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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
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71.お出かけにも少し慣れ。

「「あ」」

 玄関先にて。

 髪をリボンで飾って、いつも二人で過ごす休日より少しだけおめかしをした桃香と目が合った。

 少し肌を覆う部分が多めで暑くないか? とも思うけれど逆にまだまだ冷房が強い場所もあるから寒がりな桃香には良いかもな、とも考えられた。

「わたし、遅かった?」

「いや……こっちが急いたんだとは思う」

 済まない気持ちで頭を掻きながら、とりあえず二人で道路の方に出る。

「じゃあ、えっと……逆になっちゃうけど、はやくん歩くの速いから先に行ってもらっちゃおうか……な」

 人差し指を立てて提案してくる桃香。

 発端は、何気なく桃香が言った「そういえば、デートの時に待ち合わせしたことないかも」。

 家の立地上仕方がないとはいえ、なら手始めに最寄り駅でしてみようか? とはなったものの手持無沙汰になった隼人がもう行っただろうと家を出てしまって台無しになっていた。

「……」

 そんな提案を、一瞬だけ内心で吟味して……。

「わ」

 桃香の手を捕まえて、駅に向かって歩き出していた。

「さすがにここからわざわざ別れて行くことはないだろ」

「うーん」

 軽く引っ張られながら考える桃香の手を包んだ手の中で二度握って。

「一緒に行こう」

「!」

 そう伝えると、桃香は素直に頷いて歩くペースを合わせてくれて……普段通りの形になる。

「じゃあ、待ち合わせするには電車一本ずらして行先の駅で、とかにしないとかな?」

「ん……」

 また、桃香の提案を吟味して……。

「桃香が格別にこだわるわけじゃなかったら、無しかな?」

 また、却下する。

「そうなの?」

「ああ……じゃないと」

「と?」

「電車移動の時間が物足りないし勿体ない」

 そんな隼人の言葉に桃香は一つ瞬きをした後。

「えへ……」

「……何だよ」

「そうなんだ?」

「……そうだよ」

「そうなんだ」

 そんな風に言って笑った後、隼人がよろめくにも足りない程度の勢いで肩をぶつけてきた。

「じゃあ、しょうがないよね」

「……かもな」

「いっしょに行こうね、はやくん」




 今日はあっさり隣同士で座れた電車で、小一時間話しているうちにあっという間に目的地に着いて。

「あっという間、だったね」

「まあ、割とすぐ着いたな」

「二人でいたからかな?」

 ご機嫌な表情で隣から見上げてくる桃香から少しだけ目を逸らして。

「かもな」

 ……と返す。

「はやくんって……」

「俺って……?」

「ううん、なんでもないよ」

 くすっと笑ってから、桃香が腕を絡ませて、注意と行き先を引いて来る。

「あっち、みたいだよ?」

「ああ、行こうか」

「うん」




「えへへ」

 小洒落た店内で、うきうきとメニューを眺めている桃香を見ているだけで良いものだな、とは思ってしまう。

「何を頼むかは、決まってるんだっけ?」

「テレビの紹介で見た時の、のつもりだけど、他もチェックしようかな、って」

「なるほどな」

 頷いて、自分の飲み物を決めた後、ふと流れているオルゴールアレンジの音楽が耳に入って来る。

「どうしたの? はやくん」

「いや……この曲、どこかで聞いたことあるな、って思ってさ」

「うーんと?」

 メニューの気になるページに指を挟んで桃香も耳を傾け始め……。

「あ」

「わかった?」

「うん」

 小さく口にした英語のフレーズが曲調と完全に一致する。

「それだな」

「うん」

 少し得意げに頷いた桃香が、でもこちらはと迷いながらメニューを開いて隼人にみせてくる。

「テレビでやってたのは、これ」

 チョコレートの、パフェ。

「うん」

「でも、今さっき出会っちゃったのは、これ」

 フルーツを盛り合わせた、プリンアラモード。

「どっちがいいかな、って」

「……そうか」

 そこに真剣に悩むのが、桃香らしいよな……と思いながら、呼び出しのベルに手を掛ける。

「飲み物は決めたか?」

「うん、それは決まってるけど」

「二人居るのは、このためだったりもするだろ?」

「……はやくん!」

 あまり大きくはないテーブルの向かい側から、両手で両手を握られる。

「いいの?」

「ああ」

「ありがとう!」

 大げさだな、と苦笑いしながらも……頷いて、ボタンを押しこむ隼人だった。




「はやくん」

「ん?」

「けっこう大きかったけど、いいの?」

 程よい甘さのデザートの見た目と味と、それとそれを楽しむ桃香、を堪能した後。

 喫茶店の外でバックから財布を出していた桃香に首を横に振る。

「桃香の喜び方も大きかったから、いいよ」

「そう、なの?」

「ご馳走する約束もあったし……」

 そしてそれなしでも二人で出かけるのはもう当たり前になりつつあるので。

「いいよ、桃香」

「うん、ありがとう」

 お互い荷物を整えてから家や学校から離れたデート用の距離になった桃香と、じゃあ次に行こうか……と声が合った。

 そのことを嬉しそうにした桃香が確認するように言った。

「お星様、だね」




「はやくん、はやくん」

 自分ならいっそのこと歩くな、と隼人は考えてしまう、二駅分戻る次の目的地への電車の中で。

 肘同士が触れ合う距離の桃香が、ホームでの待ち時間からしていた「ちょっと調べたいこと」が終わったのか隼人の手の甲を突きながら話し掛けてくる。

「はい」

「ん?」

「付けてみて」

 促されるまま、イヤホンジャックから伸びるケーブルの片割れを耳にはめる。

 いいかな? といった感じにこちらを見た桃香に頷くとタップと共に曲が流れ始める。

「さっきのはこれ、だよね?」

「ああ、間違いないな」

「ね」

 潜めた声で確かめてから、にこにこと笑う桃香に……やっぱり、移動する時間さえ居てくれれば有意義になるんだな、と結論してしまう。

「どしたの?」

「……何が?」

 そんな気持ちで隣を盗み見たタイミングで微笑みを濃くされてしまうと……この気分は筒抜けなのかな、と思ってしまう。

 知られてしまうと、気恥ずかしさはあるけれど……こんな時間こそ大切に思っているのは伝わってほしい、とも思う。

「はやくんが先だったよ」

「……何か良いよな、ってだけだよ」

「曲の話?」

「半分……いや、三分の一は」

 勿論、片方の耳から聞こえてくるそれも良いものなのは間違いないけれど。

「残りは?」

「……」

「教えてくれないの?」

 軽く、脇腹を突かれる。

「……こういう時間も、良いもんだな、ってだけ」

「えへ……そっか」

 桃香がはにかんだところで、少し短めだった曲は丁度終わって。

 失礼しまーす、と桃香が隼人の耳からイヤホンを抜き取って……そのまま囁く。

「わたしも、好きだよ」

「……曲、の話か?」

「うん、四分の一は」


曲のイメージはAtlantic Starr のAlways です。

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