人物
誠…主人公
千沙…嫁
慧…親友
「よお誠。元気してた? 」
そう言う男性の顔には見覚えがあった。
「お前、もしかして、」
「どうしたよ、急に泣き出して」
目の前には死んだはずの親友が立っていた。
「にしてもびっくりしたわぁ~。俺見た瞬間泣き出して。え、何? 酒入っとる? お前泣き上戸やなかったよな?」
「ほっとけ。こっちにも事情があんの。」
「あっそ」
素っ気ない会話をしつつも、本心ではとても感動していた。
この男は俺の小学校からの親友、山口慧。
前の世界では暴力団の抗争に巻き込まれて死んだんだよなぁ。
こっちの世界では生きていてなによりだ。というかめっちゃ嬉しい。
「お前、仕事何しとん?」
こいつ、こっちでは何をしているんだろう。
「んー? 前も言わんかったっけ。弁護士やっとる」
べ、弁護士!? 前の世界ではフリーのイラストレーターだったこいつが、弁護士!?
「お前は? 」
はあーっ。立派なもんで。
「おーい、誠~? 」
というかこいつが弁護士とか世も末だろ。
「誠!!!」
「うおぉぉびっくりしたぁ」
「びっくりしたじゃねえよ。さっきから呼びかけとるわ」
「すまんすまん。何の話だっけ」
「お前今仕事何してんの?」
げ、この質問が一番嫌いなんだよなぁ。
「…専業主夫」
「相変わらずだなぁお前も。稼ぎは千沙さんの?」
「そう。で、家事全般は俺。」
「変わってるよなぁお前んちも」
「ほっとけ」
慧はニヤニヤ笑っている。本当にこんなやつが弁護士なのは解せねぇな。
その後一時間ほど他愛もない会話をした。
別れ際、慧はこんなことを言ってきた。
「なあ。お前、パラレルワールドって信じる? 」
「は」
戸惑いぎみに返事をすると、慧はわざとらしい笑みを浮かべて言った。
「あ、いや。やっぱ何でもない。じゃ、またな」
「お、おう」
慧の後ろ姿が見えなくなると、俺は深くため息をついた。
最後のあの質問。突然すぎて答えられなかったが、あいつもパラレルワールドから来たのか?
その可能性はあるな。
俺とあいつ。共通点は、どちらも前の世界では死んでいる、という点。
もしやあっちで死んだらこの世界に行き着くのか。
いやでも嫁はまだ死んでない…はずだ。
今度慧に会ったら聞いてみよう。
「お前、一回死んだよな?」
次回もお楽しみに。




