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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
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69.どうしたい?

「ね、はやくん」

 クラスでの会議が終わるや否や。

 隣の席の桃香が話しかけてくる……笑ってはいるものの、その笑顔に普段の柔らかな印象は、ない。

「知ってる、よね?」

「わかってる」

 桃香の苦手なものは幽霊と高いところ、と細かく切ってないピーマン。

 昔なら魚の内臓をはじめとした苦みが駄目だったがそこは克服していた筈。

 小学校の給食時間を思い出したりしつつ、頷く。

「だから、何も考えてないわけじゃない」

「だよ、ね?」

「まあ、理由は後で話す」

 わかった、と頷く桃香を見ている隼人に後ろから野次が飛んでは来る。

「あれ、絶対」

「他人に綾瀬のメイド姿見せたくないだけだろ」

 実際その通りではあるし、まだ花梨の席に陣取っていた絵里奈にも「だよね?」という顔をされてしまう上に。

「というか、そんな独占欲見せるなら他にやるべきことあると思うけど?」

 そして花梨にはそんな風にバッサリと切られてしまう。

 まあ、それ以上踏み込んだ話はここではするつもりはないので咳払いだけして無視を決め込んだところで。

「ところで、吉野君吉野君」

「はい?」

 楽し気に美春が前から隼人を覗き込んでくる。

「吉野君は、ホラーとか好きだったり、する?」

 以前、ドリンクバーで奇妙な飲み物を合成しながら誘って来た時を思い出す笑顔だった。

「特に好きとか嫌いではないけど……まあ、山深い田舎に居たから麻痺してるところはあると思う」

「と言うと?」

「廃校になった小学校とか、ため池に続くトンネルとか、使われなくなった火葬場とかにことごとく曰くがあるから……気にしてたら夕方以降どこにも行けなくなるし」

 そしてそういう話を喜々として話してくる大人がいるもんだから、と話したところで気付く。

「何それ!」

「詳しく聞いていい?」

 美春と絵里奈がそんな大人と同種の表情になっていることに。

「興味はあるわね?」

「そ、そう……ですね」

 それに花梨と由佳子も乗っかり。

「お? また隼人が面白いことになってる?」

「何だ何だ?」

 蓮と友也まで加わったのをきっかけに同好の男子も集まり……カーテンを閉めての怪談話が開始されることになった。

 そして。

「ね、桃香」

「あっちいってよっか」

「だね」

 そんな風に集まる面子を信じられないものを見る目で見た琴美と桃香が耳を塞ぐジェスチャー付きで教室から出ていくのを確認した後、隼人は口を開く。

「大叔父から聞いた話で直接見たわけじゃないんだけど、昔、焼かれている棺の中から立ち上がって来たって話が……」

「え? 何それ」

「こわー」




「盛り上がってた、みたいね」

「ああ、まあ、ね」

 校門を出てしばらくして、普段通り手を繋ごうか……としたところ、手に触れてくれたものの、抗議するように小さく抓られる。

「わたし、おばけ嫌いなんだけどな」

「わかってるよ」

 ごめんな、と小さく言ってから提案と質問の間のようなことを聞く。

「桃香」

「うん」

「小腹がすいたりとか、喉が渇いたりとかは……?」

「はやくん」

「はい」

 桃香がわざとらしく頬を大きく膨らませて。

「わたし、そんな簡単に見える?」

「いや、その……」

「ベーカリーのチョコクロワッサンね!」

 それからにこりと笑って、今度はしっかり手を繋ぐ形になった。

 機嫌が直った、というよりかは最初からそのつもりだったんだろうと分かる速さだった。




「はやくんにひどいことされちゃったんです」

「おーい」

 なのに、良い匂いのする店内でエプロン姿のお姉さんに「今日は何かあったの?」と聞かれた桃香が笑いながらそんなことを言うので少々冷や汗をかく。

 商店街の中では隼人も可愛がってもらってはいるものの、圧倒的に桃香の味方が多いのだから。

「だから、謝ってるじゃないか」

「えへへ、うん」

 クロワッサンが二つ入った袋を下げて、購入サービスの珈琲の紙コップを二つ持った隼人に本当に軽く肩を当てた桃香が提案する。

「川沿いのベンチでどう?」

「桃香の希望通りで」

「うん」

 ありがとうねー、の声に隼人は軽く会釈し、桃香は元気に手を振って。

 自動ドアをくぐって今は半歩分先に行く桃香の後を付いて行くことにする。




「いただきまーす」

「ん、どうぞ」

 商店街の裏を流れる川沿いのベンチに並んで座って。

「ええと、それで」

「うん」

「どうして、お化けとか足しちゃったの?」

 ホワイトチョコ入りのクロワッサンを二口ほど堪能した後、桃香が尋ねてくる。

 同じ二口なのに自分の通常のチョコの物より全然減ってないな、なんて思いながら答える。

「女子を仮装させたい流れはあったし、桃香は真っ先に言われそうだし……断り切れない感じもしたから」

「うん」

「桃香が苦手なものなら、無理に……とはならないだろ?」

「やっぱり……そういうこと?」

「ああ」

 ちょっとだけ薄いコーヒーを紙コップから飲んで、それから続ける。

「お化け屋敷だとしても入れ替え考えてもお化け役は半数くらいだし、それなら桃香とか暗い場所が苦手な人は受付役とかしてもらえば……とかな」

「うん、それならいいかもね」

 発案に桃香が頷いたところでほっとする、ものの……。

 クロワッサンをもう一口食べた桃香が身を寄せてくる……桃とミルクの香りに少しだけチョコレートが加わっていた。

「ところではやくん」

「ん?」

「この機会に可愛い服を着て、はやくんに驚いてもらいたかったな、ってわたしはどうすればいいかな?」

「……!」

 思わず紙コップを落としそうになるものの……幸い中身はほぼ空だった。

「え……?」

「って気分だったんだよ?」

「あー、えーっと、うん……」

 動揺に残り三分の一のクロワッサンの安全を考慮して一旦袋に戻す。

「そうか、なるほど……」

「はやくん?」

「正直、そういう発想はなかった」

 言われて見て、全く一方的だった、と反省するものの。

「男の子は好きなんじゃないの?」

「いや、まあ、見たく見たくないで言えば似合うんだろうけど……」

 発する言葉の前後関係が若干怪しい自覚はあった。

「桃香が、そんな風に考えてくれるとは思ってなかった」

「そう?」

「うん」

「はやくんが褒めてくれれば……他のもろもろ、は手数料、かな?」

 思ったより高く設定されているな俺の評価……と思いながらも。

 じゃあ自分の中での桃香の可愛い姿の価値と、その他はどうなんだ……と考える。

「桃香」

「うん」

「ええっと、な」

 桃香が最後の一口を食べ終わるのを待ってから桃香の両肩に手を添える。

「あれ?」

 そのこと自体は今まであったけれど、逆の組み方で……肩辺りですら自分と違って柔らかいな、と思いながら桃香を斜めに自分の反対側を向かせる。

 桃香の髪を視界と香りで存分に堪能する向きだな、と思いながらいま改めて計算した結果を伝える。

「やっぱり……無し、で」

「そうなの?」

 小首を傾げた桃香が続ける。

「見たくなかった?」

「それは見たい」

「ならどうして?」

 他の男の子が気になる? と聞かれて答える。

「他の男子に見られる時点で、個人的には若干マイナスなくらいで、ギリギリ何とか折り合いつくかつかないかだけど」

「うん」

「そんな格好の桃香が接客とかで……その、笑顔を他に向けると思うと、全然ダメだ」

「ダメだった?」

「ああ、無理だ……」

 しばらく黙った後、くすっと笑った桃香が返事をくれた。

「はーい」

「ん?」

「言う通りにするね」

「……ありがとう?」

「うん」

 頷いてから、桃香はもう暫く小さな笑い声をさせて。

「はやくん、やきもち焼きさん、だ」

「……ぐっ」

 もしかしてそうなのかもしれない、という自覚を桃香に言葉にされて。

「独り占めしたかった?」

「……ああ、そうだよ」

 続けられた質問にも頷かざるを得ない。

「ところで、はやくん」

「……うん」

 もう一つ、問いかけが来る。

「どうして、この向き?」

「……どうしてって」

 桃香の後頭部に、そっと頭突きをする。

「いたっ」

「……そんな強くはしてない」

「えへ……」

 桃香の悪戯な笑い声に、一つ呼吸をしてから伝える。

「こんなこと、目を見て言えるわけがないだろ?」

 桃香には、もう少し……笑われた。


某チョコクロワッサンの福袋入手し損ねました。

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