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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
225/225

205.それで付き合ってないとか信じない

「じゃーん」

「ん?」

「二年生の、わたし」

「まあ、そうだよな」

 間違いない、と首を縦に振る。

「どうかな?」

「いや、そう聞かれましても」

 両袖を広げた約二週間ぶりの制服姿。

「今まで通りというか、いつも通りというか」

「むー」

「……相変わらず、可愛いというか」

「えへ」

 相変わらず、わかりやすいというか。

「ああ、でも」

「うん」

 改めて思うこととしては。

「お互い、あの高校に入ったんだよな」

「ねー」

 小学生のころ、桃香があそこの制服が一番かわいくて好きと言っていたところに。

「あの制服、着ちゃってるね」

「ああ、そうだな」

「そしてはやくんの彼女になっちゃったね」

「……ああ」

 地味に凄いことだよな、と考えているとそっと手首を抓まれる。

「じゃ、行こっか?」

「そうだな」

 僅かに久しぶりの登校だけれど。

 並んで歩くペースはもう完全に息が合っていた。




「はやくんと学校行くのはもちろん楽しいんだけど」

「ああ」

「春休みが終わったのは、ざんねん」

「まあな」

 遊びに行ったりアルバイトや手伝いなどはあったものの。

 呆れるくらい一緒に過ごした暖かな春の時間。

「でもまあ逆に言うと」

「と?」

「あのままの時間をあれ以上していたら……本気で普段の生活にもどれなくなるところだし」

 骨とかいろいろなものが抜かれて。

 その分がぜんぶ甘い桃香に埋められてしまって。

 そんな懸念を表明すれば朗らかに笑われる。

「わたしも、そうなっちゃうかも」

「な?」

「でも、やっぱりいきなり少なくしちゃう心と身体がびっくりしちゃうと思うから……」

 軽く、歩きながらだけれど、もたれかかられる。

「帰ったら、いっぱい優しくしてね?」

「それは……」

「ね?」

「してしまう、と思う」

「えへへ」

 間違いなく、一番大切で幸せな時間だから。

「今、ちょこっと前借りとかは」

「危ない誘惑はしないでくれ」

「えへ……ざんねん」

 だからそんな甘い声と表情をされると……抱きしめたくなるだろう? と内心を必死で押さえながら、うっかり登校中なのにもかかわらず放課後に思いを馳せる。

 そんな中、校門が見え始める距離になり、交際を始める前よりは近付いてからそれでも一応の配慮で繋いでいた手を一度強めに握ってから解く。

「何だか、混み合ってるな」

「クラス分け貼られてるもの」

「そういえば」

 去年自分の名前を探した後すぐに桃香の名前を求めた記憶。

 そして。

「……」

「はやくんが大人になっててびっくりしてたの」

「まだ何も言ってないけど」

 肘の辺りを三回ほど軽く叩かれる。

「何はともあれ」

「れ?」

「桃香を彼女に出来て良かった」

「えへへ……わたしも」

 自分や親しい相手の名前を確認しては生徒玄関に向かっていく流れをゆっくり待ちながら一瞬だけ指先同士を触れ合わせる。

「クラス分け」

「うん」

「どうなっているんだろうな?」

「それは神様のみぞ知る……だけど」

 ただ、ふと思うに……生まれた場所や時間を考えれば結構贔屓して貰っている気はしている。

「でも、はやくん」

「ん?」

「わたし、ちょっと考えてることがあって」











「はーやくんっ」

 苗字の順番でまたもや廊下側一番後ろの席になった隼人の所にひょっこり満面の笑顔で桃香が訪れる。

 始業式とクラス最初のHRが終わった後、待ちきれなかったという風に新教室の扉から。

「来ちゃった♪」

「……ああ」

 どちらが正しいのかはさておき、二人きりの時と落差が有り過ぎると思う自分とほぼそのまんまの桃香……多分、足して五で割ると丁度良い。

「ま、そうなるとは思ってたけどよ」

「想定以上に早いね、綾瀬さん」

 まるで一年前のように前に居る勝利が処置無しと肩を竦めれば、同じくそのもう一つ前の友也が大いに笑いながら片手を上げる。

「桃香、ヤッホー」

「本当、別のクラスになった気がしないわね?」

「これは一年退屈しなさそ」

 窓際からは美春と花梨、今度は同じクラスの真矢が桃香の姿を認めてやって来る。

「あー……あれが」

「噂は本当なんだ」

 そして新たなクラスメイトからはそんな囁きが聞こえ、他数名の一年生から同じ面々には相変わらずでほっとするわ、みたいな生暖かい目線を送られる。

「おー、やってるやってる」

「むしろ離れたことで別の甘さを醸し出す、みたいな?」

 そんな所に、こちらは桃香と同じクラスの琴美と絵里奈がのんびりと追いかけて顔を見せた。

「大好きな吉野君と離れちゃったわりに、楽しそうね?」

 額を押さえながら予想はついたけどどうしようと悩む隼人に、軽く屈んでもうちょい構ってと触れていた桃香に花梨が友人代表として質問する。

「えっと、ね」

 やっと顔を上げた隼人に一度にこりと笑いかけてから、桃香は楽し気に口を開く。

「三年生の時は最後だからぜっったいに同じクラスで楽しみたいんだけどね」

「ほうほう」

「せっかくだから、二年生の時は別のクラスになって……そうじゃないとできないこともあるよね、って」

「例えば?」

「こんな風に休み時間に遊びに来たり、調理実習のお菓子差し入れたり、体操服のジャージ忘れて借りちゃったり?」

「なるほどなるほどー」

「んー、初日からフルスロットルだねぇ」

「そろそろ幸せの反動に気を付けろ? 果報者」

 合いの手で桃香の語りをうまく引き出す美春たちに感心しつつもちょっとは加減してくれと内心懇願する傍ら、勝利に丸めたプリントで軽く叩かれる。

「でも大丈夫? 隼人が恥ずか死しないかい? 綾瀬さん」

「えー? でも、はやくんわたしと二人だと」

「もーもーかー!」

 流石にここは看過できないと立ち上がって両肩を掴む隼人に。

「えへへ……はやくん」

「ん?」

「元気になった?」

「……お馬鹿」

 バカップルの片割れが言ってんじゃねーよ、と小さく勝利のツッコミが聞こえるが理不尽ながらも全くその通りだ、と内心思う。

「それに、ね」

「ん?」

「新しいお友達とか、後輩さんもできるわけだから……ちゃーんとアピールしちゃうのは必要かな、って」

「何のだよ」

 それも勿論分かっているのだけど、反射的に聞いてしまう隼人に桃香がにこりと笑う。

「わたしたち、お付き合いしてます、って」

 そんな桃香の一言に、その場の全員がそれぞれの表情、それぞれのリアクションで異口同音にコメントする。




 それで付き合ってないとか信じない







ご覧いただきありがとうございます。

定期的な連載はこれで終わりですが、不定期でこの二人の話は書いていくつもりですのでそちらもまたよろしくお願いします。


シリーズ化で括りました、そちらもよろしくお願いします(追記)

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― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます! 2人の甘々な生活を楽しく読むことができました。 今後も不定期で書くということなので、楽しみに更新待ち続けたいと思います。 素敵な話をありがとうございました!
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