火の粉来る
登場人物
誠…主人公
千沙…嫁
朝早く、スマホがすさまじい音量で震えている。
「んだようるせぇ」
画面を見ると、黒背景に赤字ででっかく「空襲 ニゲロ」と書かれていた。
空襲? 空襲……。
空襲!?
そういやこの世界今戦争してんだった。
ってか空襲ってあれだよな。爆弾が降ってくるやつ。
ど、どうしよう。とにかく地下室に避難? いや、この家に地下室なんてねぇ。
慌てていると嫁が部屋にスッと入ってきて言い放った。
「アンタそれ、鹿児島の警報でしょ。ここは名古屋よ。全く、こんな朝っぱらに起こさないでよね」
確かに画面の上の方に「対象地域:鹿児島C地区」と書かれていた。
「あ、言われて見れば確かに」
「でしょ? ちゃんと目を使いなさい。その顔に二つついてるのを機能させなね」
そう言うと嫁は眠そうに部屋へ戻っていった。
こっちの世界でも毒舌だなぁ。
我が家の役割分担は、俺が家事、嫁が仕事だ。
周囲からは未だに変だと言われるが、多様性に免じて放っておいてくれと思う。
この前スーパーへ買い物に行ったら、確かに米が信じられないほど高かった。我が家の経済事情ではとても買えまい。何せ五キロ買えば万札が一枚確実に飛んで行くレベルだ。
パラレルワールドではこんなことになってるのか。どこでどう分岐したのかねぇ。
そんなわけで我が家の主食は基本的にパンか麺だ。
パンも麺も元居た世界より圧倒的に高い。
だがしかし、こんなに何もかも高いと、金銭感覚が少々狂い始める。
もう気にするのをやめた。
戦争中といえど、あまり前の世界と生活は変わらない。
普通に前の世界の感覚で生きているから、たまに来る空襲警報には毎回ド肝を抜かれる。
この前、この地区でも空襲があったが、物凄い爆弾の音が地上から聞こえ、かなり怖かった。
そして、地下鉄の頑丈さに感動した。
地下鉄ってあんなに頑丈なんだな。
地上は酷いありさまだった。歴史の教科書に載っている写真と何もかもが似ている。
戦争って恐ろしい。
次回もお楽しみに。




