57 子供たちの未來
藍方星。
露見の泉。
ゲイルは肩をすぼめる。
深く息を吐き出す。
「まったく……、
お前はとんでもないお人好しだな。
しかしながら、
それは長所でもある。
もう自分を責めるな……」
思いがけない慰めの言葉……、
ヒミコン、不意打ちを喰らう。
ほろり、涙を落とす。
ゲイルは淡々と告げる。
「では次に、
表陽・未來予見図を見せてやろう。
これは甥と姪、もうひとつの選択肢である。
彼らに育ての親があてがわれている。
つまり、
別人物が母親代わりになっている。
岩沼マコの影響が薄らいだ未來である」
シップは頷く。
「さあさあ、ヒミコンよ、
共鳴の泉を覗き見よ。
ブンタとチカ、
彼らのもうひとつの未來……、
確認せよ」
シュンッ、
一同、共鳴の泉に移動した。
くるり、
ゲイルは右手の人差し指を回す。
ぽわん、
小さな青蓮華を咲かせた。
その指先、共鳴の泉に差し向ける。
淡い光を放射した。
ぶわああ~ん……、
共鳴の泉の水面が揺れる。
映像、浮かび上がった。
……表陽・未來予見図、十三年後影像。
……どこかの一戸建て。
ブンタとチカが食事をしている。
あれ……?
その表情、穏やかだ。
さっきとはまるで別人だ。
邪悪陰険さを感じない。
どこにでもいる普通の中高生だ。
……純朴だ!
澄んだ目をしている!
Ⓖゲイル、
「どうだ?
傲慢卑屈の感情、薄らいでいるだろう?
謂わば、普通の青年に育った姿といえる。
この程度であれば、
他者に対して卑劣行動は起こさないだろう」
Ⓢシップ、
「うむ、そうだな。
子供の人格形成には家庭環境が重要である。
親の性質が悪影響を及ぼすのだ」
Ⓒクロス、
「それも特に幼少期!
粗悪な親の性質の影響、
存分に受けるゼ?
虐待、ネグレクト、過度な偏愛……、
若いフェイトギアは容赦なく蝕まれるんだヨ」
Ⓢシップ、
「それゆえ、
人格形成の勝負時期、
生後から九年間だと云われている。
この期間に良き環境を与えることが重要だ。
未來を修正できる可能性が高まるのだよ」
Ⓔイレーズ、
「ん、そういうこと。
環境変われば未來も変わる……、
それって、よくある話だよね?」
ゲイルは続ける。
「では予見を述べる。
魔導師・ヒミコン、
三月十日、裏陰魔術を行使する。
岩沼夫妻と対峙し、
ラストオイルを噴射する。
しかし案じるな。
後々、甥と姪には掬いが差し伸べられる。
新たな生活環境が与えられるだろう……」
シップは諾う。
「その通りだ。
母親・マコの影響が薄ければ薄いほど良いのだ。
彼らはまともに成長できる。
この先の未來、社会の一員として、
世に貢献することができるだろう」
ゲイルは付加する。
「自殺したジュン……、
不登校のカレン……、
彼らの未來は変わる。
世界を股にかけて活躍するだろう」
Ⓗヒミコン、
「ほっ、本当ですか?」
ぼそり、
イレーズは釘を刺す。
「あ!
そういえば、あんたさあ……?
マコと共に自分にも処罰を与えて……!
なーんて……?
未來王に向かって祈っていたけどさあ?
そんなのさ?
あんたが願うべきことじゃない。
未來王が決めることだよ?
厚かましすぎ」
Ⓗヒミコン、
「ああ……、(バレてる)
申し訳……、ありません……」
ニヤリ、
クロスは口角を上げる。
「王のジャッジメントはァ?
基本的に『個』なんだヨ!
先祖、子孫、家族、兄弟、姉妹……、
エトセトラ……、
そもそも?
血の繋がりはジャッジに影響しない。
ヒミコンはヒミコンだし? 妹は妹だ。
別人格に区分されているんだヨ」
Ⓢシップ、
「しかしながら、
よっぽどの悪は例外である。
例えば、
変態的危険思想の持ち主、
マニピュレーター等の凄まじい遺伝的影響を受けた者、
強欲な呪詛使いなどである。
殊に呪詛を口伝・伝授した者……、
その罪咎、末代に至る。
子々孫々、罪過が課されるのだ」
Ⓖゲイル、
「未來王のジャッジは緻密であり大雑把だ。
寛大で温情深く、そして辛辣である。
寸分の狂いなく計算され数値化されている。
それは解き明かすことはできない。
人間の小さな脳みそで計ることは不可能だ」
Ⓔイレーズ、
「ん。だからさ?
下されたジャッジに従えばいい。
ただそれだけ……」
Ⓒクロス、
「そうだよなァ?
虚勢を張って悪態をつく……、
ご機嫌を取る……、
どっちも相手にされねえなァ?
無駄な抵抗はやめておけ、
薄らみっともねえだけだヨ!
その代わり……、
俺たちが残忍返礼をお見舞いしてやるゼ!」
Ⓢシップ、
「ヒミコンよ……、
王より温情が向けられている……。
そのファクトを知るのだ」
Ⓒクロス、
「お馬鹿さん、
分かったかァ?」
ヒミコンは涙をぬぐう。
ようやく!
心奥から得心できた。
「己の未熟さ……、
迷いを生じさせた不甲斐なさ……、
申し訳ありませんでした!
三月十日……、
裏陰処罰、執行いたします!
それにしても……、
未來王……、かっこ良すぎです!
もう……、ヴゥ、
素敵すぎてメロメロです!
ヴッ……! ヴッ、ヴヴヴゥゥゥ……」
シップは檄を飛ばす。
「ヒミコンよ!
来たるべき処罰執行、
すぐそこまで近づいている!
もう迷うではないぞっ」
「はいっ!」
がばっ……!
神霊獣・ライアン、
駆け寄って飛びついた。
ビシビシッ!
思慕の情、喜悦の情……、
全身を駆けめぐって伝わってくる。
フッ、
イレーズがフ笑みをこぼす。
「ふうん?
ライアンと完全共鳴できたみたいだね?
良かったね?
心奥貫通しているよ?」
Ⓖゲイル、
「王の恩寵に感謝せよ!
しかし、二度と迷うなっ」
クロスが締めくくる。
「もうウジウジすんじゃあねえぞ?
引き金を引けっ!
決して躊躇うなァッ!」
「諾っ!」
ヒミコンの迷い、完全に吹っ切れた。
豪壮至高なる世界観に跪く。
……魔導師四人衆、
彼らの信念、真っ直ぐだ。
未來王への凄まじいまでの忠誠心……、
トレジャンを慕う深い愛情……、
清々しいまでにブレがない!
彼らの大脳作用……、
もはやリスペクトしかない!
ゴオオオオオ……、
ヒミコン、
腹の奥底からエネルギーが沸き立つ。
熱い喜び、滾ってくる。
ウイザード・ヒミコン、
覚醒が始まった……。




