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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
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80.お祭りを楽しもう

「おはよう」

「うん、おはよう」

 制服姿の桃香と朝の挨拶をして、並んで歩き始める。

「朝ごはん食べてる時のニュースがね」

「うん?」

「いつもと違う番組でちょっと面白かった」

「ああ……今日は土曜日だもんな」

 そんなことを教えてくれた桃香に、確かにと頷く。

 あっという間に九月は最終日になり、学園祭の当日を迎えていた。

「そういえば」

「ば?」

「週末の占いはうお座が一番だったよ」

「そっか、おめでとう」

 そんな風に言うと、桃香に肘の辺りをぺちっと叩かれる。

「はやくんも、でしょ?」

「……まあ、そうなんだけどな」

 そんな隼人に、桃香が内容を教えてくれる。

「ちなみに、ラッキーパーソンは」

「うん」

「年上の女性、だって」

「それは……」

 三月生まれで一年生の隼人からすれば今日遭遇する女性の九割五分は年上になってしまうのだが、と何とも言えない表情になる。

「わたしも、お姉さん、だもんね」

「……ほんの数時間くらいで何を」

 自分の方を指している桃香の手の手首を握ってそのまま頬の方に押してやる。

「ほねえふぁんだょもん」

「はいはい」

「もーっ」

 雑に頷きながらも、確かに桃香はラッキーを始めとして隼人に色々なものをくれる存在だとは内心認める。

 ただ今日は苦労の少ない幸運であってくれますように、と願うのだった……何せ、今週末は本番なのだから。




「わくわく、してきたね」

「……俺は緊張してきた」

 教室に荷物を置いたらすぐに移動し、クラスの出し物を設営した特別教室前でそろそろ目には慣れてきた魔女の格好を整えてやって来た桃香が笑う。

「ん……?」

「どしたの?」

 慣れたものの、まだちょっと違う? と思って注視すれば。

「それは?」

「これね?」

 頬にラメカラーの星が付いていた。

「琴美ちゃんが予算の余りで買って来たんだって」

「……ますますハロウィン寄りになるな」

 素朴な感想を言った後、手持ちのプリントとそれに書き込んだメモに目を落とす。

「どしたの?」

「いや、何か見落とし無いか心配で……」

「はやくん、しっかり準備していたからだいじょうぶだよ」

「そうそう、やるだけやったんだから思いっきり行こう」

 いつの間にか後ろに居た囚人姿の友也が発泡スチロール製の鉄球で一発後頭部にお見舞いして下さった。

「あとは、どーんと構えてればいいんだよ」

「ほら、はやくん笑顔笑顔」

 頬に両人差し指を添えてそんな風に促してくる桃香に、そんなに可愛く笑えないって……とは内心呟くも、その通りだとは思った。

「確かに、そうかな……楽しくやらないと」

「はい、そんな吉野君にお届け物」

 キョンシースタイルに着替えてきた美春に黒く畳んだものを手渡される。

「これは?」

「演劇部から空いているベスト借りたの、列整理の人が普通じゃ面白くないでしょ?」

「なるほど」

 絵里奈の説明に一理あると頷いてそれを羽織ると、腰と臀部の境目くらいに違和感があって……クリーニングのタグでも付いてるか? と手を伸ばせば。

「なんじゃこりゃ!?」

「わぁ……」

 黒いハンドモップ、と一瞬思ったがそれより細長く……。

「尻尾?」

「はい、吉野君これも」

 「こっちもいいじゃん」「クールジャパンサイコー」なんて声と共に時間差で教室に入って来た雪女姿の琴美に今度はカチューシャを渡される。

「……みみ?」

「猫ちゃんだ」

「魔女のお供と言えば黒猫でしょ?」

「いや……待って、なんでそんないきなり」

「「「だって事前にやってって言っても絶対聞かないじゃん」」」

 美春琴美絵里奈が奇麗に声を合わせて宣告してくれた。

「ぐ……ぬぬ」

「楽しむんでしょ? 隼人」

 一旦顔の前までは持ち上げたものの、震える手でネコミミとにらめっこをする隼人だが、そっちは絶対楽しんでるよね!? と言いたくなる様子の友也にも煽られる。

 様子に気付いた他のクラスメイトからも吉野コールと共に何故か一気コール迄巻き起こり……引けない、と観念する。

「おー! 行った!」

「ヒューッ!」

「流石男だぜ!」

「かわいいー」

「は、はは……」

 どうして開場前からこんなに疲れるんだろ……とがっくり肩を落とす隼人を、まあまあと肩を叩く桃香。

 そこに。

「仕上げはももーかさーん♪」

 歯磨きじゃないんだから、と言いたくなるリズムで絵里奈が桃香に何かを手渡した。

「あ♪」

 それは、桃香がしているのと同じ種類と思しき肉球マークのシール、だった。

「はやくん、いい?」

「……もうどうにでもしてください」

「うん」

 苦笑と共に両手を降参するように上げれば桃香は嬉しそうに台紙からシールを剝がし……近付く指先に思わず目を瞑る。

「何アレ? キスシーンみたい」

「仕方ないとはいえ近いよね」

「ま、あの二人ならあんなもんよね」

「それもそっか」

 言いたい放題言われてる気がする、と思いながらも受け流しつつ。

 ペタリと桃香と同じ位置に貼られる感触と共に、開場時間一〇分前を告げる校内放送が流されて。

「オッケーだね」

「ん」

 学園祭準備は、整ったのだった。




「それじゃ、責任者さんに一言頂こうかしら?」

 きっちり三分で手早く連絡事項を伝達した、こちらは後半戦担当のためまだ制服姿の花梨にそんな風に振られて、再度隼人に注目が集まる。

「え、えっと……本日はお日柄も良く……?」

「なんでやねん」

「校長先生か!」

「綾瀬さんが絡まないとホント固いなぁ!」

 咄嗟に思い付いたことを口にするが総ツッコミを受ける。

「もーちょっと弾けろよ」

 誰だ? この謎のポーズを決めたオオカミ、と思ったがよく声を聞けば蓮だった。

 まあでも、つまるところ今日はこんな日なんだ、ということで。

「では皆さん、安全に配慮し今日一日名一杯楽しみましょう……」

 おいおい、まだこの路線かよ……という視線を感じた後、右手を上げて一言だけ付け加える。

「ニャ」

「「「「「……」」」」」

 全員が呆気に取られるか驚愕で固まった後……たまらず噴き出した美春や絵里奈から笑いが伝播して。

 そのタイミングでもう一度口を開く。

「はい、じゃあ、せーの」

「「「「「ニャー!!」」」」




「猫だ!」

「ええ……」

「隼人が、あの隼人がネコミミ付けて……くっ、あははははははっは」

「……姉さん、笑いすぎ」

 開場一発目の、つまりは校門から真っ先にこちらにやってきたお客様は隼人にも馴染み深い姉的存在二名だった。

 その目立ちようから他にも流れで付いてきてくれた人も並んでくれるので来客的には有難い、のだが。

「あー、おっかしい……来てよかった」

「……雰囲気作りだよ」

 こちらにお並び下さい、と言いながら誘導する中。

「ところで隼人」

「うん?」

「撫でても、良いですか?」

 悠への相槌以外、黙っていた彩が本気の目で聞いて来た。

「ウチの出し物、ネコカフェじゃないんですが」

「じゃあ、後日で」

「……またこの格好をしろ、って?」

「ええ、モチのロン」

 流石にそれは絶対に避けたい……と思い、一瞬だけ身を屈める。

「手短に」

「お手数を掛けますね」

 ほんの三秒くらい、だったが。

「あ、悠姉便乗はずるい」

「えー、いいじゃん」

 二人は割合満足してくれた模様で。

 そして。

「……」

 受付の机の辺りから飛んで来る視線に、桃香にも後で同じことを倍以上の秒数でしなくてはいけないんだろうな、と覚る隼人だった。

「おー、桃香は魔女か」

「こちらは普通に可愛いですね」

 こっちは普通じゃないってか? と反射的に思った後で、そもそもそう言われたい訳でこの格好はしてない、と思い出す。

「なるほど、それで隼人が黒猫なのか」

 愉快そうに笑った悠の良く通る声に、この二人はそういうことなの? といった目で他の並んでいる人に見られるが気付いていないフリで通す。

 そんなうちに悠の方はまた違ったものに興味を引かれた模様だった。

「なんだかいい香りが……このビーカー?」

「気になる人は理科室の理化学同好会へどうぞ」

 タイミングバッチリで行われた桃香のアナウンスに。

「お、後で覗いてみるか、彩」

「ええ」

 黒田先輩、目論見成功してますよ……と内心で呼びかけながら少しずつ増えてくる来客に声を掛け並んでくれる人を誘導する隼人だった。






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