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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
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番外10.お酒は二十歳になってから

「どうしたの? 母さん」

 夜。

 とうに家事など済んだ時間帯に台所に点いた灯りと物音に首だけ廊下から突っ込んで覗き込む。

「お父さんが、今日は飲みたいみたいだから」

「成程」

 お盆の上の立派なラベルの瓶と切子のグラス二つに頷いていると。

「隼人も少し食べる?」

「うん」

 母がまな板の上で切っているハムが頂き物の高級な奴だと気付いて、二切ればかり口に放り込んでから。

 そろそろ桃香との時間だな、と時計を確認して階段に足を向けた。




「……そんな感じ、だったんだけど」

「ふーん」

 桃香の部屋の窓際に並んで座りながら。

 何となく先程あったことを話すと桃香がふんわりと頷いてくれる。

「なんだかいいな、そういうの」

「ん」

「はやくんのお父さんお母さん、言葉少なくても通じてる夫婦、って感じがするもん」

 寡黙に間違いなく分類される父と、口数の少ない方なのは確実な母……でも、意思疎通に齟齬があったところは見たことが無いので確かに、と隼人も頷く。

 余りに余計な事以外さえ言わないので母がちょっと窘めているくらい、か。

「憧れちゃうかも」

「ん……」

 別の意味で少々コメントに困るシチュエーションだな、と咳払いしつつ。

 確かに桃香とそうなれるなら、と考えたりもする。

「あ、あとね」

「ん?」

「はやくんとお酒飲めるようになって一緒に、っていうのもいいかも」

「そうだな」

 そちらの方がいくらかは話題にしやすいか、とお酒の類に考えが行ったところで。

「遺伝的に」

「うん」

「桃香の方が俺よりお酒に強そうなのが少し気になるけど……」

 嗜む程度、な隼人の両親と比べ。

 典型的な商店街の小父さんな桃香の父はそれなりの酒豪で……あと。

「うちのお母さん、は……ね」

「うん」

 お互い核家族なので商店街の会合に連れられて行ったことも何度かあるが、桃香の母はどれだけ飲んでも顔色変えずに笑顔を浮かべていた記憶がある。

「でも、まだ、そうと決まったわけじゃないし」

「まあな」

「わたしがすっごく弱くって、はやくんがむちゃくちゃ強いかも、だよ?」

「まあ……な」

 確率的には逆のパターンの方が可能性高いんだがな、とは言わずに口を紡ぐ。

「あ」

「ん?」

「う、ううん……何でもない、よ?」

 何かを思い出したような様子をかなり強引に誤魔化そうとしている様が、むしろ気になる。

「……その顔で何でもないは無理が無いか?」

「え、えっと、ね」

「流石に、聞き捨てしにくいんだが」

「あ、あはは……」

 桃香の顔をじっと見ると、観念したかのように口を開く。

「えっと、この前の冬に、ね」

「うん」

「花梨ちゃんと絵里奈ちゃんとでチョコづくりしたときに風味付けで洋酒をつかったんだけど」

「ほう」

「花梨ちゃんは匂い嗅いだだけでくらくらしちゃってたけど……」

「けど?」

「わたしは、ちょっと、いい香りだな……って思っちゃったな、って思い出した」

 人差し指を付き合わせながら目を逸らす桃香に、ぼそりと言う。

「桃香」

「……うん」

「将来有望じゃないか」

「ま、まだ決まってないもん!」

「まあそうだけど」

 仮説をかなり頑強に補強したな、とは思ってしまう。

「あ、え、えっと……そのチョコはお父さんと、あとアルコール飛ばして美春ちゃんたちにあげただけ、だからね?」

「そこは、その……」

「うん」

「全く、心配してない……よ」

 この春から今まで、桃香を見ていて……桃香と過ごして。

 僅かに罪悪感すら、産まれるくらいに。

「……よかった」

「ん」

 そう言った後、桃香が少しもたれるようにしてから、小さな声で呟く。

「ね、はやくん」

「うん?」

「酔っちゃった、って言ったら……どうする?」

「……何、言ってるんだ」

 普段と違う、僅かな艶に跳ねた鼓動が聞こえてないだろうな……と心配しつつ、全く痛くないように弾いた人差し指を桃香の額に着弾させる。

「いたっ」

「絶対に痛くしてないし、そもそも今そんな筈はないし、五年ほど早いだろ」

「じゃあ……五年後、に」

 流石にすぐにやってくる将来ではなさそうな時間だけれど。

 きっと一緒に居るんだろうな、とは思う。

「わたしがそうなったら、どうする?」

「どうするも何も……」

 自分の前髪を乱暴に混ぜてから、答える。

「その時もきっと、桃香が大事で大切だから……」

「うん」

「その言葉が嘘にならないようにするだけだろ」

「そうなんだ」

「ああ」

 その言葉通り、傍にあった桃香の手をそっと包む。

「えへ……」

「ん?」

「ありがと」

「まだ、言葉だけだけど」

「でも、はやくんはそうしてくれるもん」

 信じてくれているんだな、と確信できる声色に嬉しくなる。

「お店がいいかな? それとも家で?」

「幾ら何でもそれはその時にならないとわからないな」

「それはそっか」

 頷いた桃香だったが、何かに気付いて指を立てる。

「でも、きっと家だと思う」

「なのか?」

「だって、いちばん最初に飲んでみたいのは、ピーチリキュールだし」

 そこはぶれないな、と甘い果実酒の話題ながら思わず苦笑いする。

「事前に確認する手もあるけど、取り寄せて家で飲むのが確実、か」

「でしょ?」

「そうなりそうだな」

「ね」

 じゃあきっとそうしようね、と一旦重ねていた手を離して小指を見せてくる桃香に。

「いや、そうじゃなくて」

「?」

 グラスを持って氷を揺らす仕草を、して見せる。

「それが、いいかも」

「な?」

 桃香にもオーダーが伝わったところで、改めて口にする。

「じゃあ、約束」

「うん」

 グラスを合わせて、将来に行う約束を一つ増やした。





Xmasにリキュールを貰ったので思い付いた短編、でした。

本編でのXmasは、正式にやってくるまでお待ち下さい。

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