表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/63

54 甥の末路⑤

 藍方星。

 露見の泉のほとり。


 ぶわああ~ん……、


 映像場面が変わった。

 古びた市営住宅が映し出された。


 ……その一室、

 悲嘆に暮れるジュンの家族の姿があった。


 両親は茫然自失だ。

 憔悴(しょうすい)しきっている。

 無音の(ひつぎ)、ぼんやり見つめている。

 弟、妹……、泣きすぎて目が赤い。

 その(まなこ)、痛々しく腫れている。


 家族は未だ、

 愛息の死、受け止めきれていない……。


 ピン、ポ~ン……、


 インターホンが鳴った。

 ドアの前には、二人の影。

 マコとブンタ、

 神妙な面持ちで立っている。


 キイ……、

 ドアが開いた。


 マコは頭を下げる。

 ジュンの母親と挨拶を交わす。

 数千円入りの香典袋を手渡した。

 

 「散らかっていますが……、

 どうぞ……」


 ふたりは図々しく上がり込む。

 ジュンの棺の置かれた部屋に足を踏み入れた。

 

 ワッ……!

 突然、マコは泣き崩れた。


 「ウッ、ウウッ……、

 この度は、ジュン君が……、

 ウッ、ウウッ……、

 息子のブンタから、

 ウッ、ウウッ……、

 大切な友人が亡くなったと聞いて……、

 それで居てもたってもいられなくて……!

 突然に押しかけて申し訳ありません……」


 ぎゅうっ、

 マコはジュンの母親の手を握りしめる。


 「ジュン君……、

 ブンタの大切なお友達でした。

 と~っても、仲良しでした。

 誰よりも特別に親しくしていました。

 実はふたりは大親友でした!

 だから悲しくて悲しくて……」


 「そう……、でしたか……。

 ジュンは学校のこと、

 あまり話さなくて……」


 「男の子ですもの。

 そんなものです。

 だけどブンタはおしゃべりだから……、

 いつもジュン君のこと、話してくれました。

 優しくて、親切で、優秀……、

 自慢の友達だと……」

  

 ジュンの母親は涙をぬぐう。

 伏し目がちに小さく笑みをこぼした。


 マコ、

 さらに畳みかける。


 「ジュン君……、

 どうしてあんな素晴らしい子が……?

 どうしてこんな残酷な事に……?

 信じられませんっ! 

 さぞや、お辛いでしょう? 

 私も悲しくて寂しくて、涙が止まりませんっ」


 ブンタが口を開く。


 「僕以外のクラスメイト全員……、

 イジメを楽しんでいました。

 僕がもっと強ければ良かった……。

 そうすれば助けてあげられたのに……。

 イジメを止めてあげられなくてごめんなさい。

 助けてあげられなくてごめんなさい。

 ジュン、ごめん……、ごめんなさい……」


 マコとブンタ、肩を震わせる。

 顔を覆い隠して泣き真似する。


 ジュンの母親、目頭が熱くなる。

 ブンタの背中、

 やさしくさすった。


 「ブンタ君、ありがとう……。

 ジュンにもこんなに素敵なお友達がいたのね? 

 ジュンと仲良くしてくれてありがとう。

 優しくしてくれてありがとう……。

 どうもありがとう……」


 マコとブンタ、

 ジュンの亡骸(なきがら)に手を合わせる。


 両親は嗚咽(おえつ)を漏らす。

 感謝の言葉を伝える。

 涙ながらに繰り返す。


 「ありがとう……、

 ありがとうねえ……」


 「お邪魔いたしました」


 ギイ……、パタン、

 ドアが閉まった。


 途端に、ふたりは舌を出す。

 したり顔をして笑い合う。

 マコはほくそ笑む。

 ブンタは晴れ晴れ、伸びをした。


 ゾッ……、

 ヒミコンは血の気が引く。

 白々しい演技、すべてが虚偽だ。

 罪悪感、皆無だ。


 おそらく……、

 ジュンの家族は好印象で受け止めた。

 愛息を自殺に追い込んだ加害者……、

 ブンタではない、ブンタ以外だ、

 そう思い込んだだろう……。


 保身と打算の行動……、

 それは見事に成功していた。


 ……数日後、

 自宅に警察が訪れた。

 クラスメイトの証言から、

 ブンタに嫌疑(けんぎ)がかかったのだ。


 しかしながら、

 マコは臆することはない。

 きっぱり、言い放つ。


 「ブンタはイジメなどしていません。

 証言したクラスメイトが嘘をついています。

 優秀なブンタを(ねた)んでの嫌がらせです。

 ブンタは被害者です。

 その証拠に、

 びしょ濡れで職員室に駆け込んだ。

 先生に助けを求めたのです」


 しかし警察官は不審がる。


 ……チャンス!

 マコはとっておきの切り札を使う。


 「そもそも!

 ジュン君とブンタは大親友でした。

 疑うなら確認してください。

 今すぐ、ご両親に電話してください。

 直接、聞いてみてください」


 警察官、電話をかける。

 ジュンの両親に確認を取る。


 ……ブンタ君は息子の親友でした。

 ブンタ君だけは違います。

 彼がジュンを、

 イジメるわけがありません……。


 しかし警察官、

 不信感がぬぐえない。

 疑念をぶつける。


 「ジュン君の身体には……、

 無数の(あざ)がありました。

 クラスメイトの証言だと……、

 集団リンチがあった。

 それも、息子さんの指示だったと……」


 マコは答える。


 「ジュン君の身体に?

 無数の(あざ)? 

 ああっ、それって!

 虐待痕(ぎゃくたいこん)ではないですか? 

 実はジュン君……、

 日常的に両親から暴力を振るわれていて……、

 (つら)い、誰にも言えないって……、

 親友のブンタに相談していたみたいです……」


 死人に口なし……、

 マコは平然と嘘を吐く。

 あろうことか!

 ジュンの両親までも(おとしい)れた。


 「ああ……、

 可哀そうなジュン君……。

 天国で安らかに……、

 生まれ変わってもブンタの友達に……、

 毎日毎日、泣きながら祈っているんです。

 ウウッ……ウウゥ……」


 結局、

 遺族の意志が尊重された。

 ブンタにお(とが)めはなかった。


 ブンタの教室……、

 媚びを売る連中、

 未だ、取り巻きとして群がっている。 


 ブンタは玩具(おもちゃ)が消えて退屈だ。

 次のターゲットを選定しようと教室を見渡す。

 クラスメイトはビクビクする。

 指を差されまいと(おび)えている。


 「だ、れ、に、し、よ、う、か、な……」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ