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終焉のパラティリシ  作者: わふ
一章 狩人達の宴
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九話 一章プロローグ

 

 西暦二〇四三年、五月十八日。東京都新宿某所

 上は大粒の雨を降らす曇った空、地面には街灯の光が反射する水溜まりの地面が広がる繁華街。

 その一角にある寂れた廃ビルを取り囲むように赤のランプを回す警察車両が十台弱止まっていた。

 夜にしては眩しい光が作る影に、とある二人の若い女が廃ビルを見上げていた。


「ここかい?」

「そうみたいやね。魔族が出たっちゅうんは」


 一人は京都弁で話す着物を着た女。


「今の内に装備を整えとこか」


 そう言って青白い四角い箱――クロノスを起動させる。それが真の姿を示すは弓。

 彼女はクロノスの弓使いでCS隊員A級、朝比奈(あさひな)更紗(さらさ)


「んー、面倒だけど気合入れていっちょやりますか!」


 そしてもう一人、長く綺麗な黒髪を持ち、クロノスの太刀を得物とする女。CS隊員S級、(ゆずりは)乃々葉(ののは)


「と、その前にこの現場を取り仕切ってる人に挨拶が先かな」

「そうですな。多分近くにいらしてはるんとちゃいます?」


 二人がとある人物を探していると。


「今この現場を取り仕切ってるのは俺だ」


 タイミングを見計らったかのようにコートを着た強面の男が話し掛けて来た。


「警視庁一課の南雲だ。お前達が派遣されたCS隊員か?」


 そう言って、南雲は警察手帳を見せる。


「そうです。A級隊員、朝比奈更紗と――」

「S級隊員、楪乃々葉だ」

「A級に……S級……どうやらこの映像に映っていた魔族は余程大物らしい」


 南雲は二人に見せるようにディールでホログラム映像を起動させる。

 映像の内容はその廃ビルから角の生えたそれが、周りを気にしながら出ていく様を映していた。


「どうやらこれが今回私達を動かせた引き金らしい。更紗、どう思う?」

「うーん、角は青いしそない強力な魔族とは思えへんけど……そもそも警察は何でこの事件に関わってはりますの?」

「とある殺人事件がきっかけだ」

「殺人事件?」

「ああ、だがそれに魔族は関わっていない。この街で起こった殺人事件の犯人がこの廃ビルに逃げ込んだんだ。先程無事確保した際、廃ビル正面の防犯カメラを確認している時に魔族の姿を発見した」


 南雲は近くのカメラを指さす。


「なるほど。偶然だった訳か」

「そうみたいやね」

「そこでお前達CSが動く事になった。そういう経緯だ」

「それで、私達は何をすればいいんだい?」

「他の映像も確認したが、魔族は約一ヶ月前のある日を境に、この廃ビルへ頻繁に出入りしている。そして今見て貰った今朝の映像を見るに、魔族はそれっきり戻ってきていない。お前達にはその魔族の捜索及び、この廃ビルで魔族は何をしていたかの調査。二人にはそれを依頼したい」

「了解。私達は先に廃ビルの中を調べてくるから、南雲刑事には付近の防犯カメラのチェックを頼むよ」


 南雲が「分かった」と頷くと、二人は廃ビルへと入って行く。


「薄暗いなぁ」

「取り壊し予定だったんだろうね」


 廃ビル内は老朽化が進み、コンクリートの壁や柱が崩れかかっていた。


「この階には何も無いみたいだ。とりあえず最上階まで一通り調べよう」


 二人は廃ビルを調べる。しかし、これといった収穫はなく、寂れた空き部屋が並んでいるだけだった。


「何もあらへんかったなぁ」


 二人は再び一階ロビーへ戻って来た。


「うん。想定内さ」

「そうどすな。あの魔族がそう見え透いた場所に何か仕掛けるはずもないやろうし。で、目星は付いてはりますの?」

「もちろん」


 乃々葉はそう言って数歩足を動かした。


「ここだ――この床下かな。風の流れを感じる」

「ふむ……一見普通の床やけど……」

「多分何かしら仕掛けがあるんだろう。この床下への道を開く何かがね」

「それならうちの出番やね」


 そう言って更紗は弓を構えて弦を引く。


「まさかあれを使うつもりかい?」

「そのまさかや。乃々葉はん、少し退いてくださいまし」

「やれやれ……相変わらず手荒だね、更紗は」


 乃々葉は呆れながらも、更紗の背後へと下がった。


「ま、そういうところ、嫌いじゃないんだけどね」

「ふふ、嬉しいわぁ。ほないきますえ?」


 更紗の手から弦が離れ、青白色から橙色へと変化したクロノスの矢が勢い良く放たれる。

 そして例の床に突き刺さると同時に『ドカーン!』と大きな爆発が巻き起こった。

 爆発で舞った土煙。それが段々と晴れていき、粉々に砕け散った床の下に階段が現れた。


「……流石、更紗の異能力(クラフト)だ。暫く見ない間にまた威力を上げたかい?」

「どやろな。でも、乃々葉はんがそう言うならそうなんやろな」

「――おい! 今のは何だ!?」


 そこに爆発音を聞き付けて南雲と警察官数名がビル内に入ってきた。


「あー、大丈夫大丈夫。ちょっと強硬手段を取っただけだから」

「ちょっとって……」


 爆破された床を見ながら、南雲は目を細める。


「それより、私達は調査を進めるから。警察の方は引き続き監視カメラの方を……ああ、それと。この廃ビルの管理者も調べておいて」

「ビルの……? 何やら一悶着ありそうな雰囲気だな」

「まぁね。詳しい事は地下を調べた後で話すよ」


 乃々葉は手を振りながら階段を降りて行き、更紗もそれに続く。

 床下へ続く階段はそれ程長くなく、すぐに地下区画へと辿り着いた。

 地下も相変わらず薄暗く、僅かに光を放つ蛍光灯のみを頼りに二人は先に進む。


「地下も結構年季が入っとりますえ?」

「ああ。廃ビルになる前からあったみたいだ」

「……まさかそれでビルの管理者を?」

「隠し階段。そんな凝った物を約一ヶ月であの弱そうな、しかもたった一人の魔族が作れると思うかい? ビルの管理者が元から作っていたんだろう。もしも今回の件に関わっていなくても、それがちょっと引っ掛かるんだ」

「確かに。態々()()()()んやから、何や疚しい事があるんやろな。それにこう電気も通っとる。廃ビルにしてはおかしいわ」

「そう。だからこうして調べる訳さ……おっと、そろそろ終点のようだね」


 薄暗い一本道を進み、地下の最奥まで辿り着いた。


「部屋が二つありますえ? 手分けして調べましょか?」

「そうだね。私はこっちを、更紗はそっちの部屋を頼む」

「かまへんで。ほなまた後で」


 更紗は指定された部屋へと入って行った。

 それを確認した乃々葉ももう一つの部屋の扉に手を掛ける。


「――さて、鬼が出るか蛇が出るか……見させてもらおうか」


 ドアノブを回し、ゆっくりと中に入る。


「……暗いな……」


 真っ暗な部屋の壁を伝い、明かりのスイッチを探す。


「――あった」


 カチッとスイッチを押し、廊下と同じ蛍光灯が充分とは言えない程の光を放つ。


「ここは……何かの実験施設……? ふぅん、いよいよ本格的にきな臭くなってきたね」


 部屋の中は何らかの機材で溢れ返っていた。

 その中央には威圧感を放つ実験カプセルがあり、それは彼女がここを実験施設だと断定した理由でもあった。

 実験カプセルは闇に覆われており中が見えない。


「調べてみるか……」


 手に持っていた太刀を機材に立て掛け、実験カプセルの近くにあったコンピュータのキーボードを叩き始める。


「……今は外から見えないようになっているのか……うん、これならその道の者でない私でも解除出来そうだ」


 そう分かった途端、キーボードを叩く指が速くなる。


「よし」


 一分後、いよいよ実験カプセルの中を覗き見る事が可能になった。


「――解除」


 エンターキーを押すと闇が晴れていき、カプセル内の青い液体が露見する。


「――これは――」


 そして、その中にぷかぷかと浮かぶそれを目の当たりにした乃々葉は絶句した。


「――――いやはや、これは……流石に――」


 予想外。そう言おうとした時、慌てた様子の更紗が部屋に入って来た。


「大変や! 乃々葉はん! ちょっとこっちに来て――え……?」


 それに居合わせた更紗も絶句せざるを得ない。


「やあ更紗。見ての通り、こっちも大変さ」

「そ、そうみたいやね……」

「そっちも――もう一つの部屋でも何かあったみたいだね」

「そ、そうなんよ……ちょっと来てくれへん?」


 乃々葉はもう一つの部屋へ向かった。

 更紗が調べていた部屋の中には鉄格子が嵌められており、まるで牢屋のような場所だった。


「――訳が分からないね。更紗もそう思ったんだろう?」


 問題はそれ自宅ではなく、錆びた格子の隙間から見える者――幽閉されている者。


「……流石に私達二人じゃ手に余るね。まずは南雲刑事達に状況を知らせて、然るべきところに任せよう」

「……もしかして……」

「うん。あの天才博士のお膝元、偃月島さ。この手の案件はお手の物だろう。取り敢えず南雲刑事に知らせよう。私はここを見張っている。更紗は上に戻って彼らを呼んで来て」


 更紗は頷き、部屋を出て行った。


「……偃月島」


 一人になった乃々葉は小さく呟いた。


「ふふ……思ったより早い再会になりそうだね――恭也」


 そう言いながら、牢屋の中にいる角の生えたそれに目を向けた。


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