54 甥の末路⑤
藍方星。
露見の泉のほとり。
ぶわああ~ん……、
映像場面が変わった。
古びた市営住宅が映し出された。
……その一室、
悲嘆に暮れるジュンの家族の姿があった。
両親は茫然自失だ。
憔悴しきっている。
無音の棺、ぼんやり見つめている。
弟、妹……、泣きすぎて目が赤い。
その眼、痛々しく腫れている。
家族は未だ、
愛息の死、受け止めきれていない……。
ピン、ポ~ン……、
インターホンが鳴った。
ドアの前には、二人の影。
マコとブンタ、
神妙な面持ちで立っている。
キイ……、
ドアが開いた。
マコは頭を下げる。
ジュンの母親と挨拶を交わす。
数千円入りの香典袋を手渡した。
「散らかっていますが……、
どうぞ……」
ふたりは図々しく上がり込む。
ジュンの棺の置かれた部屋に足を踏み入れた。
ワッ……!
突然、マコは泣き崩れた。
「ウッ、ウウッ……、
この度は、ジュン君が……、
ウッ、ウウッ……、
息子のブンタから、
ウッ、ウウッ……、
大切な友人が亡くなったと聞いて……、
それで居てもたってもいられなくて……!
突然に押しかけて申し訳ありません……」
ぎゅうっ、
マコはジュンの母親の手を握りしめる。
「ジュン君……、
ブンタの大切なお友達でした。
と~っても、仲良しでした。
誰よりも特別に親しくしていました。
実はふたりは大親友でした!
だから悲しくて悲しくて……」
「そう……、でしたか……。
ジュンは学校のこと、
あまり話さなくて……」
「男の子ですもの。
そんなものです。
だけどブンタはおしゃべりだから……、
いつもジュン君のこと、話してくれました。
優しくて、親切で、優秀……、
自慢の友達だと……」
ジュンの母親は涙をぬぐう。
伏し目がちに小さく笑みをこぼした。
マコ、
さらに畳みかける。
「ジュン君……、
どうしてあんな素晴らしい子が……?
どうしてこんな残酷な事に……?
信じられませんっ!
さぞや、お辛いでしょう?
私も悲しくて寂しくて、涙が止まりませんっ」
ブンタが口を開く。
「僕以外のクラスメイト全員……、
イジメを楽しんでいました。
僕がもっと強ければ良かった……。
そうすれば助けてあげられたのに……。
イジメを止めてあげられなくてごめんなさい。
助けてあげられなくてごめんなさい。
ジュン、ごめん……、ごめんなさい……」
マコとブンタ、肩を震わせる。
顔を覆い隠して泣き真似する。
ジュンの母親、目頭が熱くなる。
ブンタの背中、
やさしくさすった。
「ブンタ君、ありがとう……。
ジュンにもこんなに素敵なお友達がいたのね?
ジュンと仲良くしてくれてありがとう。
優しくしてくれてありがとう……。
どうもありがとう……」
マコとブンタ、
ジュンの亡骸に手を合わせる。
両親は嗚咽を漏らす。
感謝の言葉を伝える。
涙ながらに繰り返す。
「ありがとう……、
ありがとうねえ……」
「お邪魔いたしました」
ギイ……、パタン、
ドアが閉まった。
途端に、ふたりは舌を出す。
したり顔をして笑い合う。
マコはほくそ笑む。
ブンタは晴れ晴れ、伸びをした。
ゾッ……、
ヒミコンは血の気が引く。
白々しい演技、すべてが虚偽だ。
罪悪感、皆無だ。
おそらく……、
ジュンの家族は好印象で受け止めた。
愛息を自殺に追い込んだ加害者……、
ブンタではない、ブンタ以外だ、
そう思い込んだだろう……。
保身と打算の行動……、
それは見事に成功していた。
……数日後、
自宅に警察が訪れた。
クラスメイトの証言から、
ブンタに嫌疑がかかったのだ。
しかしながら、
マコは臆することはない。
きっぱり、言い放つ。
「ブンタはイジメなどしていません。
証言したクラスメイトが嘘をついています。
優秀なブンタを妬んでの嫌がらせです。
ブンタは被害者です。
その証拠に、
びしょ濡れで職員室に駆け込んだ。
先生に助けを求めたのです」
しかし警察官は不審がる。
……チャンス!
マコはとっておきの切り札を使う。
「そもそも!
ジュン君とブンタは大親友でした。
疑うなら確認してください。
今すぐ、ご両親に電話してください。
直接、聞いてみてください」
警察官、電話をかける。
ジュンの両親に確認を取る。
……ブンタ君は息子の親友でした。
ブンタ君だけは違います。
彼がジュンを、
イジメるわけがありません……。
しかし警察官、
不信感がぬぐえない。
疑念をぶつける。
「ジュン君の身体には……、
無数の痣がありました。
クラスメイトの証言だと……、
集団リンチがあった。
それも、息子さんの指示だったと……」
マコは答える。
「ジュン君の身体に?
無数の痣?
ああっ、それって!
虐待痕ではないですか?
実はジュン君……、
日常的に両親から暴力を振るわれていて……、
辛い、誰にも言えないって……、
親友のブンタに相談していたみたいです……」
死人に口なし……、
マコは平然と嘘を吐く。
あろうことか!
ジュンの両親までも陥れた。
「ああ……、
可哀そうなジュン君……。
天国で安らかに……、
生まれ変わってもブンタの友達に……、
毎日毎日、泣きながら祈っているんです。
ウウッ……ウウゥ……」
結局、
遺族の意志が尊重された。
ブンタにお咎めはなかった。
ブンタの教室……、
媚びを売る連中、
未だ、取り巻きとして群がっている。
ブンタは玩具が消えて退屈だ。
次のターゲットを選定しようと教室を見渡す。
クラスメイトはビクビクする。
指を差されまいと怯えている。
「だ、れ、に、し、よ、う、か、な……」




