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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
一学期/幼馴染同士の距離がわからない?
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21.あなただけ(マンマーク)見つめてる

 ホイッスルの音と共に投げ上げられたボールにタイミングを合わせて跳躍する。

 相手選手は隼人より気持ち背が高いくらいだったが最高到達点は隼人の方が中指一本分以上高い。

「っと」

 事前打ち合わせ通りの位置で誠人が手を上げて合図しているのを確認してボールを叩けば素早いパスが走り込んでいった蓮……ではなくワンテンポずらして回り込んだ友也に通って先制点が入る。

 滑り出しは上々だった。




 球技大会の日、体育館は三つ分とれるバスケットボール用コートをフル回転させて男女の試合を混合で消化していた。

 なので。

「おめでとう」

「やったねー」

 総当たりをやる時間もない関係上一発勝負のトーナメント表の初戦を抜ければ同クラスの試合待ち中の女子たちに迎えらえる。

「えへ」

 その中には運動にはどうしても向かない量の髪を纏めた桃香も居て、大きめの指定体操服の上着から出した手を隼人の肩くらいの高さに掲げて笑っていた。

「かっこよかったよ」

 音は出さず、くらいのソフトさで一瞬だけタッチして、丁度試合の入れ替わりで空いたクラスメイト達の隣に隼人たち五人が流れで収まる。

 当然の様に男女の繋目に隼人と桃香が配される形にされた。

「……2/38だけだったけど」

 それも最終盤に相手が戦意喪失気味になったところで「良いからお前もやれ」とばかりに勝利から連続で渡されたパスを一度決めただけ、なので我ながらあまり褒められたものではなかった。

「もう、そうじゃないよ」

「そうそう、桃香、吉野君がハイジャンプするたびにキラキラしてたんだから」

 絵里奈に見てなかったの? と言われてしまう。

「……集中してたから」

 これは完全に嘘で、五回は目で追っていた。

「それより女子チームはいつもの五人じゃないんだ」

 嘘吐きの自覚はあるので、話題を変える。

「花梨や美春は第二体育館でバレー」

「経験してた子も多くて女子はあっちに全力なんだよね」

 会話に加わった女子の説明によれば規定一杯の現役バレー部二名+現役じゃないので引っかからない元バレー部二名+スポーツ上位の美春と琴美+全競技に人数を丁度は振れないので強制的に交代する枠に矢鱈サーブの上手い花梨、との布陣らしい。

「うーん、うちのクラス、鬼だね」

「一位のポイントがダントツで多いからどこだってそうするだろ」

 今度は隼人の斜め後方から壁に寄りかかっている友也と勝利も加わる。

 各競技の順位に合わせて配されるポイントの合計でクラス順位が決まるのでこういう花梨の采配らしい。

「思ったより真剣だ」

「吉野君だって割と本気だったじゃない」

「そうそう、あの相手のシュート叩き落したのとか」

「いや……あれは池上君の指導がよかったというか」

「蓮、何って言ったんだい?」

 誠人の問いに蓮がニヤリと笑って説明する。

「絶対相手に接触しないようにしながら距離詰めて並走して一緒に飛んで斜め上に手を出せ」

「……確かにその通りだけど」

「隼人の高さでそれをやられると嫌だねぇ」

 他の全員が苦笑する中、隼人は素人ながら役目は出来ているようで安心していた。

 そしてそんな隼人を桃香はにこにこと隣で眺めていた。




「じゃあ、うちら、次だから」

「応援よろしくね」

 暫く散発的に会話しながら時間が経過した後、壁に貼られた進行表を見て女子チームが移動を開始する。

 それに対して自然に「いってらっしゃい」と手を振れる友也はやはり出来る男子だと思わされる。

 そんな風に思っていたら肩の辺りをぐいっとその友也に押された。

「さ、女子の応援行くよ」

「え?」

「頼まれたもんな、隼人」

 完全に面白がっていそうな蓮も加わって腰の辺りも押されながら完全に矢面に立たされての移動となる。

「いや、別に次の試合のコートもここだし、わざわざ行かなくても……」

「それ、綾瀬の前で言えるのか?」

 一撃で反論を封じられた。

「うちのクラスそんなに男女仲良かったっけ」

「まあ『新クラスの親睦を深める』的な意味でこの上なく球技大会の意義があるよね」

 そんな風にしながら到着すれば丁度整列していた桃香と絵里奈や他の女子がそれぞれの意味で笑うのだった。




 昼休み。

 学食組を除いてそれぞれの参加競技から戻った面々から伝えられた結果を花梨が通る声で伝える。こちらは長めの髪を今日は編んでいた。

「男子はバスケットボールと卓球、女子はバレーとソフトボールが決勝進出ね」

 男女それぞれ三競技中二つで勝っているということで軽く拍手と歓声が上がる。

「自分の競技が終わった人は教室で自習でも良いらしいけれど」

「応援行くよ!」

「そだね」

 窓際最前列で手を上げた桃香に絵里奈も賛同する、賛同するクラスメイトのざわめきも日常より盛り上がっていた。

 桃香に行った視線がはんなりと自分の方に向くのは甘んじて受け入れながら素知らぬ風に鞄から弁当の包みを出しながらもふと安心する。

 一勝はしたものの直前の準決勝で惜しくも一ゴール差で敗れた直後は悔しさに表情も陰っていたが切り替えられたらしかった。




「思ったより人がいるね」

「確かに」

 素朴な感想、といった感じで口にした誠人に隼人も応じる。

 三位決定戦が終わって男女の決勝が始まる体育館にはそれなりの生徒が集まっていた。

「あっちは他に行き先がないんじゃないのか?」

 蓮の言う通り決勝相手のクラスの応援に来ている人数はほぼほぼ一クラス分といった数に見える。

「後は単純に見物かもね」

 まあクラスで自習しているよりは見物の方が楽しいかもしれないな、と自分のクラスの方を見れば女子バスケットに出ていた五人の他にもそれなりに増えている様子だった。

 そうしたなら、当然の如く桃香と目が合って、眩しい笑顔で拳を突き出して激励される。

「おーおー、見せつけてくれるじゃん」

 一応絵里奈をはじめとした他の女子も主に声でエールを送ってくれてはいたが桃香のそれが一番目立つので、蓮の肘がごすごすと脇腹に突き刺さる。

 そんな中、反対側にいた勝利がボソッと呟く。

「綾瀬、高校になってちょっとキャラ違うな」

「そりゃあ、隼人が居るからじゃないの?」

 友也ににこりと同意を求められるが。

「いや、逆にそうじゃない状態を知らないので」

 それはそうか、と会話が途切れたところで誠人が手を叩く。

「はい、じゃあ吉野のやる気が充填されたところで軽く打ち合わせようか」

 遂には良心だと思っていた相手にまで弄られ始めていた。

「向こう、バスケ部の一年生で一番上手い人居るから、張り付いて走り回ってもらうよ」

「え?」

 そんなのどうすればいいのか? と顔に出るが蓮の、今度は平手が背中に来た。

「アイツを自由にさせないってのが大事なんだって、ちゃんと骨は拾うから安心しろって」

「え? そうなるの前提?」

「トータルで勝てばいいの」

 僕らチームでしょ? と友也が笑って。

「っしゃあ、行くぞお前ら」

 勝利が吠えていた。




 果たして。

「あ……」

 隼人の手の上空をふわりと通って行ったボールがゴールに吸い込まれる。

 一進一退より若干旗色の悪い試合状況の中、フェイントとフローターで隼人の守備は何度もすり抜けられていた。そして正規ルールより短い試合時間もかなり進んでいるはずだった。

「気にしない、あんなのは毎回入らないから」

「変えなくていいぞ」

 誠人と蓮が隼人の隣をそう言って駆けて行った。

「……」

 ちらりとマークをしている相手を見れば冷静そうに見えて僅かに苛立ちもあるようにも感じられた。

「行けやぁ!!」

 相手ゴールによるスローインを勝利が投げ入れ他三人が回し、最後には友也が押しこんでまた差は二ゴール分に詰まる。

 再度攻守が入れ替わって相手チームがパスを繋ぎ始める。隼人が張り付いていることでエースに毎度は繋げにくいのか他のパターンを試みているようだったが、その実質四対四となると隼人たち側の本職の数が上回る為か攻めあぐね、結局こちらにパスが飛んでくる。

 ただ、その苦し紛れのパスへの反応は相手の方がやはり早く、位置を入れ替えられボールはきっちりキープされ、そしてそのままゴール付近へ持ち込まれてしまう。

(フェイントの方だ……)

 どうしても先ほど頭上を越された記憶から跳んでしまったが横移動で脇を抜かれた。と、そう思った瞬間だった。

「待ってました!」

 隼人の陰から蓮がボールを奪って唖然とする相手チームを置き去りにそのまま一気にカウンターでシュートを決めていた。

 いや、正確にはたった一人反応した相手側のもう一人のバスケット部員のファールまで誘っておりフリースローも奪っていた。

「よし、もうワンゴールで逆転!」

 友也が指を一本立てれば応援のボルテージも上がる。

 ようやく何があったのか把握した隼人の肩を誠人が叩いて笑った。

「蓮が言ってたでしょ、『骨は拾う』って」

「狙ってたんだ」

「一番効果的なところでね」

 ここを耐えれば行けるよ、と言われて。

「よし」

 こめかみから頬のあたりに流れる汗を裾で拭って気合を入れ直す。

 マーク相手に小走りに近付けば今まで静めていた苛立ちが明らかに出ている視線で一瞥される。

 なので。

「もう一回回せ」

 彼がそう声を上げた瞬間、今度は位置を譲らず前に踏み込んでいた。

 右掌に当てたボールを必死に抑え込んで、周りを探し。

「来いや、隼人!」

 雄叫びと共に走り込んできた勝利にそのまま投げ渡す。




 湧き上がる歓声とワンテンポ遅れて響いたブザー音を聞きながら、押し込まれた決勝ゴールを隼人は床に転がりながら見上げていた。


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