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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
一学期/幼馴染同士の距離がわからない?
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番外02.

『……地方では明日の夕方まで雪が降り続く予報となっております』

 トップニュースになっている帰省シーズンを直撃した大雪情報を何となく見ながら、我が家は親戚含めて近くに集中しているので関係ないな、と安堵する。

 安堵したところでそういえばこの雪に気を揉んでいるかもしれない人物に一人……いや、二人思い至った。




 その子とはこの春のクラス替えで初めて同じクラスになった。

 その前の学年まではある男の子と一緒ににこにことしているような印象があった気もしたけれど、実際近くで見る彼女は休み時間も大人しく本を読んでいるあまり目立たない子だった。

 多分、高学年も見える歳になって男の子から邪険にされるようになったのだろう、と何となく思っていた……自分も実際、男子と遊ぶのを避ける傾向にあったので。

 そんな彼女の笑顔を初めて見たのは、少なくともはっきりと笑ったのを見たのは二学期の終業式の日だった。

 その日は普段と打って変わって窓の外を楽しそうに見ているので、思わずサンタクロースに欲しいものでも頼んだのか、と理由を聞いてしまった。

 すると彼女は会いたかった人がこの冬休みに少しだけど帰ってくる、と教えてくれた。

 そこで初めて、あの男の子は家庭の事情か何かで転校をしていたんだ、と……そして彼女は本当はよく笑っていたのだ、と知ることになった。

 だから、他に心配する相手もいないのでこう思う。

 名前も知らないこの春までの同級生が無事に帰ってこれて、あの子が少しでも笑っていればいいんじゃないかな、と。




 そして新学期。

冬休みが良い時間だったかくらいは聞こうかと思っていたけれど、彼女はその週全部、学校を休んだ。

 どうしても気になってしまい、担任の先生に聞いてみると調子を崩して結構な熱を出している、とのことだった。

 そこで何となくわかってしまった。

 多分、あの大雪で男の子は帰って来ることが出来なかったんだな、と。




 翌週、ようやく彼女が登校してきたときに、何となくわかったことは本当だったんだ、と理解した。

 大人しいを通り越した静かさで机に座っているままで、とても冬休みの出来事を聞ける状況ではなかった。




 隣のクラスから大柄な男子とその取り巻きのような二人を合わせた三人組がやって来たのはそんな時の放課後だった。

 ランドセルにプリントを仕舞っていた彼女のところに行くと何かを得意げに話し始めたのだが、大声なので全部丸々聞こえてきた。

 曰く、俺が短距離走でこの学年で一番のタイムを出したのなんだのを、彼女にアピールするかのように捲し立てていた。

 それをずっと俯いたままで聞いていている彼女に業を煮やしたのかランドセルを隣の席に払い除けると彼女の机に大きな音を立てて両手を突いて、そして言い放った。

 だってアイツもういないもんな、と。




 その時、気付いたことがあった。

 笑ったところは二学期の終わりまで見たことが無かったけれど、どんなに寂しそうでも悲しそうでも、こんな大粒の涙を流して泣いているところは見たことが無かったな、と。

 そう思った瞬間、席から立ち上がってその大柄な男子に近付くと思い切りその頬を張り飛ばしていた。

「よくもこんな顔してる女の子にそんなこと言えるわね!」

 そしてそんな啖呵を切っていた。




 それから後はちょっとした事件の様相だった。

 ただ、一部始終をクラスのほぼ全員が見ていたし、女子を中心に完全に悪いのはその男子だという証言ばかりが寄せられた。

 それでも手を出してしまったのは事実なので駆け付けた母親と一緒に例の男子の父親に頭を下げることにはなった……尤も、その男子は父親から小学生女子の平手とは比べ物にならない拳骨と雷を落とされていたが。




 その後、下駄箱で靴を履き替えた後、周囲に誰も居なくなった辺りで母親に抱き締められた。

 てっきりもっと怒られるかと思っていたので呆気に取られたが、手を出したのは良くなかったけれど他の子を守ろうとしたのは偉かった、と言われて思わず安堵と併せて少し泣きそうになった。




 そして。




「花梨ちゃん」

 校門を出たところで呼び止めたのは、これは間違いなくあの子のお母さんだな、と思えるくらいそっくりの女の人だった。

 それはその通りで、お礼を言われた後、後ろから押し出されたのは彼女で、口籠ってはいたが促されて口を開く。

「あの……ありがとう、ごめんね」

「別に、私が勝手にやったから」

「……あ、あと」

 遠慮がちに右手を触られる。

「手、痛くなかった?」

「……あのね」

「う、うん」

「私使ったの左手」

「ふぇ! ご、ごめん……ね」

 一瞬置いてから、二人の母親が笑いだし、釣られて花梨も笑い出した。

 桃香は、終始あわあわしているだけだった。











「そんなことも、あったわね」

 本棚の整理ついでに開いていた小学生時代のアルバムを新しい所定地に入れながら花梨は呟いた。

 あの後、色々ありつつも桃香とは良い友人……いや、親友同士だと思っている。

「……うーん」

 ぎゅっと左手を握り拳にしてみる。

 そんな訳なので桃香の想い人が現れたとき、それがあんまりな男だったら周りに何と言われようと今度はパーではなくグーも辞さないつもりだったが。

「幸せそう、なのよね」

 彼と一緒の空間に居る間中花を咲かせている桃香と、その要因に、今のところは使い時を見出せないままだった。




 伊織花梨の証言(小学校四年冬)




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