47 生前の真実①
藍方星。
露見の泉。
ぶわああ~ん……、
水面が揺れる。
生前の映像、浮かび上がる。
映し出されたのは、
赤ん坊の雛子だ。
……西東京市。
自宅のリビング。
父親、母親、両家の祖父母……、
乳児の雛子を囲む。
初孫誕生の祝宴が開かれていた。
和やかな空気だ。
笑顔があふれている。
祖父母は目を細める。
代わる代わるに抱っこする。
父親は頬をゆるめる。
愛し子の頭を優しく撫でる。
母親は穏やかに微笑む。
雛子を愛おしそうに抱きしめた。
水面の映像、場面が変わる。
成長記録、流されていく……。
……雛子、三歳。
ふたつ年下の妹、
伝い歩きを始めていた。
ヒミコンは懐かしむ。
……わあっ、
赤子のマコ……、
この頃は、
めちゃくちゃ可愛かったなぁ。
…………?
慄然とした。
思わず目を疑った。
まだ一歳にも満たないマコ……、
鬼の形相をしている。
赤ん坊とは思えない悍ましい表情だ。
なにかを睨みつけている……?
マコの視線の先……、
そこには姉・雛子の姿があった。
雛子は妹に駆け寄る。
嬉々として妹をあやす。
きゃっきゃっ、
マコは愛くるしい笑顔を振りまく。
くるり、
雛子が背を向ける。
その瞬間、
マコの表情は一変する。
鬼の形相となる。
雛子に敵意こもる視線を送る……。
ゾッとした。
間違いない……。
マコは危険な二面性を潜ませている。
幼気な赤ん坊の純真さ……、
その裏腹に、
殺意すら感じさせる憎悪があった。
……マコ、二歳。
おやつに出された濃縮果汁のぶどうジュース、
わざと自分にぶちまけた。
可愛らしいピンク色のワンピース、
紫の染みがひろがった。
マコは母親のもとに駆け寄る。
悲し気に泣き出す。
「お姉ちゃんがぁ……」
母親は眉をひそめる。
雛子を叱責した。
……ある日の出来事、
父と娘二人、公園に出かけた。
どさっ、
マコはわざと転ぶ。
地べたに顔を伏せた。
「お姉ちゃんがぁ……」
大声で泣き出した。
父親は慌てて走り寄る。
寝転がっているマコを抱き上げた。
不機嫌な父親と帰宅する。
バタン、玄関ドアが閉まる。
その瞬間……、
ゴンッ!
雛子はげんこつを喰らった。
その後も……、
類似した状況、度重なる。
両親はマコの言葉を鵜呑みにする。
薄っぺらい嘘、
見抜くことができない。
母親は怒鳴り散らす。
父親は頬を叩いた。
そこで待ってました!
マコはキメ台詞を吐く。
「やめてっ!
パパ、ママ、お願いっ!
マコはお姉ちゃんが大好きなの!
だから意地悪されても平気!
マコは痛くされても我慢できる!
だからお姉ちゃんを許してあげて……?」
ウームム……、白々しい。
そして若干、懐かしい……。
この言葉、効力抜群だ。
マコは庇護された。
両親から一層、愛された。
妹・マコ、
虚言、猿芝居を駆使する。
気づけば、
雛子への攻撃、強まっていた。
罵倒、暴言、小突く、つねる……、
ときには、
殴り、蹴り飛ばされた。
両親は振り回される。
いつの間にか、
マコに操縦されていた。
そうして、
雛子の日常から平穏が消えた。
虐待は常態化した。




