3 夜空
地上から照らされた都会の夜空、
或る男が見上げている。
ぐるり、見渡す。
切なげに息を吐き出した。
……街の灯りは、
人類を宇宙から遠ざけている。
遥か彼方のあの時空からの煌めく光……、
惜しみなく降り注ぐ透明な星あかり……、
ほんの僅かしか届いていない。
……なぜだ?
虚妄な光に屈曲され、
邪悪な念に遮られ、
自己都合に歪曲され、
儚くかき消されている。
……ああ、なんということだ。
この世はまがい物に支配されているのか。
美しい心根を穢され、
いたぶられ、
ずる賢い者たちに利用されているのか?
まがい物こそが『善なり』と、
妄信させられているのか……?
あまりに空虚な現実……、
暗澹たる思いが押し寄せた。
降臨した未來王、
都内の国立大学に通っている。
住まうのは、
築二十五年ほどのワンルームマンションだ。
バイトを終えて帰宅した。
どさり……、
重たいリュックを床に置いた。
シャッ、
カーテンを開ける。
五階のベランダから渋谷と新宿の夜景を眺めた。
椅子に腰掛け頬杖をつく。
小さなため息を漏らす。
……まさに今、
進化の好機が到来している。
そのファクトに、
人類は率先して気づくべきなのだ。
革新的情報化社会に変革された現代こそ、
招来する未來の掬いの一手になるはずだ。
多方面から情報を収集し、
物事を多角的に捉える能力を具え、
深奥まで見通し、
尚且つ分析能力を高める努力が不可欠だ。
そうして……、
『善に見せかけたまがい物』を見破ってほしい。
勘違い、思い込み、偏見から脱却してほしい。
妄信の渦から離脱してほしい。
勇気をもって日常を修正してほしい。
目先だけの共存関係に惑わされたとしたならば、
未來は大きく躓くだろう。
切に願う……、
それは正見を持つ者の増大だ。
それは無意識バイアスから派生する。
迎えた新時代、
洞察力に優れた若者が多く存在している。
それは甚だ僥倖である。
しかし、
その清らかな向上心や善なる心に付け入る輩が居る。
赦し難い嫌忌類型が存在している。
奴らはエゴイズムの塊だ。
私利私欲のために、
か弱き者、脆き者を捕食する。
反社会性サイコパス、
自己愛性マニピュレーター、
独善性呪詛使い。
強迫観念を刷り込む異端邪説。
偽物の救世主が主導する自作自演の大罪が……?
未來王は仄暗い夜空を見つめる。
この先の未來を透視する。
……不吉な予兆が拭えない。
この現世はまがい物が支配している。
嫌忌類型が巣食い蔓延っている。
狡猾な連中が、
意のままに操縦しようとしている。
丸め込んで扇動しようとしている。
搾取してくすね取ろうとしている。
意地汚く喰い尽くそうとしている。
それは。
殊勝神妙なる人々の輝く未來だ。
決して、潰されてはならない。
未來王は憤る。
濁世の無情を嘆いて天を仰いだ。
しかし諦めない。
神色自若に思案熟考を開始する。
信頼する四大弟子に向けて、
メッセージを転瞬送信した。
天部では……、
四大弟子がメッセージを受信した。
即座にデータベースを解析する。
最善たるメソッドの構築が始まっていた。




