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終焉のパラティリシ  作者: わふ
一章 狩人達の宴
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十六話 画竜点睛偃月刀流

 

 ブラックウルフの重厚な前足からの素早い叩きつけが昭慧(シャオフェン)を狙う。

 起こったのは車両全体に伝わる大きな轟音のみ。昭慧(シャオフェン)はそれを即座に見抜いて回避していた。


「遅い!」


 そして魔物が攻撃を空振りした隙に、死角から飛び上がり、首を切り落とさんとする。


「へぇ、やるなぁ」


 彼女のこの一連の華麗な動きに、気付けば恭也は感心の言葉を零していた。

 偃月刀の刃がそれを討つ為に振りかざされる。


 ――カキン。


 しかし、ブラックウルフの肉質は驚く程に硬く、生物のそれとは思えない刃を跳ね返す音が鳴り響いた。


「っ……何て硬さ……!」


 首を落とす事が叶わなかった昭慧(シャオフェン)は地に足を着いた。


「このブラックウルフとやら、こんなに硬いのね――っと……」


 間髪入れないブラックウルフによる噛みつき攻撃を、昭慧(シャオフェン)は回避に徹する。


「いいや、そいつが特別だな。魔物の強さは主である魔族のそれに依存する。やっぱこのブラックウルフの主はちょっと強いかもな」

「あらそう……!」


 長々と恭也の口から語られる考察を聞き流している間にも、彼女はブラックウルフとの戦闘を繰り広げていた。


「これじゃ埒が明かないわね」


 昭慧(シャオフェン)は偃月刀の柄を柄を床に突き立てる。


異能力(クラフト)を使うわ」


 続けてその宣言通りに偃月刀の刃が橙色に変化し、共鳴現象を発生させる。


「……何も変わってねぇな」


 恭也は傍から彼女の様子を伺うが、目に見える変化は特にない。


「言ったでしょ。あたしの異能力(クラフト)はシンプルだって。まぁ見てなさい。すぐに分かるから」


 彼女の言う通り、恭也はすぐにそれを知る事となる。

 昭慧(シャオフェン)が偃月刀を構え、魔物のへと向かっていく。しかし、今までとは一線を期す程の速さで。

 魔物は足元に移動したそれに反応出来ず、偃月刀が猛威を振るう。

 先程と打って変わって、刃は黒色の毛並みに覆われた肉質へと入っていき、魔物の右前足を切断した。

 胴体から離れたそれは黒煙となって消えた。


「――――――――」


 ブラックウルフは右足を落とされた事によって声を上げ、体勢を維持出来なく崩れ伏せる。



「――良かった、この状態ならば刃は通りそうね……恭也、安心して良いわよ。こいつには絶対に負けないから」


 不敵な笑みを向けられた恭也は、昭慧(シャオフェン)が持つ異能力(クラフト)について考えていた。とは言っても、それがどんな力なのか大体は想像がついていた。


「なるほどなぁ、確かにシンプルな異能力(クラフト)だ。んでもってシンプルに強い。さっきの瞬発力と言い、鋼のような肉質を破って足を切り落とした腕力。あんたの異能力(クラフト)は身体強化。そうだろ?」

「流石ね。こんな短時間で見抜くなんて。そう、私のそれは身体強化。自分で言うのもあれだけど、相当強力だと思ってる。クロノスの恩恵である身体強化に上乗せされて、更に底上げして強化出来るの」


 どんな技術を身に付けようが、それを支える根源たるものが肉体的力。彼女はそう解釈し、己の異能力(クラフト)は強いと豪語しているのだろう。


「でも、これを使って攻撃が通じなかったらどうしようかと思ったけど、どうやらその心配は杞憂だったようね」


 昭慧(シャオフェン)は再び偃月刀を構え、ブラックウルフの首を見据える。


「今度こそ首を落とすわ。それで幕引きよ!」


 まだ体勢を立て直せていない巨体へと地面を蹴って向かっていく。


「――――」


 しかしその直後、ブラックウルフは体を起こし、雄叫びを上げる。


「っ……何……?」


 警戒して足を止めたのが仇になったか。ブラックウルフは残った三本の足で立ち上がり、次の瞬間その巨体でモノレールの壁を破壊し、車両の上へと向かった。


「逃げるつもり? そうはさせないわ!」


 車内に流れ込む強風に逆らいながら、昭慧(シャオフェン)も車両の上へと出る。


「……よっと」


 続いて恭也も上に登ると、ちょうど彼女と魔物が向かいあっていた。


「――――」


 モノレールの路線に面する海の潮風が漂う中、ブラックウルフは再び声にならない雄叫びをあげる。


「おい、気を付けろ。そいつ何かしてくるぞ」

「ええ。奥の手ってやつね……!」


 そして、その体に変化が現れる。黒く大きな胴体から肉を割くを音が聞こえ、それが生えるように姿を見せた。

 その毛並みに溶け込むような漆黒の物体――まるで、コウモリが持つ羽のような大きいそれが、胴体の左右に生えて、宿主を宙へと羽ばたかせる。


「羽を生やしやがったな。どうやらあいつは空中戦をお望みみたいだぜ?」

「生憎、あたしは翔ぶ力は持ってないわね……でも、()()()仕留める事は可能よ!」


 戸惑うどころか意気込んでそう言う昭慧(シャオフェン)に、恭也は小さく笑う。


「んじゃ、最後まで頼むわ。(ロウ)

「ふふ、昭慧(シャオフェン)で良いわよ。ええ、ここは任されたわ」


 ブラックウルフは大きく口を開け、そこに炎を溜める。


「その首、今度こそ頂く!」


 昭慧(シャオフェン)は勢い良く空中へ跳び上がり、今にも炎を吐き出そうとするブラックウルフへと向かっていく。

 偃月刀を前方に突き出し、風を切り、標的であるそれを目掛けてただひたすらに空へ。その姿はまるで、竜のように。

 ――昭慧(シャオフェン)が構える偃月刀は、それに迫るだけに留まらず、ブラックウルフの胴体を貫く。


「はぁぁぁぁぁ!」


 そして、胴体が刺さった偃月刀を海へと向かって振り下ろす。


「――――――」


 ブラックウルフは胴体を貫かれた事によって断末魔を上げながら、大きな水柱を起こしながら海面へと勢い良く着水した。

 水面には死体は浮かんでこず、ただだだ黒煙が立ち上っていた。


「……はっ。めちゃくちゃしやがるな、あいつ……」


 その光景を恭也が車両の上から眺めていると、背後にトンと、着地する靴音が聞こえた。


「どう? バッチリ決めてやったわよ」


 それは勇ましくガッツポーズを取っている昭慧(シャオフェン)のものだった。


「半端ねぇな、あんた。正直驚いたぜ」

「これくらい当然よ。あ、こっちでは朝飯前、とか言うんだっけ――こほん、画竜点睛偃月刀流中伝、(ロウ)昭慧(シャオフェン)にかかればこんなの朝飯前よ!」

「いや、態々言い直さなくても良いんだが……」


 呆れた目で彼女を見る恭也は、その言葉のある部分に疑問を覚えた。


「画竜点睛偃月刀流……それがあんたの流派か?」

「……ええ、そうよ。あたしはその道を歩く者として、貴方に仕合いを挑む為、この国に来たの。楪一刀流、最後の弟子である貴方にね」

「……最後の弟子、か……」


 恭也は少し考えてから小さく呟いた。


「……ま、受けてやっても……」

「え? 何か言った?」

「いいや、何も。とりあえず車両の中に戻ろうぜ」

「確かに。ここじゃ風が強くて落ち着いて話も出来ないわね」


 二人は車両内に降り、恭也の提案でこれからどうするか考える事になった。


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