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序章 -計画-

冬の冷たいそよ風が、枯れた木の葉を連れてくる。

そんないい加減見飽きた窓からの風景を、ただぼーっと眺めている。


学校も2学期が終わりを告げ、明日から念願の冬休みが到来する。


特に予定は無い。ただ休みってだけで心が踊るのは、私が単純だからだろうか。



焦がれるほどの夕焼けに眩しさを感じたその時、私の肩に友達の手が乗っかる。


「なーに辛気臭い顔してんの」


声のした方に顔を向けると、いつもと変わらぬ屈託のない笑顔がそこにあった。


「校庭見てるのって、そんなに心地良いの?」


少し嫌味にも聞こえるが、きっとそんな他意は無いんだろう。

いつだって彼女は、純真無垢にこんな質問を投げかけてくる。

そんな彼女に、私は張り詰めた顔を少し緩めた。


「うん。ちょっと見飽きてるところもあるけど... 心が落ち着くっていうか。」


「有鐘のそういうところ見てるとこっちもなんだか落ち着くよ。いつもと変わらぬ安心感!みたいな。」



16時。

下校のチャイムが校舎中に響き渡り、他の生徒は各々の部活動へと赴き出す。

忙しない喧騒が鳴り響く中、私は落ち着くまでこの教室で、席から窓からの風景を眺めるのが日課だ。

あまり人と接するのが得意でない私は、部活も入らずにこうして心を落ち着かせている。



「でもたまにはウチら達に話しかけてくれてもいいんじゃない?夕焼けにジェラシー抱いちゃうよ。」


「んふふ、ごめんって。」



高校入学で少し抱いていた沢山の友達に囲まれて...

みたいな風には当然ならなかった。

でも私にはこうやって毎日話しかけてくれる友達がいる。

それだけで、この真冬に吹いてくる風は、心地の良い物へと変わっていく。

独りの時間が長かったから、少し非日常感を感じているのも、私の特権だ。


「恋詩の方こそ、今日も元気一杯だね。」


「ウチはこういう他愛のない話出来るだけでいいの。こういう放課後くらいしかそんな暇ないじゃない?ねぇ遊馬。」


「ん。まぁな。」



少し離れた先から、低い声でボソッと呟く声が聞こえる。

彼も私と同じで、あまり積極的には話さない。



私、笛吹有鐘(うすいあかね)と、兼坂恋詩(かねさかこいし)、そして小金井遊馬(こがねいゆうま)


放課後の夕焼けを堪能した後に、この3人で話すのがいつもの流れ。

この3人でいるときだけ、私は楽しくお喋りができる。


1年の頃同じクラスだった私達は、2年になってもこうやって集まってる。

恋詩だけ別のクラスになっちゃったけど、放課後絶対私達の教室にやってきて、話のタネを持ってきてくれる。

いつだって話の起点は恋詩。彼女の話にハズレはない。



「...で、その廃墟の壁に書かれてたのが、りんごだったって訳なのよ!」


「壁にリンゴって、そんなマンガ無かったっけ」


「ジョンプのアレだな」



私達はいつも都市伝説の話で盛り上がる。

都市伝説にも色々あるけど、私は怪談とか、ネット系とかが得意。

恋詩は廃墟とか無人系、遊馬は...あまり聞いたことがない。

彼はずっと聞き手に徹している。


そんな彼が珍しく、自分から口を開いた。


「そういや冬休みの旅行、どこにするか決まったか?兼坂。」



旅行。

私達の最大のイベント。


1年の頃に仲良くなった私達は、長期休暇を使って旅行に行く。

勿論、ただの旅行じゃない。


恋詩が持ってきた都市伝説から、その事象が起こったとされる地点に3人で赴く。

最初はこの学校の怪談話から始まり、その次にはとある廃墟、そのまた次はUMAを探しに...


そんな恒例行事が、この冬休みにもやってくるという訳だ。


高校2年生の冬。

来年から受験生の私達にとって、これが最後になるかもしれない。



「ふっふーん、勿論探してきたよ。」


待ってましたと言わんばかりに、おもむろにカバンから1枚の写真を取り出した。


まだツヤが残っている、印刷されたばかりのこの写真には、どこかの島が写っていた。



「無人島...。しかも、前人未到の謎に包まれた島よ。ここで2泊3日のサバイバルはどう?」



恋詩は少し鼻息を荒げ、興奮しながら私達にプレゼンをしてきた。


完全インドアな私にとって、サバイバルはなかなか腰が重い。

そんなときでも、色々なことを率先してやってくれるのがこの二人だ。


私はその華奢ながら大きなその背中に、寄りかかってみることにした。


「無人島かぁ。賛成! 楽しみだなあ。」


「兼坂もよくこんな場所見つけたなオイ... まぁいいぞ。」


「決まりね。日程は追々知らせるからそのつもりで。有鐘はアウトドアとか苦手だろうし、その辺はウチ達に任せてちょうだい。遊馬もいいわね?」


「へいへい。」



眩しかった夕焼けも山の谷へと沈んでいく。

窓から見える街頭が灯りだし、日中にない存在感を露わにしていく。


部活が終わり、また喧騒が校内響き渡る前に、私はマフラーを首にかけ、古い校門を背に、帰路へついた。




2日後。

念願の冬休みに溺れ、惰眠を貪っていたその日の夜に、私の左手にあるスマホが小さく振動した。


『こんばんは諸君。(笑) 改めて島の写真送っとくね。 日時は...』


恋詩から気合の入ったチャットと共に旅行の日程が送られてきた。


恋詩の生真面目な性格らしく、こと細やかに詳細が長文で書き連ねられている。

そんな長文に対し、


『了解』


と一言、短文が遊馬から送られている。

こんなところも彼らしい。



最後になるであろう旅行に心を踊らせながら、握っていたスマホで無人島について、私なりに調べ始める。

旅行先の下調べは私の得意とするところだ。




検索は少し難航しながらも、なんとか1件のサイトが引っかかった。

軽い気持ちでタップすると、サイトは黒に赤字で、無人島について書かれていた。



どうやら、10年くらい前の個人ブログのようだった。

ブログには、やはりというべきか、都市伝説の名が冠されていた。


個人のブログはあまり信憑性に欠ける、と長年ネットとにらめっこしてる私の勘がそう告げる。


とはいえ、無人島についての情報が少しでも欲しいと思った私は、記事を読み進めることにした。




ベタというか、月並みというか...

行方不明者だのなんだの、今まで散々見てきたような謳い文句で敷き詰められていた記事に少しうんざりした私は、ブラウザバックしようと指を画面左に向ける。


その時だった。


偶然目にした文章に、私は少し慄いた。


『無人島ではなく、今現在も人が住んでる可能性あり』



前人未到と謳われたこの島が本当に無人島じゃなかったら...?


楽しさでいっぱいだったはずの胸中に、一雫の不安が滴る。



とはいえ、所詮は個人にブログ、それも10年前の記事にそこまで怯えることはない。

私の長年の勘がそう訴える。



とりあえずこの記事に書かれたことは胸の奥底にしまい、私は目をこすりながら床についた。


出発は来週。

今はただ、3人の旅行に思いを馳せよう。


少しずつ忍び寄ってくる不安を、私は精一杯無視した。

-登場人物-


笛吹(うすい) 有鐘(あかね)

主人公。 花のJKからは程遠い、会話下手なオタク気質な女の子。

友人に賭ける信頼は確固たるもので、その信頼にまた、友人達も信頼を乗せる。

好きな都市伝説はネット文化と怪談系。


兼坂(かねさか) 恋詩(こいし)

純真無垢で活発な女の子。行動力も兼ね備え、旅行の企画の発案者は大抵彼女。

有鐘や遊馬の会話下手を補う、ムードメーカー的存在。

好きな都市伝説は廃墟や廃村、無人系。


小金井(こがねい) 遊馬(ゆうま)

有鐘の都市伝説仲間。同じく会話が苦手なイマドキな男の子。

あまり感情を表に出すタイプではない為ぶっきらぼうになりがち。

好きな都市伝説は不明。

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