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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
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75.準備も徐々に盛り上がり

『隼人』

「うん?」

『来月最初の土日は何の日?』

 九月も下旬に差し掛かろうという平日の夕方、帰宅直後一息入れたらかぐやと七割くらいで付いてきてくれる桃香と散歩に行くかという時間帯。

 通話アプリから聞こえてくる悠の声にカレンダーを見るまでもなく答える。

「学園祭あるけど……」

『……』

「招待、桃香に頼んであったよね?」

 あれでしっかり者の桃香のこと。

 まさか忘れているということはないだろうと思ったところで。

『隼人』

 彩の声がフォローに入る。

『悠姉は隼人からも誘って欲しいそうです』

「えぇ……」

『桃香が誘っているかもしれないけれど、で花梨と真矢ちゃんはきちんと声かけてくれたぞー』

 ならそれでいいじゃないか、と心の中で思えど。

『桃香がしておけば良いやなんて桃香は隼人の奥さんか何かかー』

「いや、そうではないけど」

『ならさー』

 大分外面の良さが崩れてしまってるぞお嬢様……と内心溜息を吐いて。

「お待ちしておりますので是非お越し願えますか、悠姉さん」

『他人行儀~』

「楽しみに待ってるからきっと来てね、お姉ちゃん」

 どうしろと? と、半ばヤケクソな棒読みになってしまう。

『えー、可愛い弟のそんな頼みなら仕方ないなー』

 ご満悦な声になんとかなったか……そろそろかぐやが催促を始めるな、と思ったところで。

『隼人』

「彩姉さん?」

『私、誘われてませんが』

「あー、もうっ!」

 結局、普段はお代わりを準備してくれる彩に対して、同じ流れを申し述べることになる隼人だった。




「……とまあ、そんなことがあったよ」

「あはは……」

「そんなことが」

 数日後の昼休み。

 桃香と真矢が廊下で話している所に出くわし、何となくそんな話を詳細を大幅に省きつつすれば二人が笑う。

「夏祭りの時にお世話になったので、僭越ながら」

「お姉ちゃん、喜んでたよ」

 桃香に言われて、真矢が緊張の笑顔になりながらお下げを弄る。

「本物のお嬢さまをお誘いするのは、ちょっと怖かったりもするんだけどね」

「ああ……」

 真矢のクラスは執事メイド喫茶だったか……と思い出しながら。

「いっそのこと、彩さんに講習会を開いてもらおうかと思ったりしたもの」

「いや、あの人普通の女子高生だからね、あくまで」

「真矢ちゃんのクラスも結構本格的だからきっと大丈夫だよ」

「そうなのか?」

「ちょっと教えてもらったけど、衣装とかもしっかりしたところからレンタルしたりとか、ね」

「ふーん」

 どこのクラスも頑張っているものだな、と思う隼人に真矢が説明してくれる。

「そりゃ、ウチの委員長が九分の二のジャンケン勝ち抜いてゲットしたもの、本気でやらないと他のクラスに失礼でしょ?」

「それはそうか……喫茶店も二つあるんだ」

「三年生が性別反転でやるって」

「……それはまた」

 ちなみにお化け屋敷で競合した三年生クラスは「ゾンビ病院からの脱出」とかいうかなり本格的なものらしく……。

 先輩方は羽目の外し方も違うな、と妙なところで感心する。

「ところで、桃香」

「うん?」

「桃香的には、吉野君をウチの喫茶店に誘っても大丈夫なの?」

「あ……」

 瞬きを一つした桃香が、胸の前で両手の指を捏ねまわしながら長考に入る。

「うー……ん」

「あ、余計なこと言ったかな」

「……どう、だろう」

「吉野君が桃香以外に目が行くわけないからいいかな、って思ったんだけど」

 廊下でコメントしづらいことを言わないでほしい……と思いながら隼人も沈黙する。

 確かのその通りではあるのだけれど。

「真矢ちゃんをご指名でいいなら」

「なるほど」

 結論は、割と無難なところに落ち着き、それを待っていたかのように予鈴が鳴る。

「じゃ、行こうかはやくん」

「ああ」

「真矢ちゃん、またね」

「また今度ね」




「はい、行くわよ、桃香?」

「……うん」

 放課後。

 普段より遅いのと夕暮れが早くなったのが合わさって少し外が暗くなり始める直前の時間。花梨に促された桃香がミルクティー色の後ろ髪を引かれまくりながら席を立つ。

 出し物を行うクラスにはその設営予定の空き教室などが開放され、下準備を始める時期に入っていた。

「先に、帰るね」

「ん」

 ただ、秒読み前というほど詰まっている訳でもないため、普段より伸ばされた閉校時間まで残って良いのは男子のみ……という理由で。

「はやくんと帰れないの……いつぶりかな」

「少なくとも全くなかったわけじゃないだろ」

「そう、なんだけど」

「本当の最初の頃は桃香、吉野君から逃げてたものね?」

「花梨ちゃん!」

 涼しい顔で素早く桃香の物理も伴う抗議(勿論全く痛くない)の範囲外に逃れた花梨に、行き場を失った桃香の手が隼人のシャツの腹あたりに軽く当てられる……無論、本当に接触しただけくらいの感じで。

「俺?」

「はやくんに全く無関係……じゃないもん」

「いや、それはそうかもしれないけれど」

 苦笑いしながらも、宥める……それこそいつぞやのように桃香が教室で半ば告白まがいの自爆したら目も当てられない。

 というか、その後隼人は居残らねばならないのにああいうことをされては居たたまれなさに居場所がなくなりかねなかった。

「ほら、気をつけて帰りな」

「……また、何だかちっちゃい子に言ってるみたい」

「良い子だから」

「もー……」

 僅かに唇を尖らせながらも、優し目に言った隼人に頷いた桃香が鞄を持ち直す。

「はやくんこそ、暗くなるから気をつけてね」

「ん、わかった」

「あと……がんばって、ね」

 胸の前で握り拳を作って笑いかけられる。

「じゃ、また……」

「ああ、また……」

 二人して「夜に」と言いかけて慌てて思い止まる。

 隼人の背中全体から汗が一気に流れる感触がした……桃香も冷や汗ものだったのは微妙な表情の変化で分かった。

 また明日……なんてそこまで時間を空けるつもりもない、心にもないことを言い合う。

 流石に夜のあの時間は、厳重に二人だけの秘密だった。




「さて」

 桃香が小さく手を振って扉を閉めて。

 それから、首と肩を回して、今から作業するぞ! という感じを全身で表現して。

「じゃあ、やりますか?」

 精一杯の笑顔を心がけて振り返るものの。

「吉野への説教を、か?」

「毎度毎度よくやるぜ」

 勝利と蓮が苦虫を数匹噛み潰した顔で待っていてくれた。

「流石にあそこまで行くと独り身には微笑ましい通り越して目に毒だよ、隼人」

「もうどう言われようが隼人が何と言おうが、雰囲気が恋人か、それ以上なんだよね」

 穏健派に属するであろう友也と誠人も弁護不可、といった感じで肩を竦めている。

 なので他の男子に至っては言わずもがな、だった。

「じゃ、吉野には一番重い荷物担当してもらうか」

「案外細マッチョだもんな」

「それにさっきやる気と元気補充してたもんな」

「が……頑張ります」

 一応実行委員長という肩書で音頭を取る身、ながらも。

 高い背を小さくして運び込む荷物の下へと向かう隼人だった。





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