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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
223/225

203.終業式、春休み

「はやくん」

「ん?」

「一年間、おつかれさま」

 締めの言葉の後担任の先生が教室から去って、徐々に賑やかになり始めた教室で隣の席から話し掛けられる。

「桃香も、お疲れ」

「ありがと」

 窓からの陽光がそよ風に揺られた髪を透かす様が密かに好きだっただけにこの位置関係が終わるのは惜しいな、と内心思う。

 自宅で隣の窓辺に居るのを見るのともまた少し違っているから。

「いろいろ、あったもんね」

「そうだな」

 屈託なく笑う桃香に、若干苦みを加えた言葉で答える。

 もっとも、桃香の甘みが強すぎてアクセントくらいにしかなっていなかったけれど。

「何言ってんのさ」

「ひたすら甘々してただけでしょー?」

 するとすかさず後ろから琴美と絵里奈のツッコミが入る。

「一応、自分なりに色々考えてはいたのですが」

「でも、結局桃香のことでしょう?」

「あたしたちから見ればつまりはラブラブイチャイチャしてるだけだったよ」

 更にやってきた花梨と美春からも。

「たしかに」

「!」

「わたしもはやくんのことはいっぱい考えていたかも」

 席を立った桃香が後ろから両肩に手を置いてほんの一瞬だけもたれかかって離れる。

「……も、って何だよ」

「皆まで言うな、ってことことでしょう?」

「じゃあ、隼人がどんなことを考えていたかを折角だし説明してもらおっか」

「打ち上げの丁度いいネタになるね」

「ま、明日からしばらく見れなくなるし」

「多少のことは許してやるか」

 そんなところに荷物をまとめた男子陣も順次集まり……。

「本当、この一年何だと思われてたんだろう……」

「最初は腹も立ったけど、今となっては……ちょどいいエンタメ?」

「私も、姉夫婦をそう思うようになったら割と楽しく見れるようになりました」

 友也と由佳子のコメントにがっくり肩を落とす。

「まあ、嫌ならもうちょっとこっそり行けよ、って話だよな」

「でも、吉野君初手からやらかしてくれてたよね」

「けど、相手が桃香の時点でオープンになっちゃうのは時間の問題だったと思うよ」

「は、ははは……」

 理由がわかるようでよくわからない脱力感に襲われ今日でお別れの机に崩れ落ちている中。

「はやくんはやくん」

「ん?」

「元気出して?」

 丁度いい高さになっていたのか桃香に頭を撫でられる。

「逆に」

「うん?」

「桃香はなんでそんなに嬉しそうなんだよ」

 普段とは逆に笑顔を見上げれば。

「だって、ちゃんとはやくんと仲良しの恋人同士に見てもらえてるってことでしょ?」

「……」

「それはとっても、うれしいよ」




「楽しかったねー」

「結構、疲れたけど」

「あはは」

 その後。

 どちらも行ったことのあるボウリング場で三ゲームにファミレスと梯子して、夕暮れの空の下桃香と家路に就いていた。

「気疲れ?」

「……俺の彼女さんはやはりもう少し諸々隠してくれてもいいんじゃないか、とは思う」

「えへ……でもね」

 隣で小さく舌を出した後、身体ごとぶつかるようにしながら密着して耳打ちされる。

「わたしのはやくんだいすき、って気持ちのうちだとほんのちょっとだけ、なんだよ?」

「……」

「前にも言ったかもだけど、ね?」

「それは、ありがとう」

 頷いてから、指を解いて……小さな肩を引き寄せる。

「俺も、桃香が特別だって気持ちは負けてないから」

「うん……知ってるし」

「ん?」

「ちゃんとはやくん、伝えてくれてるよ」

「それは良かった」

 そうしていたい気持ちはあったが、離してまた指同士の状態に復帰する。

「むー……」

「どうした?」

「ほんとは、ぎゅってしてほしかったな、って」

 本当、どこまでも正直な言葉に内心苦笑いしつつも。

 でもそうしたい気持ちはこちらにも確かにある。

「……それは夜に」

「ちゃんと今の分もだから、いっぱいしてね?」

「わかってる」

 需要と供給の一致を見た気がした。

「えへへ……」

「どうした?」

「両想いって、いいね」

 そして完璧に伝わっていた。




「でもほんと、一年色々あったね」

「……桃香に逃げられた、から始まってな」

「もー」

 脇腹の辺りを繋いだままの手で二回、叩かれる。

「でも、ちゃんと捕まえてくれたよね」

「……ほぼほぼ桃香が飛び込んできてくれたんだけどな」

「そうなの?」

 本当にそれだけ? と瞳が聞いて来る。

「勿論、俺も傍に引き寄せたかった……最初から」

「ありがとね」

 指同士に力が籠った後、柔らかい笑顔を覗き込みながら。

「こういう時は過ぎればあっという間だった……ってなるのかもしれないけど」

「いろいろありすぎた、ね」

 顔を見合わせて、笑い合う。

「でも、一言にはできるかも」

「ん?」

「はやくんのことを、もっともっと好きになっちゃう一年でした」

 軽く二の腕に肩をぶつけられながら。

 心の底から嬉しくなる、そうとしか感想が出ない笑顔に身体の底から熱が湧く。

「桃香」

「うん」

「そんなこと言われると、夜の、その……ハグが……増量になるだろ」

「どんとこい、だけど?」

 にっこり笑ってピースサインをした桃香に、聞き返される。

「はやくんは、どんなでしたか?」

「ん……」

「あれ?」

 どうしてそんな渋い顔するの? と怪訝そうな表情が言う。

 わたしと一緒じゃないの? と。

「その、勿論そうではあるんだけど」

「うん」

「反省点も、多いな、と思った」

「……誕生日に観覧車に連れてかれちゃった、みたいな?」

「まあ、例えばあそこで……こう、なってたらもっと、とは」

 こう、の所で手を二回握って伝える。

「そうかもしれない、けど」

「ん?」

「これから先のことを考えると、あの時はあの時で貴重だったかも……ね?」

 お互いの気持ちを知っていて、あと最後のもう一歩だった時期。

「この先って……」

「違うかな?」

「違わない」

「わ、早い」

「そこは……もう絶対に待たせない」

「予約の予約済み、だもんね」

 蕩けるような表情とくすぐったくなる声が、小さく追い打ちを仕掛けてくる。

「どうしよう、はやくん」

「ん?」

「夜だけじゃ、もうぎゅうってしてもらうの足りないかも」

「まあ、心配はいらない」

「ほえ?」

 期待とは違ったのか一瞬きょとんとなった顔に、ちょっとだけ普段の溜飲を下げながら……そしてそれも全部可愛らしいと思いながら耳打ちする。

「知っているかもしれないけど……なんと、明日からは春休みだ」

「わ!」

 昨日まで桃香の方がそれに期待を膨らませていたのに、忘れてた……と表情が言っていた。

「いっぱい、大切にしてくれるってことでいい?」

「まあ……その通りだよ」

 もう一度、耳打ちする。




「知ってるかもしれないけど……桃香にもっと好いてもらうことが俺の一番大事なことなんだ」




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