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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
212/225

192.Tシャツ探し

「それでは今日は班ごとに自由行動日となるが……」

 修学旅行三日目。

 朝食後の会場でおっかない教頭先生が学年主任の注意事項の後の一言を述べている。

「学生らしく、羽目を外しすぎないように」

 その言葉に、クラスの男子の何名かの視線が突き刺さる。

「何でしょうか?」

「自分の胸に聞いてみな?」

 一応自分に確認してみれば単純で。

 桃香と、班別行動。

「心当たりは特に無いね」

「嘘こけ」

 全く指摘の通りだが素知らぬ顔で……対照的なウキウキ顔を視界の隅に捉えていた。




「じゃあ、行こっか」

「「「おー!」」」

 計画を記した紙を片手にもう片方の手を拳にして掲げた桃香に、いつもの三人がノリノリで同調する。

「お、おー」

「無理はしなくていいのよ」

 ワンテンポ遅れた由佳子に、花梨が苦笑いして……。

 一応、二班に別れてはいるのだけれど何というか、もうそういう流れだった。

「まずは、フォトスポットを幾つか巡るよー」

「ジャンジャン撮るぞ」

「フォルダの空きは充分かー?」

 特に先頭に立つ絵里奈と美春に引っ張られる形で動き出す。

 男子陣は、というと。

「ま、こういうのは任せておいた方がいいよね」

「違いねぇ」

 エネルギッシュな女子にいつかの夏祭りの時のように付いて行く。

 目的地の提案もそれを周る順の考案もあまりにテキパキと決められたので、大人しくそうした方がいいだろう……と言ったところだった。

「ヘイ、ボーイズ、テンション温いぞ」

 振り向く美春の煽りに。

「大丈夫だ、滝澤」

「お?」

「今日こそは木刀買うと意気込んでる浮かれ野郎も居るくらいだ」

 勝利に親指で示された蓮が反論に出る。

「何でだよ!? 修学旅行の記念品といえばそれだろ!!」

「まあ、言いたいコトわからなくは」

「ないけれど」

「だよな?」

 苦笑しながらも否定はしなかった琴美と花梨に蓮がほれ! と勝利に勝ち誇る、が。

「限られたお小遣いの中で買うのは勿体無いと思うかな」

「そこも同意見ね」

「そら見たことか」

「んだとう!」

「まあまあ、池上君がいいならいいじゃん」

 そんなやりとりに笑いながら、目的地へ歩いていく中で。

「伊織さん、あと、桃香」

「あら?」

「うん?」

 男子グループの中から少し先行して二人に声を掛ける、も。

「昨夜は……妙なことになって、ごめん」

「吉野君の責任ではないでしょう?」

 小さく口元だけ笑った花梨と。

「わたしは楽しかったよ?」

「ん……?」

「珍しいアングルではやくんのお顔が見れて」

「……そうじゃないんだけど」

「えへ」

「まあ、いいか」

 にへっと南国の空気に溶けるどこまでもらしい桃香だった。




「じゃあ、撮るよ」

「「「はーい」」」

 幸い快晴の砂浜で女子六人が小柄な桃香と美春をセンターにぎゅうぎゅうと詰まった様と海を構図に収める。

「良い光景だね」

「確かにな」

 うんうん、と頷きながら感想を述べている友也と誠人に隼人も内心で頷く。

 正直なところ、班別の中でも一番華のある組になっているとは隼人でも思う。

「オッケー、です」

「ありがとー」

「はい、次男子の番」

「ん?」

 絵里奈の通告に、そういうものか? と首を捻るが、その首あたりを友也にロックされ海の方へと引っ張られる。

 そのまま女子とは逆に背の高い隼人と友也が背を屈める体勢になりつつ中心になる。

「なかよしだね」

 嬉しそう楽しそうにコメントする桃香に二人くらいが「綾瀬とコイツがか?」と小声で突っ込みつつ。

「あら、良いじゃない」

「じゃ、撮るよー」

 カメラを構えた美春が宣言するのだった。




「Tシャツ買うぞー!」

「「「おー!」」」

 美春の音頭に、友也たち運動部所属メンバーが同調する。

「合宿とかで何枚あっても足りないから」

「な!」

 早速吟味し始めている誠人と蓮の横でそんなものなのかな、と呟けば何やら派手な竜の描かれたシャツを見ている勝利にそんなものだろ、と返される。

「というか、吉野君中学とか部活してなかったの?」

「強制参加だったので一応……だけど何せ色々遠いから滅多に宿泊するようなのはなかったし、それだと体操服だったし」

「なるほどなるほど」

 イルカ柄を広げて見ている琴美とそんな会話をしていると。

「あ、これ、面白くない?」

「……個性的とは言っておくわ」

 棚の向こうからの美春の声にどんな色物を見付けたのかふと気になる。

「面白さ重視なんだ」

「それは、そうじゃないの? ウケは取ったもの勝ち」

「旅行先でゲットしたレア物でライバルに差を付けろ!」

「……修学旅行先は皆同じ、では?」

「それは言わない」

 ご当地名産品の柄をニヤニヤしながら眺めている絵里奈も加わって……そうしながら、ふと思ったことがある。

 そういえば真っ先に話し掛けてくれそうなのが見当たらない。

「はーやくん」

「お」

 そんな矢先、後ろから背中を突かれる。

「いいの、見つけたよ?」

 桃香が広げたのはこちらに到着時から何度も見かけたシーサー柄。

「……なるほど?」

 ただ、随分とデフォルメされ……どちらかというと「しぃさぁ」とでも言いたくなるイラストだった。

「かわいいじゃん」

「いいねー」

「でしょ?」

 琴美と絵里奈の御意見にもまあ確かにらしいよな、と頷いたところに。

「パイナップルとかドラゴンフルーツ入荷した時にこれで店番してたら面白いかな? って」

「ああ、そういうことか」

 それは確かに……と思いつつ、一つ指摘する。

「ただ」

「うん」

「エプロンしたら隠れるな」

「あ」

 いつもの看板娘の姿に当てはめるとどうしても不具合が考えられた。

「ば、バックプリント探すね」

「ああ、そうしな」

「……」

「……わかった」

 シャツを畳んで再度探索に向かおうとする桃香の無言の視線に従ってそちらの方に足を向ける。

「……エプロンだって」

「あの二人で言ってると意味深にも聞こえるね」

 そんな囁き声は聞こえなかったことにした。





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