誠、死す
登場人物
誠…主人公
「やっ、やべぇぇ!!! 嫁に殺されるぅ~ !!! 」
俺は今、二十五年間生きてきた中で最も急いでいる。
飲みに行く前、散々嫁に、「帰る時間が十二時まわるなら連絡してね」と言われたのに。言われたのに !!!!
気が付いたら一時を過ぎていた。さっさと帰ってさっさと土下座せねば。
走っていると、ふと地面が目に入った。コンクリートの地面に白の線と黒の線が交互になっている。
…ここ横断歩道じゃねえか。歩行者用の信号は赤く光っている。
まずい。無意識に信号無視しちまった。右を見ると、大型のトラックがものすごいスピードでこちらへ向かってきている。
あ、死ぬわ。本能的にそう思った。トラックに轢かれて死ぬとか異世界に転生できそうだな。はは。
身体は高く吹っ飛んで、俺の意識も途絶えた。
目が覚めて、若干黄みがかった天井が目に入った。
…目が覚めた? 絶対死んだだろ俺。
と、いうことは。
「いよっしゃぁぁぁ!! 異世界転生キター !!!」
喜んだのも束の間だった。
あたりを見渡すと、普段通りの俺の家だった。
鏡を見ても、俺の姿があった。転生後の新しい姿ではない。飲み過ぎて顔色の悪い、ボサボサな黒髪の、いつもの俺の姿だった。
「いや夢かい。」
思わず声が漏れた。
せっかく異世界転生できたと思ったのに。
だがしかし、妙にリアリティのある夢だった。なんかこう、実際に経験したことがあるような。
いや、気のせいだろう。きっとまだ寝ぼけているだけだ。
嫁は今仕事に出掛けている。
「…コンビニでも行くか。」
どうせなら、一人を堪能してやる。
玄関の扉を開けた先は、まるで異世界だった。
駐車場だった場所は焼き焦げて更地に、向かいの家は屋根が今にも取れそうになっている。
「は…」
俺が寝ている間に一体何があったんだ。
そうだ、もしかしたら何年も寝ていた可能性は…。
そう思いスマホで日付を確認したが、画面にははっきりと「2042年3月6日」と表記されていた。
一日で近所がこんな大惨事になるかよ。
ニュースサイトを開き、直近の記事を漁る。
一番初めに目に止まったのは一ヶ月前の「第三次世界大戦開戦」という記事だった。
「第…三次世界、大戦?」
こんな出来事はなかったはずだ。いや、俺がまだ寝ぼけてるだけか?
そんなはずない…はずだ。
ここは、本当に俺の知っている現実世界か?
次回もお楽しみに。




