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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
211/225

191.四文字

「……以上が、伊織さんからの返答となります」

「ああ……ありがとう」

 もう半年以上前になるが球技大会で対決した時はほぼ歯が立たず壁か何かに見えた長身が今は萎んで。

「ドンマイ」

 全然小柄な蓮に肩を叩かれている。

「え、ええと……気を、落とさずに」

「まあ、行動しようというガッツは良かったんじゃねぇか?」

「……吉野だけじゃなくて結城も割と良い奴だったんだな」

「とりあえず、何とか気力を絞って部屋までは戻った方がいいんじゃない? 消灯ギリギリだと目立つかもしれない」

「済まん、そうする」

 友也に促されてゆっくりと立ち上がった長身が、部屋のドアに肩をぶつけながらよろめくように去って行く姿を神妙な面持ちで見送るしか出来ない隼人たちだった。




「まあ、ネギには悪いけど、やっぱりか、って感じだな」

 一分少々の他の部屋からの盛り上がる声が届くだけの沈黙に耐えられなくなったのか蓮がぼそりと呟いた。

「なんか、秋ごろから気になる相手が居る的な感じは出してたけど」

「じゃあ、あの雪女が刺さっちまったのか?」

「もしかしたらね」

 誠人と勝利の分析を聞いている隼人の脳裏に、腕を組んで胸を張るそれをデザインした絵里奈のドヤ顔が一瞬過ぎった。

「それにしたってよりによって一番手強いところに行っちまったなぁ」

 蓮の感想に全員が頷く。

 誰が弱いとかそういうことではないが、隙の無さとか一番ガードが固そうなのは花梨で意見が一致するところだった。

「綾瀬さんも本人はともかくこわーい番犬が居たりしたけどね」

「……何か、問題でも?」

「ある意味褒めてるんだよ」

 誠人のからかいに開き直れば、まあまあ、と肩を叩かれる。

「中学の時は中学の時で」

「ん?」

「二年生になるくらいにはそれこそ滝澤とか高上辺り……いや、ほぼクラスの女子の半分くらいが近付く野郎には『この子にはもう心に決めた相手が居るんだけど、わかってんの?』みたいな圧をだしてたな」

 中学校が同じだった勝利が意味有り気に隼人を見ながら言う。

 春先、というか高校生活初日の花梨や美春たちの冷たい視線を思い出さずにはいられない……アレに比べれば今の生暖かい眼差しは随分マシ、だと思えた。

 ただ、非常にコメントし辛い話題に露骨に話を逸らす。

「でも、どうして根岸君はいきなり……」

 疑問を呟いた隼人に、友也が答えてくれる。

「そりゃ、修学旅行のような非日常はカップル成立のチャンスとして挙げられるタイミングだし?」

「そういうものなのか」

「実際、他のクラスで告白成功しているのを二組ほど聞いたし……昨日の宿の裏庭に呼び出ししてたのも見たよ」

 そう言う機微に疎いのを思い切り自覚している隼人は感心するしかない。

「よく知っているね」

「若干悪趣味だとは自分で思うけど、面白いので」

 良い笑顔を浮かべる友也に、ふと四月の体力測定の時に勝負を持ち掛けられたことを思い出す。

 陸上部員で走りに拘りがあるのは勿論だけど、そちらの面でも目を付けられていたのもあるのかな、と感じた……今はいい友達なので些細なことだけれど。

「まあ、でも、伊織さんの言う通り、だからっていきなりは無茶が過ぎるよね……隼人みたいに普段からの積み重ねが無いと」

「あれは重ね過ぎて外堀も内堀も埋め立てて一帯が山になってたじゃねえか、それも夫婦揃って毎日毎日盛りやがって」

 なぁ? と言いたげに勝利に背中をどやされる。

 夫婦じゃないです、と反論したいが……多分倍返しされるので黙っている。

「ああ、でも、隼人と綾瀬さんが付き合い始めたから、あの仲良しグループの他の子ももしかして、という考えが一部で出てたのは事実かな?」

「『私もあんなに大事にしてくれる彼氏ほしい』ってなるんじゃね? ……的な?」

「実際、ウチのクラスでもそれで一組誕生したからね」

「そうなんだ……」

「そりゃ、あんないちゃつきっぷりをいつも見せられりゃ中てられる奴も出るよな」

「そ、そこまでしてるつもりはないです……まあ、桃香が多少自制できてないのは確かだけど」

「お? 愛されてるアピールか?」

「持てる者の普通は貧者にとってそうじゃないんだよ」

 あれ? またいつの間にか包囲される構図になっていないか? と思ったところで。

 またもや何度か連続で通知が来て。

「隼人、愛しの彼女さんじゃね?」

「……親とかかもしれないじゃないか」

「違うと思いながら言ってるだろ」

 心情を簡単に看過されながらも、そしてその通りだった内容を確認して。

「ごめん、ちょっとだけ」

「ん?」

「お?」

 席、というか胡坐をかいていた布団の上から立ち上がった。




「危ないだろ」

 届いた内容通り広縁に出て窓を開けて空を見上げれば一つ上のフロアの同じ場所からひょっこり顔を覗かせている桃香が待っていた。

 二つの階に男女に分かれてクラスごとに順番に部屋を振ればそういうことにもなるのかもしれない、と納得しつつも……ついそんな言葉がから出た。

「だいじょうぶだよ」

 夜風に揺れる髪とその中心にある微笑みが宿の敷地内の幾つかの照明に照らされて普段と少し違う印象を与えてくる。

 違うと言っても、結局昔よりちょっと綺麗で変わらず思い切り可愛らしいという隼人にとっての桃香の印象、というところに落ち着くのだけれど。

「おやすみ、はやくん」

 画面越しや文字とかではなく。

 直接言いたかったんだな、というのが言われずともよくわかる表情と声色で言われて。

「ああ、おやすみ」

「また、明日ね」

「ああ」

 頷きながら笑い返すと……。

「    」

「!」

 口だけの形で、さっきまでよりずっと誰にも聞かせられない言葉が降って来る。

それが伝わったことを確信した表情で桃香が窓枠に添えていた手の片方を小さく振ってから引っ込むのを見送ってから、隼人も必要以上にそっと窓を閉める。

「……ったく」

 閉めた後で、軽くガラスにわざと額をぶつけた。




 で。

「ネギには見せられない状況だったな」

「ボールじゃなくて本人が突っ込んでくるよね、こんなの見せられたら」

「でも、レッドは俺なら隼人に出すな」

 一応閉めていた障子を開けて広縁から部屋の方に戻れば当然のことながらじっとりとした目の四人が待っている。

「さすがにそこは確認の上、だよ」

「まあ、それはともかくとして、だ」

「独身相手に見せつけてくれるねぇ……」

「隼人君、お話し合いがありますので、正座」

「……はい」




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