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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
217/225

197.お出かけ、寄り道

「最長記録、更新かな?」

「この前飛行機に乗ったばっかりだけどな」

「そうだけど、そうじゃないでしょ」

 まあ伸ばす足は長いので長で良いかと思いつつも、うっかりまだ記憶に新しい学校行事を引き合いに出してしまって、少し頬を膨らませられる。

「まあ、そっちの方もそのうち更新するだろ」

「二人で、ね?」

「ん」

 早めの朝食を終えて家の前で待ち合わせし、二人で駅に向かう。

 いつもの酒屋さんの前をはじめ開店の支度中のご近所さんに挨拶しながらも、もう手は繋いだままだった。




「どこの海まで、行くの?」

 ちょっと多めにチャージをしておこう、と提案してから改札を通り目当て通りの電車に乗り込む。

 明るくなっているとはいえ早めの時間の車内はガラガラとはいかないまでも並んで座れば二人だけの空間になる程度には空いていた。

 毎晩の時間程密着はしないもののしっかりと隣に座った桃香にそんな風に聞かれた。

「ええと」

「あ、ちょっと待って」

 勿体ぶることもないか、と素直に教えようとするも、被せ気味に桃香に止められる。

「当ててみても、いい?」

「いいけど」

「一回で当てたら、ご褒美ある?」

 かなり自信満々に言ってくる様に、苦笑で返す。

「難易度が全然高くないんだけどな」

「ちょっとしたことで、いいから」

「……わかった」

 頷いた瞬間、間髪入れずに指を立てて言われる。

「昔遊びに行った海、だよね」

「……大正解だよ」

「やった」

 軽く手を叩いて喜ぶ様に、材料が揃い過ぎていて勝負になってないだろと苦笑する。

「前に行ったときは車、だったよね」

「ああ、ワンボックスを借りて、だったな」

 二家族合同で。

「今回は荷物が特にいらないからこれでも」

「海水浴するわけじゃないもんね」

「この季節にやるのは寒中水泳、って言うんだ」

「だね」

 うんうん、と頷いてから……桃香がくすっと笑う。

「どうした?」

「えっとね、今日わたしたち誕生日、でしょ?」

「ああ」

 頷き返しながら……つい八時間に満たない前、こっそり日付が変わる時間にしたキスのことを思い出す。

「もう二年したら、免許も取れるね、って」

「一応校則では進学や就職が決まってないと駄目らしいけどな」

 厳密な点を指摘すると、それもそうだけどと桃香は続ける。

「そしたら、車でお出かけも楽しそうだよね」

「ああ、確かにそれもいいかもな」

 もっと行き先の自由度が上がりそうだし、何よりそうなる頃にはもう少し大人になっているということで。

 自己責任の範囲も広がるであろう、ということ。

「はやくん?」

「いや、別に」

 素知らぬ顔をしながら、少しだけ話題を変える。

「バイクも乗ってみたいけど、桃香と遠出するならやっぱり車が良いか」

「そうなの?」

「……うっかり眠られたらと思うと不安だ」

「そんなこと……」

 割と本気の心配事を告白すれば桃香の声は一瞬上がった後。

「……ないと、思うけど」

「やっぱり、車だな」

「もー」

 萎んでいく桃香に結論を再確認すると、抗議するように手の甲を軽く抓んでから、もう数センチ身体を寄せて囁いて来る。

「だって」

「ん?」

「絶対気持ちよくて安心できそうだもん」

「バイクの後ろでか?」

 前々から思っていたけれど、どこか大物なところあるよな、とか考えたところで。

「違うよ?」

「え?」

「はやくんの、背中」

「……」

「ね?」

 そんな風な、敵いっこない反撃が差し込まれるのだった。




「さてと」

「?」

 その後。

 乗り換えと他愛も無い……学校とか友達の話をしながら電車に揺られつつも、最終目的地の五駅ほど前で一旦話を区切る。

「一回、降りようか」

「そうなの?」

「小さめだけど、水族館があるから」

「わ!」

 楽し気に弾んだ声と表情は本当に目の前だけれど、一応確認する。

「寄り道、するだろ?」

「うん、するする!」




「もうずっと前の気がするね」

 ホームの案内板に従いながら、隣からご機嫌な声が聞こえる。

「ん?」

「二人で、水族館行くの」

「まあな」

 でもつい先日修学旅行先で……等と言うまた怒られそうな野暮は流石に学習して思い止まる。

「はやくんが、浮かれちゃってくれた日」

「……そりゃあ、桃香と二人で遊びに行くなら、そうなったよ」

 桃香、という名前に今はずっと昔から好きで可愛いと思っていた女の子、という意味が籠る。

 それが伝わったのか、満足そうに笑いながら桃香も応じる。

「わたしも、気合入っちゃってたかも」

「まあ、お洒落とかばっちりだったもんな……」

「うん」

 そして今日もまた可愛いんだよな、と内心で呟きながら手を引いていく。

「そういえば」

「ん?」

「あの日、はじめてこうしたよね?」

「だった、な」

 ぎゅっぎゅっ、と二度指を絡めながら繋いだ手を握られる。

「えへ」

「どうした?」

「こうやって繋ぐの、上手になれた気がして」

「まあ、その……慣れる、よな」

「だね」

 春に二人で観た映画の後、四苦八苦したのが嘘のように。

 今は階段さえ支障なくスムーズに気持ち半歩前を進んでいける。

「上手に回れるかな?」

「上手って?」

 ゆっくり角を曲がって改札機を通る時にばらけて、すぐにまた合流する。

「だって、彼氏はやくんと二人でははじめて、でしょ?」

「……まあ、確かに」

 新米ではあるのかな? と。

 言われてみればここ二ヶ月の休日は、ひたすら二人でのんびり過ごしていた。

「でも、さ」

「うん」

「その、桃香とはかなり沢山……練習してきたから大丈夫だろ」

 そんな言葉に、桃香が空いている手で口元を隠して噴き出す。

「あれって、練習だったの?」

「いや、まあ、何というか……」

 隼人が思っている以上にツボに入ったのか表情が笑い転げながら桃香は続ける。

「でも、それだと、練習も本番もわたしとじゃ駄目なんじゃないかな」

「……だからって桃香以外とこういうことをするつもりは無いよ」

「えへへ……だよね」

 これは確実にこう答えないといけないんだよな、と返事をすればその通りだよ、という笑顔が返って来る。

「だいじょうぶだよ」

「ん?」

「はやくんのエスコートは昔からとっても素敵だから」

「!」

「ね?」

 言いながら券売機の学生二人のボタンを桃香が押し込めば軽快な電子音と共にチケットが発券される。

「どうしよう、はやくん」

「どうした?」

「わたし、なんだかすっごく楽しくなってきちゃった」

「そんな桃香が見たいから、それでいいんだけど」

 足取り軽くチケットをかざしてゲートを通った桃香に腕を差し出す。

「危なくないようには、しないとな」

「はーい」

 ふわりとした動作で掴まったのを、それからその体勢に言葉通りの笑顔が浮かんでいるのを確かめてから。

「じゃあ、行くか」

「うん」

 桃香のそれには敵わないものの笑い返して、同じタイミングで歩き出した。




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