31 シップのレクチャー③
藍方星。
魔導師・シップ。
講義を続ける。
……さて。
ここからが本題である。
まずは無論の定義であるが、
安寧こそ『最善』である。
不穏は『最悪』である。
遺憾にも。
世代交代が早まり至急となった。
ひとつめの要因。
それは、滅亡を食い止めるためである。
しかし実のところ、
結末は地球人の心次第である。
ふたつめの要因。
それは、この現世にある。
人類を破滅に導くカタストロフィ……、
不穏な動きを感知した。
予見予兆によると。
もしもカタストロフィが実行されたならば!
地球に甚大な被害が及ぶ。
自作自演の大罪、
破滅へと一直線である。
この此岸、
悪賢い嫌忌類型が支配している。
生怨霊、大量に蔓延っている。
善人を装った悪党が、
収奪を目論んでいる。
濁世の地球、
操縦しようとしている。
危険な計画が実行されようとしている。
作為的・カタストロフィ……、
裏で操る『黒幕』が存在する。
それは一体、誰なのか……?
魔導師四人衆。
潜在意識、分析する。
破壊活動の首謀者、突き止める。
未來王。
心奥を見澄まし、演算する。
最善たるメソッド、構築する。
表向きの敵は、
先天性・マニピュレーターである。
しかし天敵は、
大罪を裏で操る姑息な首謀者である。
マニピュレーターとは。
計算高くあざとい操縦者である。
奴らは狡猾だ。
真人間を装う。
知的上品、善人風情である。
権威には徹底的に媚びる。
過剰に諂う。
優位な立ち位置・社会的地位、獲得する。
周囲を巻き込み、信頼を勝ち得る。
奴らに罪悪感はない。
我慾を満たすためなら手段を選ばない。
誤った道へと誘導する。
正義を不義に変える。
判断能力、思考能力を奪う。
追従させ、巧妙に搾取する。
数多の人間、
秘められた悪意に気付けず攪乱する。
最悪を最高だと信じ込んで妄信する。
そうして自発的に扇動されていく。
悪人間、悪念塊に支配される。
悪念塊、生怨霊を大量生成する。
生怨霊、邪悪感情と結合する。
嫉妬・憎悪・愛憎・憤懣、助長する。
増殖し、集団化する。
誰もが知らぬ間に、
善から悪に変貌する可能性がある。
人間とは。
懲りずに過ちを繰り返す。
責任転嫁して逃げようとする。
愚かしい生命体である。
それゆえ自業自得。
どうなろうと知ったことではない。
このまま放っておく、そんな選択肢もあった。
掬っても掬ってもキリがないのだ。
だがしかし、
未來王の意向は違った。
直接対峙の方針に相成った。
結論として。
地球に掬いを差し伸べる。
神々が嫌忌類型と向き合う。
千載一遇の道筋が示された。
我らが未來王、
切なる願いを込めて仰った。
『我らは大道不器です。
簡単に見限って、見捨ててはなりません。
健気に懸命に生き抜く人間、
密やかに応援しましょう。
せめて相応な未來を得られるように、
密やかにバックアップしましょう。
相応世界……、無謀な夢かも知れません。
愚かだ……、笑われるかもません。
それでも、目指しましょう。
図抜けた仲間たちと共に!
楽しく奮励しましょう」
……そうした経緯から。
未來王『降誕』が決定した。
止むに止まれずの決断だった。
現在、未來王は人間界に暮らしている。
様々な人種類型に関わっている。
約一世紀に及ぶ人間界での時間軸、
掬いの道筋を模索する。
それはある意味、
不平等の調整作業といえるのだ。
未來王とは。
神界・魔界の神々にとって、
魔導師四人衆にとって、
そして人間にとっても、
至極の宝であるのだよ…………。
シップのレクチャー、
終了した。
ヒミコンは感激する。
鼻息荒く大興奮だ。
「素晴らしい講義でした!
ありがとうございました!
ぐふふふっ……、
フレキシブル未来王……、最高です。
ファンになっちゃいました!
胸キュンッ♡ ですっ」
能天気ヒミコン、
図々しく質問する。
「未來王って……、
人間界で暮らしているのですよね?」
Ⓢ
「そうだ。
今現在、未來王は人間界に暮らしている。
様々な人種類型と関わっている。
嫌忌類型とも対峙してゆく」
Ⓗ
「ふーむ……、ウームム?
未來王の存在……、
バレちゃいませんか?
気づかれちゃったりしませんか?」
Ⓢ
「うむ。
そこは心配に及ばない。
ご威光オーラ、完全に消している。
目立ち過ぎぬよう、常に気を配っている。
慎ましやかに生活している」
Ⓒ
「要はァ!
庶民に紛れてるってことだヨ!」
Ⓗ
「ひょええ~!
王様が? 一般庶民として生活?
どんな見た目?
どんな性格なのですか?」
Ⓢ
「敢えて容姿には触れぬが……。
気さくで軽やかである。
その一方、
頭脳明晰、飄々淡々、
聡明荘厳なる人物である」
Ⓒ
「クククッ、
未來王は最高だヨ!
偉ぶらず、恩着せがましくない。
善行こそ、ひた隠す。
過剰に崇め称えられること、好まない。
性質は真面目で不真面目、
繊細で寛大、固くて柔らかい、熱くて冷たい。
対極を網羅してるんだヨ!」
Ⓢ
「ふむ、そうだな。
掴みどころのない面白き御方である。
まるで風のようである。
イレーズは口癖のように評する。
王はさらりとした柔軟な天才、
フレキシブル・ジーニアス、だと……」
Ⓗ
「それじゃあ……、
お会いしたらすぐに分かりますねっ。
うあああっ……、一目でいいから!
できることなら生きてるうちに!
お会いしたかったですっ」
チクリッ!
クロスは皮肉を言う。
「へえェ?
一度も見たことないのかァ?
どうやら、お前の天然ボケは本物だ。
いつか? そのうち?
未來王に拝謁できるといいなァ?」
Ⓗ
「はいっ!
遠目でもいいですっ。
この目で見てみたいですっ」
ふうっ……、
シップはため息を漏らす。
「とにかく……、
ミッションのリミットは近いぞ?
クリアー目指して頑張りなさい。
『選ばれし者』となれたとき!
相応しき任務、与えられるであろう」
「はいっ、頑張ります!
目指せっ、未來王の末端弟子!
オーッ!」
やれやれ……、
シップとクロス、肩をすぼめる。
呆れ顔をして消え去った。
魔導師見習い・ヒミコン、
決意を新たにする。
……未來王ってイケている!
今や頂点に君臨、三千大千世界の主だ。
途轍もない権力者だ。
それなのに!
称え崇められこと嫌うなんて……!
なんて謙虚な御方なの……♡
そしてまさかの!
冥界王と親友……?
嗚呼っ、素敵すぎっ!
六世界を統治するふたりの王。
未來王、魔王・ディス……、
激レア、伝説の人物だ。
一度でいいから、
この目で拝んでみたいっ!
現在、
六世界、刹那的に和解中!
未來王時代、バンザ~イ!
イエーイ!
よっしゃあ!
落ち込んでいる場合じゃない。
悩んでなんかいられない。
ヒミコンは気合を入れる。
瞳をギラつかせて、水中を覗き込む。
トレジャンのフェイトギア透視……、
ひたすらチャレンジする。
「よおおし、今日こそ!
うぬぬぅっ、今度こそっ……!
嗚呼っ! なんで?
なんで見えないのぉ……?」




