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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
夏休み/二人の距離が近付かないわけがない
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番外07.ピーチゲーム

「まだ十一時前か……」

 読んでいた文庫本が丁度区切りなのでしおりを挟んだ後、台所で麦茶を飲んでから部屋に戻って時計を見ればそんな時間だった。

 今日、桃香が来るのは昼からだもんな……と定位置の辺りと桃香専用の座布団に目を遣った後、軽く息を吐く。

 桃香と一緒の時間とそうでない時間には明確な違いがあるのは確かで、それを言葉にするなら幾つかの物が当てはまるが……とりあえず、認めやすいところで言うと若干物足りない、という形になる。

 とりあえず、午後から来てくれるんだから逆よりはいいだろう? なんて自分に言い聞かせた、そんなタイミングで。

「桃香?」

 隣の窓から、昔からの合図が聞こえて窓に向かう。




「やっほー」

「ん」

 桃香の朝一、隼人は日課のトレーニング後の時に言ったおはよう以来数時間ぶり。

「はやくんは、何してたの?」

「少し本を読んでたけど」

「続きは、どうするの?」

「少し飽きてきたところだったから、桃香が声かけてくれてよかったよ」

「ほんと?」

 窓際の日当たりの関係以上に眩しく笑った桃香が、じゃあ……と提案してくる。

「お昼までちょっとだけ、遊ばない?」

 何重もの意味で、断る理由はなかった。




「珍しいな」

「そうかな? ……そうかも」

 母に少し隣に行ってくると告げた後、桃香の両親に挨拶をした後で迎えられたのは桃香の家のリビング。

 家の都合などで何度も晩御飯をご馳走になった時などに団欒したソファーに腕が触れるか触れないかの間で並んで腰を下ろす……と桃香がコントローラーを手に取った。

 家族全員その手の物にあまり興味を示さない吉野家と違って桃香の家では割と家族でやっていて、隼人も昔は桃香とそれで遊んだりもした。勿論、今とは機種が二世代ほど違うけれど。

「ちょっと、美春ちゃんや琴美ちゃんと話題になったゲームがあって、ダウンロードしてみたんだ」

「へぇ……滝澤さんはともかく、高上さんは若干そんなイメージじゃないけど」

「そう?」

 いかにも元気な女子高生、といった美春は簡単に想像できたが、クール系の琴美とは若干違う気もしてそんな感想を口にする。

「琴美ちゃん、お兄さんがいるから」

「ああ……」

 それならそうか、と思ったところに桃香に問いかけられる。

「はやくんは、最近してた?」

「お世話になっていた家の従姉妹たちと息抜き程度にかな」

「そうなんだ」

 若干似た感じかもな、と琴美に親近感が湧く気もした。

「じゃ、やってみよっか」

 頃合いよく立ち上がった画面に、桃香が仕草で腕まくりして、そんな宣言をした。




「隣接した同じ種類の果物はくっついて大きくなっていくからそれでマックスまで行くゲームだって」

「なるほど」

 説明に相槌を打ちながら、隣の桃香を思わず見てしまう。

「どしたの?」

「いや、桃香にぴったりだと思ってさ」

 商店街の青果店の看板娘的な意味で。

「そう?」

 じゃ、三回くらいでクリアしちゃおっかな……と軽く得意げに笑う桃香に、反射神経の要らないゲームは矢鱈強いんだよな、と今までの戦績を思い出す隼人だった。




「はやくん……どうしよう」

「どう、と言われてもな……」

 数分後。

 序盤はサクサクと葡萄や林檎をくっつけて進めていた桃香だったが、手詰まり……という声色を出していた。

「そこに梨を置けばいいじゃないか」

「……そしたら桃、消えちゃうよ」

「だからそういうゲームなんだって」

 表情豊かなフルーツたちを可愛い可愛いと楽しそうに積んで行き、好物兼自分の名前にも関わっているピンク色には一際喜んでいたが、終盤に入りそれが仇となっている模様だった。

 むしろ、よくそこを避けてここまでのスコアを稼ぎつつプレイを続行できているなと感心出来るくらいだったが、決断の時は訪れていた。

「む~……」

 小さな唸り声を上げた後、桃香が目を閉じて決定ボタンを押しこんだ。

「……えいっ」

「あ」

 何とも言えない効果音と共に画面の表示が崩れた後、ゲームオーバーの文字。

「勿体ない」

「でも、これで良かったんだと思う」

「そうか……」

 妙に清清しい表情を浮かべた桃香が、隼人の方にコントローラーを差し出した。

「はやくんも、やってみる?」

「ん」

 軽く肩を回してから、座り直して桃香から受け取る。

 小さく激励の拍手をしてくれた桃香が触れないくらいの位置に身を寄せつつ尋ねてきた。

「見てていいよね?」

「それは、勿論」




「……」

 再び、数分後。

「確かにやり辛い……な」

「でしょ?」

 隣で桃香が深く深く頷いた。

 先ほどの桃香より若干早く、そして低いスコアで同様の状況に陥った隼人の方も手が止まってしまっていた。

 更に言うと純粋に進め辛いのもあるが、これで桃香より先にクリアして高いスコアに行くのも大いに気が引ける、というところもある。

 で、結論としては。

「ん……」

「あはは……ごめんね」

「いいよ、別に」

 決定ボタンを連打し次の果物たちを溢れさせて投了する隼人だった。

「これはこれで面白いし」

「クリアするだけが大事じゃないよね」

「……まあ、うん」

 それもゲームとしてどうなんだと僅かには思いつつも、桃香に頷く隼人だった。

「あとではやくんのお部屋行くときも持っていくね」

「ん」

 あと、桃香のそんな提案にも否は無く。




 そして数日後。




「何このスクショ」

「『いかに桃を消さずに高い得点を上げるか』ってのに挑戦したの」

「……呆れた」

 件のゲームが話題になった際、幾つか誕生した桃を小さな果物で接触しないようにガードを固めた画面に琴美と花梨には苦笑いされ。

「ま、桃香たちらしいといえばらしいかな?」

「だよねー」

 美春と絵里奈には爆笑されるのだった。


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