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終焉のパラティリシ  作者: わふ
一章 狩人達の宴
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十話 正体不明の魔族殺し

 

 四月十七日。


「――ったく。いきなり呼び出すなよな」

「ごめんごめん。びっくりさせちゃったかな?」

「そりゃあ。あれから音沙汰なしで、急にここに来いって言われたらな」


 放課後、突然恭也は司に偃月島西にある住宅区の児童公園へと呼び出された。


「で、任務の話かよ?」

「うん、そう」

「やっぱりな。そろそろだと思ったぜ」

「まぁ、こっちの生活が落ち着くまで待ってあげようと思ってね。それで任務だけど結構特殊なんだよね……」

「あん?」


 引っ掛かる物言いに首を傾げる恭也に、司はディールのホログラム映像を見せる。


「これを見てほしい。約二週間前――三月二十九日の早朝にこの公園で発見された物」

「こりゃあ……魔族の死体か?」

「そう」


 司のディールに映し出されていたのは、公園の遊具に横たわり首に切り傷がある魔族の死体の写真だった。


「で、この死体が何なんだよ?」

「うん、一見するとただの魔族の死体。でも、問題なのは、これを殺した人物が分からない事なんだ」

「は? どういう事だよ? 防犯カメラに映ってなかったのか? ってか魔族を殺すなんてCS隊員くらいだろ?」

「一気に質問しないでよ。取り敢えずこっちの映像を見てよ」


 司はホログラム映像を再生する。


「これは二十九日の午前二時の映像だよ」


 この公園に唯一ある街灯の下に魔族が通り掛かる。


「こいつが例の魔族かよ?」

「そうだよ」


 魔族はその場に立ち止まった。


「角は――青色? 最下級の魔族じゃねぇか。てか、こいつこんな所で何やってんだ?」


 恭也はホログラム映像に顔を近付ける。


「さぁね。でも何かブツブツ言ってる。魔族語だから分からないけど」

「……ああ。確かに。そうだな……」


 人間には聞き取れない言葉、魔族語で話すそれは暫くその場に留まっていた。

 痺れを切らした司は映像を肝心な場所まで早送りにした。


「ここだよ」


 再生速度を戻すと同時に、人影が公園に現れた。


「あ? 何だこいつ……」


 それは黒装束を着た仮面で目元を隠す人物。着衣の上からでも分かる体のライン、僅かに見える口元から女性だという事は分かる。


「変な格好だな。でも角は無いし人間だ……もしかしてこいつが?」

「見ていたら分かるよ」


 急に現れた黒装束の人物に対して、魔族は焦っているように見える。

 そして魔族は、自分達の言葉でこう言った。


『だ、誰だ!? お、お前……亜人か!?』


 当然人間の彼には聞き取れるはずもなく、ただ映像を見ているだけだった。

 だが魔族の顔と動作には焦りと驚きが映し出されており、どういう状況かは理解出来ているみたいだった。

 映像内の黒装束の人物も同様だろう。だから、言葉ではなく行動で示した。

 懐からクロノスを取り出した。彼女の得物は短剣。

 そして素早い動きで狼狽えている魔族背後を取り、首を掻っ切った。紫色の血が吹き出し、司が見せた写真通りの状態で横たわった。


「すげぇ速さだな……クロノスの身体能力強化を加味しても中々だぜこりゃあ……」

「……はぁ、何感心してるのさ……」


 高揚する恭也は司に窘められ、映像の続きに集中する。

 黒装束の人物はカメラの死角である真下へと消え、その後はこの映像に映る事なかった。


「消えたな。公園から出てったのか?」

「さぁ?」

「さぁ……ってお前な……」

「分からないんだよ。この人物が向かった方向のカメラも調べてみたけど映ってなかった」

「そんな馬鹿な事があるかよ? 人間は魔族みたいに転移魔法みたいな芸当出来ねぇんだぜ?」

「信じられないなら確認してみなよ」


 そのカメラの映像を流すが、彼の言った通り彼女の姿は何処にも映ってなかった。


「……マジで映ってねぇな……」


 でしょ? と言わんばかりの顔で映像を消し、黒装束の人物の顔をアップにした画像を映し出す。


「でさ、さっきの問いの答えだけど」


 その先の事を言われずとも恭也は察していた。


「こいつCS隊員じゃない。それで素性を調べようにもこの暗さと口元しか映ってないこの映像だけじゃ、データ照合も出来ない。そんでもって他のカメラにも映ってない。だから探そうにもなーんにも手掛かりがねぇから手詰まり、ってとこだろ?」

「ご明察。いや、この任務が回ってきた時は頭を抱えたよ。この人物を見つけ出せなんてさ。今もだけど、手掛かりゼロ。どうやって見つけたら良いんだ、恭也君もそう思わない?」

「思う。そんな任務を抱えてるお前と組まされる事になってめんどくせぇって思う」


 はっきり言うが実際その通りだろう。ここにいるのが恭也じゃなくて他の誰でもそう思う厄介な任務だ。


「ってか、何でこの女を探してんだよ? 魔族を殺しただけなら別に良いだろ?」

「上層部はこの人物をCSに引き入れたいみたいだね。今のCSは何処も人手不足だからさ。恭也君も言った通りさっきの動きは中々筋が良い。鍛えればかなりの逸材になる、そう考えてるんだって。はぁ、ただでさえ日課のパトロールがあるって言うのに……偃月は魔族出現率が低いのがせめてもの救いかな」

「でもこの任務の重要度は低いんだろ?」

「そうだね」


 重要度が高いのなら、この話だけでも真っ先に恭也へ伝えていたはずだ。


「ま、パトロールのついでに探してみるかぁ。手掛かりはこの顔写真と、こいつが持ってるクロノスだな」

「このクロノスだけど、起動後のデザインからして神白製品だね。良くある量産型で普通に店頭で並んでる物。つまり、誰でも入手可能な品だよ」

「…………聞かなかった事にして良いか?」

「まぁまぁ……そう言わずに。とりあえず商業区にある神白グループのクロノス専門店に行ってみる? 聞き込みと、他のカメラに映ってないか確認しながら」

「そーだな」


 恭也は望み薄で司と共に商業区へと向かった。

 結果から言えば、当然の如く収穫はなし。徒手のまま、正体不明の魔族殺しを追う事となった。


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