十二話 早朝
夕暮れの喫茶店の中、恭也は司に今日の出来事を話していた。
「――って事があったんだよ」
「なるほどね」
司は手元のコーヒーを啜りながら頷いた。
「そっちでも一波乱あったんだね。それにしても闘偃祭かぁ……懐かしいな。実は僕もね、四年前まで偃月訓練学校に通っていたんだ」
「へぇ、そうなのか」
「恭也君も闘偃祭に出るの?」
「どうかね……闘偃祭についてもあんま知らねぇし」
「無理もないよ。ここの訓練学校ならではの行事だから」
司はこほんと、咳払いしてから説明を始めた。
「闘偃祭を簡単に説明するなら、毎年七月から十一月までの期間において行われる偃月訓練学校の目玉と言える行事さ。参加条件は訓練学校の生徒、そしてCSの鉄則である二人組である事が条件。参加する各組が闘い、偃月訓練学校の最強のバディを決める。それが闘偃祭だよ」
「あんたもは出た事あるのかよ?」
「うん。姉さんと一緒にね。優勝は出来なかったけど」
司は喫茶店の窓から茜色の空を見上げる。
「とんでもなく強い二人がいてね。敵わなかったんだ」
「へぇ?」
「三年間誰一人勝てなかった二人組さ。今じゃ二人組日本に十人しかいないS級として活躍してる……多分その内の一人は君が良く知る人物なんじゃないかな?」
「……へっ、そりゃ調べてるよな、俺の事」
「初対面時は敢えて言わなかったけど、A級の事。特殊な入隊経緯。楪流の使い手――僕は君を高く買ってる」
司は何もかもがお見通しだと言わんばかりの顔だった。
「何処まで話したっけ。えっと……そうそう。その二人は個々の実力はもちろん、何より息の合った完璧なコンビだった。CSに一番求められるバディとしてのね。だから――」
その言葉から、重々しいそれを感じた恭也は何を言い出すのかと頭を傾ける。
「僕達にもそれが必要だと思うんだ。だから、その為にもそろそろ話して貰えるかな。何故あの時君が真っ先に現場へ駆け付けられたのか」
「……俺を呼び出した本当の理由はそれかよ。ま、俺らはただただ雑談するだけに集まる間柄じゃねぇもんな」
恭也は一呼吸入れてから答えた。
「あれは俺の異能力だよ」
「…………」
「俺の異能力は周囲の魔族の位置を特定する――そんな感じの能力だ」
「……だから、魔族の位置が分かった?」
「そうだ。で、魔族の元へ一足先に駆け付けた。被害者を増やさない為にな」
「――そう……」
恭也が口を閉じた後、暫くしてからテーブルの伝票を手に取り立ち上がった。
「そうなんだね。そういう事なんだ。じゃあ君とはもう話す事は何も無い。ここは僕が払っておくから解散しよう」
「……今日は魔族殺しを探さねぇのか?」
「うん。先日も言ったけど手詰まりだからね。じっくり探そうと思ってる。僕は日課の見回りを続けるけど、恭也君は色々と大変そうだし今日は良いよ」
いつも通り笑みを浮かべる司は会計を済ませて、喫茶店を後にした。
「…………」
恭也は喫茶店から彼の姿が消えた頃、同じく退店して寮へと足を動かした。
――次に恭也が彼、片桐司の姿を目にしたのは、翌日の朝に報道されたニュースの一面だった。
『――今日未明、偃月市在住のCS隊員A級片桐司さんが、埠頭の倉庫付近で水死体となって発見されました。警察は腹部の刺傷から、殺人事件の線で捜査を――』
恭也はニュースキャスターの声を遮るようにテレビの電源を切る。
「司が……死んだ……だと? どういう事だよ……こりゃあ……」
報道されたニュースに衝撃を受けた後。
「……確か埠頭って言ってたな……北区の方か」
恭也は寮の部屋を飛び出し、モノレールの駅へと向かった。