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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
二学期/やっぱりこの二人近くない?
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68.やりたいことは人それぞれ

「それでは、学園祭でのクラスの出し物を決めたいと思います」

 教壇の上で音頭を取る花梨の言葉にクラスが沸く。

 夏休みが終わって、そこでのテストに少し冷まされた熱が再び盛り上がるような、そんなタイミングだった。

 隼人も声こそ出さないものの、心が軽く踊るとまではいかないものの弾んでいるのは否定できない、といったところで……。

「楽しみだね、はやくん」

 同じような気持ちを素直に表情に出している桃香に、頷いた。

「まーた見つめ合ってる」

「どんだけー」

 隼人の後ろの花梨の席に器用に二人で座っている琴美と絵里奈がそんな風に言ってくる、ものの。

「いや、別に、隣の席のクラスメイトと話すくらいあるでしょ」

「じゃあ、瀬戸さんとのその雰囲気出してみなよ」

「はいっ!?」

 琴美のその発言に被害が飛んできた由佳子が慌てる。

「別に瀬戸さんに含むものは無いけど、そこは相手によるんじゃないかな? さすがに」

「で、ですよね」

 由佳子に何か申し訳ないな、と考えながらも。

 これでも桃香は大分抑えているぞ……と、桃香の本気を知っている身としては密かに思う。

 まあ、誰にも知られる機会はないだろうし、あっても困るのだけど。

「はい、そこの三人。そんなに元気ならそこから案を出してもらおうかしら?」

 三人ってこの組み合わせ? と隼人、琴美、絵里奈が自分たちを指すと花梨が頷く。

 隼人はとばっちりじゃないかな……とは思ったが。

「ステージ上で何か演じたり、歌ったり系?」

 美術に音楽と何かとその系統に強い絵里奈の意見に対して、クラスの反応は半々より芳しくない……主に人前に出るのが苦手な面々から。

「迷路とか、脱出ゲーム系統?」

 過去の自分の経験も照らした隼人の発言には割と大掛かりな工作をしたがる男子と、クイズが好きそうなタイプから好意的な声が上がった。

「あとは……お約束の模擬店系統?」

 琴美がそう言うと、やはり定番は強いのか反応としては一番大きかった。

「じゃあ、その辺りを叩き台にして五分ほどディスカッションしましょうか」

 花梨の言葉をきっかけに琴美や絵里奈のように少し座席から離れていた面々のようにクラスが幾つかのグループに分かれて盛んな声が飛び交い始めた。




「で、どうしましょうか?」

「おふっ」

 自分の席が不法占拠されているので美春の席に涼しい顔をして半分割り込みながら花梨が言う。

 いつもの桃香たち女子五人に隼人、由佳子、という面子になっていた。

 実は頼みにしていた蓮は真っ先に誠人の席付近に行ってしまい……隼人も続こうとしたものの寂しそうな色を見せた桃香の目線には勝てなかった。

「ねえねえ、桃香」

「絵里奈ちゃん?」

「吉野君もいることだし、今度こそお姫様、やってみない?」

 私は逆に服とか大道具とかしてみたいんだよねー、という絵里奈の声に隼人は先日桃香の中学生の時にやったという劇のことに思い至り、そして察する。

「ちなみに中学校の時って何をやったのかな?」

「え? ああ、ロミジュリ」

「なるほど」

 それは自前の金髪の絵里奈は強いな……と思っていると。

「吉野君」

「うん?」

「最初は桃香をジュリエットにしてあわよくば、って男子で大変だったんだからね?」

「ああ、あれは酷かったわね」

 頷く花梨に思わず。

「うわ、吉野君目怖っ」

「昔のことだから落ち着きなって」

 思わず顔に本音が漏れ、琴美と美春に宥められる。

「尾谷さん」

「うん」

「今度……それこそ学園祭、何か奢るよ」

「毎度~」

 チョコ系でよろしくね、と片手を上げた絵里奈が話は戻るけど、と続ける。

「で、ホントにどう? 桃香に吉野君」

「桃香が決まれば自動的に吉野君も女子の総意で圧勝すると思うけど」

 絵里奈と琴美にそう言って見られる、ものの。

「いや、そういう演技とかは、苦手……だから」

「うん、わたし……も」

 あとは目立つのも、と二人そろって首を横に振る。

「「「「……」」」」

 すると後ろの二席に座る四人に物言いたげに見られる。

「え? 何?」

「別に演技とかじゃなくて、いつもの二人で良いってコトよ?」

「そうそう、普段通りいちゃついてくれれば、ね?」

「尚更嫌です」




「劇系は却下かー」

「私も服飾はちょっと興味あったので残念ですね」

 割と本気と少しで残念そうな美術部コンビをさておいて。

 別に裏方にしてくれるならクラスとしてそれでも、と隼人は思うものの、迂闊にそういう方向に行くと巻き込まれかねないとは思うので大人しく口を閉じて置く。

「他は……建築系?」

「建築って」

 桃香の言い方に琴美がまあ意味は伝わるけど、と苦笑いする。

「設置してしまえば当日は受付と最低限の内部維持で良いから楽だと思うけど」

「なるほどねー」

 隼人の意見に美春が頷く。

「ある程度当日やることないと逆に張り合いなくない?」

「それは人それぞれかしらね」

 琴美と花梨の意見にそれもそうか、と頷いて……次の検討は模擬店系統かな、となったところで。

「やっぱりコスプレ喫茶じゃね?」

「っていうか、メイド喫茶よな」

 そんな声が廊下側の男子グループから上がるのが聞こえた。

「まあ、そういうご意見は出るよね」

「個人の趣味嗜好まではどうこう言えるものではないもの」

 肩を竦める美春と、態度は普段通りであるものの声色がどことなく気乗りし無さそうな花梨。

「嫌いじゃないけど?」

「……丈にもよるかな?」

 そこそこ脈有りな絵里奈と、少々意外なことに話は聞こうか? といった感じの琴美。

「デザインには、興味ありますけど」

 流れを引き継いで、由佳子もそう発言する。

 順番的に、次は桃香……となるので自然にグループ内の目線が集中するが。

「えっと……」

 桃香的にはさり気無くを意識しているのだろうけれど、隼人の方を伺って考える様に。

「何々~? やっぱり吉野君のご意見次第なの?」

「彼氏の望みどおりってかー?」

「そ、そういうわけじゃないよ……」

 席から飛び掛かった美春と絵里奈にもみくちゃにされている桃香の様に苦笑いしていると。

「で、実際のところは」

「どうなのよ?」

 花梨と琴美にそう聞かれて隼人は言葉を選ぶ。

「まあ……」

「「……」」

「気乗りは、しないかな」




「じゃあ……候補としてはこの二つかしら?」

 再び壇上に戻った花梨が「喫茶店」と「迷路」と書きながらもクラスに周知する。

「勿論、他のクラスとの兼ね合いもあるから、敢えて第一候補じゃなくて競合が少なそうなものを選ぶ、というのも次善の策よ?」

 そういうこともあるか、という声が何人かから上がる。

 隼人としては一身上の気持ちでどちらかというと後者を選びたいところ、なので優勢そうな喫茶店派から票数を引っ張れれば、とは思うところだった。

「じゃあ」

 軽く手を上げて声を上げると、花梨にどうぞ? と促される。

「迷路の中に何か組み込めばどうかな?」

 激戦が予想される方を避けつつ、より全員が楽しめるものにしてみればどうだろう? という意味合いで発言する。

「具体的には?」

「例えば……」

 少し考える、風を装いながら間を置く。

 その心の中で桃香に謝りながら、口に出した。

「お化けが出る、とか?」

 女子にコスプレさせたい男子や、迷路作っただけじゃ当日が物足りなくないか? という面々にこちらはどうですか? という意味合いで。

「確かにそれもアリかもしれないな」

「喫茶店は食べ物だから気を遣うしね」

 等という声が聞こえて多少の手応えを覚えた。

「……」

 隣の席からの思い切り抗議の意思を感じる視線も、クラスの中心を見ているため目視できないが由佳子の戸惑うような顔を見るに、そちらもしっかりと手応えアリらしいけれど。

「それで、迷路かお化け屋敷かが競合しそうならどっちかを外せば良いんじゃないかな?」

「おー、そう来たか」

「ちょっとズルいけど、抽選に負けて希望じゃない出し物になるより良いか」




 そう言った流れで。




「じゃあ、吉野君の意見採用で」

 挙手の数を見た花梨が早々に宣言して……隼人は内心胸をなでおろす。

 そんな気が緩んだところに。

「で、出し物の責任者はそのまま吉野君、ということで」

「はっ!?」

 有無を言わせる気のない素敵な笑顔の花梨にお鉢を回されて素っ頓狂な声になる。

「だよね」

「言い出しっぺだもんね」

「頑張ってね」

 クラス中の拍手を浴びてはもうどれだけ腰が引けようが逃げ場などなく。

 学園祭準備は隼人にとっては波の高い出だしとなってしまった。

「……」

 ただ、とりあえずしなければならないのは……明らかに機嫌を損ねた桃香の懐柔からだな、と心の中で思いながら。






おまけ:クラス座席表


       教卓


桃香 隼人 由佳子 蓮 □ 伊東

美春 花梨 □   □ □ 加藤

□  □  琴美  □ □ □

□  □  絵里奈 □ □ □

□  □  □   □ □ □

友也 勝利 誠人  □ □ □


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