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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
夏休み/二人の距離が近付かないわけがない
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39.花火の約束

「スイカ」

「団扇」

「花火」

「お祭り」

「アイスクリーム」

「……一体何の儀式?」

 席が角の隅っこの流れで回されたアンケート用紙を委員長である花梨に届けようとすれば集まっていたいつもの面子が何やら順番に唱えている現場に遭遇した。

「夏休み、といえばだよ?」

「何たって明日の終業式さえ済ませば」

「パラダイスの到来だー!」

 お疲れさま、と手を出した花梨に手渡す横で桃香が笑顔で見上げて来る。

 そして絵里奈と美春は早くもテンションをぶち上げていた。

「さ、吉野君も一言どうぞ?」

「夏ね……」

 琴美に促されて少し考えてから口にする。

「風鈴、とか?」

「涼しげで良いわね」

「うんうん」

 花梨と桃香は率直な感想で纏めてくれたが。

「浴衣とかじゃないのかー!」

「「桃香に着せろー!!」」

「麦わら帽子とかじゃないのかー!」

「「桃香に被せろー!!」」

「向日葵とかじゃないのかー!」

「「桃香に持たせろー!!」」

 いつもの三人はどうしてそこまで合わせられるのかと思うくらいに気炎を上げていた。

 そう来るとは思っていたので無難な答えを選んだつもりだったが彼女たちにかかれば関係なかった。

「いや、だから……俺たちは」

「随分と仲の良い幼馴染がいるものだこと」

 七夕の日の一悶着後何度か用いた説明を使おうとするが、今度は花梨にまで先手を取られて一擦りされる。

 一応の納得はしてもらえるものの殆ど信じてはもらえていないのが現状だった。

「どうせ桃香と沢山出かけてイチャイチャするくせにー」

「そうだそうだ」

「夏休み明けに雰囲気変わってる桃香、あると思うな」

 流石に少し困り顔の桃香と顔を見合わせて肩を竦めているとその肩を誰かに叩かれた。

「いやー、残念ながら」

「俺たちとも過ごして貰うぜ」

 友也と蓮が左右から隼人を挟んでいた。

「そうなの?」

「まあ、男同士でも色々あって」

 初耳、といった顔をした桃香にぼかした説明をすれば蓮から極小の声で「嘘つけ」と内履きの足を軽く踏まれながら突っ込まれる。

「ああ、そうそう、先月の面子で夏を楽しむのも悪くないと思うんだけど、どうかな?」

 さらっと出した友也の提案に花梨が少し待って、と掌で制する。

「吉野君、桃香にも聞いていたんだけど……桃香の家のある商店街の夏祭り、皆でという話もあるんだけど……どう?」

 そこで隼人の家の所在には一切触れない辺りが何だかんだ配慮してくれると好感の持てる所ではあった。

「ん……桃香はどう思う?」

「わたしは、はやくんさえよかったらみんなで回るのも楽しそう、って思うよ」

 君たち二人一緒は前提なのね? と、グループ内外から視線が刺さってくるが平静に返すことにする。

「それでいいんじゃないかな?」

「じゃあ、集合時間と場所は追って連絡するわ……日付は」

「八月の第一土曜日」

「オッケー」

 隼人が日付を述べると指で丸を作った友也が器用にウインクをした。

「おやおや、いいんですか、お兄さん」

「日付が即答できるくらい楽しみにしてたんじゃないのー?」

「別に、友達同士でわいわいと回るのも楽しいと思うけれど」

「ふーん」

「ホントにー?」

 疑いの目線を向けられたが、割とすぐに解かれて女子たちが盛り上がり始めた。

「じゃあ、明後日の土曜日浴衣とか見に行こうか」

「あ、賛成」

「桃香はどうする?」

「浴衣はあるけど、小物とか見たいかな」

「じゃあ、集合は」

 男子の入る余地がない様に、じゃあまた後程と席に戻りながら。

「楽しみだね、隼人」

「楽しみだよなぁ」

「……まあ、楽しみだよ」

 桃香の浴衣姿を想像しながらも、それを僅かにも出さずに頷いた。




「まあ、何といっても地元のお祭りだもんね」

「そういうことだよなぁ」

 気温もそれなりに下がって、丁度いい換気タイムもかねて窓を全開にしながら、桃香と顔を見合わせてお互い苦笑する。

 屋台も当然やってくるが商店街の各店舗の方も全力であり、従って顔見知りが祭りには溢れており、花梨たちと同行しようがしないことにしようが二人きりの時間という意味ではあまり変わらないのが実態だった。

 それに。

「家は食べ歩き用の冷凍フルーツの準備が朝からあるかな」

 青果店の娘が存在しない袖を捲ってエアで包丁を握れば、古書店の息子も。

「俺も多少準備手伝いを何件か頼まれている」

 直接家業は関係なくも地域の助け合いは少々入っていて……その見返りに充実の屋台ライフが手に入る予定だった。

「お祭りの時間は大丈夫だよね?」

「そこは何にも言われてない」

 むしろ、何を置いても桃香ちゃんを誘うんだよ、とおじさんおばさん方から強く強く念を押されていた。

 そういう意味ではグループで回る方が遊びやすそうではあった。

「てるてる坊主、作ろうかな」

「雨だと回るのが大変だしな」

「それもあるけど……」

 桃香が辛うじて音が出ているレベルの口笛を吹いた。

「花火も、上げるみたいだし」

「ああ、そうだった」

 言ってから、隼人が結構似ている自信のある口笛で打ち上げ花火の上がることを再現すると桃香が小さく拍手をしてくれる。

「わたし、花火もけっこう楽しみ」

「ああ」

 隼人も勿論そうだ、と頷くと桃香が少しだけ声を潜めて窓から身を乗り出し接触はしていないものの耳打ちしてきた。

「花火の時間は……二人で迷子になっちゃう?」

「ん……それも良いかとは思ってた」

 楽しそうな何かをたくらむ笑顔になる桃香に一旦軽く乗りかけるには乗りかけて。

「思ってた?」

「まあ、あまり皆に心配かけるのも悪いし」

 この場合は心配と書いて期待と読ませるような気もしたが。

 なので。

「それをやると合流した後がすこ……大分、大変そうだから」

「そだね……」

 今日の夏モードになっている美春たち単体でも色々ありそうなのに、祭りを主宰している隼人たちのことを良く知っている大人との化学反応など考えるだけで恐ろしかった。

 色々あるもののまだ幼馴染同士だし周囲にもそう言っている二人だった。

「だから、今回は大人しくしておこう」

「……」

「桃香?」

「今回は?」

 さっきよりずっと楽しそうに、窓際で頬杖をついて何かを期待するように桃香が隼人を見る。

「今回のお祭りのもいいんだけど……もっと沢山、派手な花火も見たくないか?」

「うん、見たい」

 桃香が強く頷いた。

「だから、八月最後の土曜日も夕方以降空けておいてほしい」

「うん」

「その、良かったら浴衣で」

「お祭り終わってもしまわないでおくね」

「それと、あと」

「うん」

「今度おじさんたちに……遅くなることのお許し貰いに行くよ」

「はやくんが?」

「俺が誘う手前、そうする」

 それが一応の男子としての自覚だった。

「わたしも一緒に言うからね」

「ん……じゃあそれで」

「うん……はやくん」

「ん?」

「ありがとう」

 小さく囁いてくれた桃香を見ながらふと思う。

 今度見る……いや、それこそこの夏上るどんな花火を持ってきても今咲いた花には勝ちはしないのだろう、と。


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