39 百日後に
藍方星。
トレジャンの泉のほとり。
魔導師・ヒミコン、
現場から実況中継いたします!
ひそひそ……、
(忍び声)
……皆さ~ん!
本日の藍方星、ヤバいですよ~!
ピコン、ピコンッ!
警報音、鳴ってます。
重苦しい空気です。
不穏な雰囲気、充満してま~す。
ヒッ!?
ひえええっ……!
魔導師ゲイル、クロス、イレーズ……、
イライライラ……、
苛立っております。
ムカムカムカ……、
ご立腹です。
非常にご機嫌斜めです。
近づくと危険です。
ご注意くださ~いっ!
プツッ、実況終了。
バッシャーーッ……!
トレジャンの泉、
水飛沫が飛び散った。
人間界から、
シップとライアン、戻ってきた。
…………!
あわわわわ……?
いつもと様子が違うっ!
ヴゥゥ、ヴゥゥヴゥ……、
金色神霊獣・ライアン、
荒い息を吐き出す。
牙を剥いて唸り声を上げている。
茶色い垂れ目、鋭く吊り上がる。
金色眼に変化している。
赤々と燃え盛る炎を背負う。
黄金の体毛、総毛立つ。
その毛先、朱色が混ざる。
その姿、まさしく百獣の王だ。
嗚呼、かわゆいライアン……、
めちゃくちゃブチギレてる!
魔導師・シップ。
平素は温厚だ。
しかし今、超絶・不機嫌だ。
眉間にしわ、寄ってます。
静かな怒り、滲んでます。
スッ、
右手を掲げた。
厳粛に告げる。
「処罰対象者が確定した。
ライアンが強い怒りを示した。
よって、百日後に!
制裁処罰を執行する」
ヒミコン、
日時を算出する。
「百日後……、
三月十日の夜、ですね?」
「処罰対象者は三十二歳男。
ラストオイルの設定年数・三十年とする。
男の家族構成を伝える。
同年齢の妻、
子供は三歳男児と一歳女児である」
ヒミコン、復唱する。
「三十二歳の男……、
妻子持ち……」
クロスは不満を漏らす。
「ああン? 百日後ォ?
随分ぬるいなァ?
今すぐ抹殺しようぜェ?
ラストオイル連射して喰らわせて、
なァ?」
ゲイルは首肯する。
「うむ。私も同感だ。
根っこから腐った性根……、
実に忌々しい。
甚だ不愉快である。
出来れば早急に消し去りたい」
イレーズは冷ややかに告げる。
「なんならさあ?
ライアンが噛み殺すってのはどう?
それとも俺がさ?
微粒子レベルに粉砕してやってもいいけど?
ま、面倒だけどさ」
シップが説く。
「ヒミコンよ、よく聞きなさい。
今回の場合、
三十年間、辛酸をなめ続ける設定である。
ラストオイルを浴びると人生は転落する。
三十年後、フェイトギアは錆びつき朽ち果てる。
惨めな末路を迎えるであろう……」
ニヤリ、
クロスは口角を上げる。
「クッ、ククッ!
要はァ! 歯車が狂うんだヨ!
さぞや口惜しくて、歯がゆくて、
思い通りにならない人生になるんだろうなァ?」
イレーズは冷笑する。
「三十年後に堕ちる奈落……、
それはさ?
笑っちゃうほど残忍残虐だよ?
現世の生き地獄、生ぬるいって感じるはず。
凄凄切切、本物の地獄を知るんだよ。
ま、因果応報だね?」
魔導師四人衆、
物騒な言葉を羅列する。
ゾゾゾ……、
ヒミコン、背筋が凍る。
恐る恐る問いかける。
「処罰の定義として、
設定年数、短いほうが軽いのですか?」
ゲイルは答える。
「いや、一概には言い切れない。
設定年数が短い……、
それは瞬く間に再起不能になることを意味する。
設定年月が長い……、
それは延々、弄られ甚振られることを意味する。
だがしかし『猶予期間』があるともいえる。
更生の余地が与えられているのだ」
Ⓗ
「なるほど、なるほど!
ですが、更生修正の可能性……、
あるのですか?」
Ⓖ
「ゼロではないが……、
極めて低い」
Ⓒ
「クッ、ククッ……、
まァ、期待するな。
処罰対象者は低能愚鈍だ。
恐らく! 未來王のご温情……、
難しくってチンプンカンプンだヨ!
もしも運よく理解できれば!
掬われるかも? 知れねェなァ?」
Ⓖ
「未來王は慈悲深く寛大だ。
遥か昔から『赦しの王』と称されている。
罪を軽減することばかり考えている」
うんうん、
シップは頷く。
「今回の処罰対象者に関しても然りである。
子孫は親の罪咎の影響を受けない。
悪しき縁由は及ばせない。
よって、善行次第で掬われる設定となっている。
未來ある若者への温情である」
Ⓔ
「まあだけどさ?
王の優しさにつけ込んで調子に乗っているとさ?
ククッ……、痛い目に合うかもね?
王は対極を網羅している。
優しさの対極……、わかる?」
Ⓖ
「心を入れ替え、己を省みる……、
この容易き作業、出来ない者に掬いはない。
もしも王が、
『皆さんにお任せします』
そう申し述べたならば、その瞬間!
我ら魔導師四人衆に『処罰の決定権』が託されるのだ」
Ⓢ
「その通りだ。
我らは冷徹である。
処罰対象者に対して無慈悲である。
それゆえ、決して手加減などしない。
一切の躊躇なく苛烈制裁を下す。
そしてときには……、
魔王ディスも協力する」
Ⓔ
「王はせっかちだし?
面倒くさがりの一面もあるからさ?
俺たちに一任してくれることもあるはずだよ?」
ブルブルブル……、
ヒミコン、恐怖増幅中!
……未來王、どうかお願いです!
どうか彼らに!
一任しないでくださいませ…………
シップは心奥透視して笑う。
軽く補足する。
「恐らく王は……、掬いたいのだ。
処罰対象者の心の更生を願われている。
猶予期間を設けることで、更生チャンスを与えている。
わずかながら期待しているのだろう……」
ゲイルは眉を下げる。
嘆息する。
「相変わらず……、
広大無辺なる包容力だ。
そして相変わらず……、
お人好しの頑固者だ。
しかしながら!
王の魅力のひとつである」
うんうん!
クロスは頷いて同調する。
「ホントだよなァ!
王はシビアでルーズ、
峻厳で温厚だ。
その奔放なギャップ!
堪らねえよなア?
俺たちはいつもいつも!
王に振り回されっぱなしだヨ」
くすり、
イレーズは笑う。
「王は何といってもさ?
フレキシブル・ジーニアスだから、ね?
もう……、最高だよ」
ほわわ~ん……、
ヒミコンは暫し和む。
四人衆の嬉々とした無邪気な笑顔!
超・激レアだ。
彼らは呆れるほど、未來王が大好きなのだ。
ちょいちょい、
魔導師・イレーズ、
ヒミコンを手招きする。
ぴゅん!
露見の泉に移動する。
スッ、
イレーズは水中を指差す。
「ほら、見て?
露見の泉の水中、
ライアンと覗いて?」
「諾っ」
「ほら……、
処罰対象者……、
こいつだよ?」




