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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
210/225

190.誰狙い?

「力って……」

「言うのは?」

 思い切りそこらの機微に疎いです、と顔に書いている無骨気味な男子二人に友也が爽やかに推理を披露する。

「根岸君が隼人に話を振ってきたのは、隼人にさっきのことを聞きたい以外にもあるんじゃないかな? って思ってさ」

「?」

「!」

 他に何だ、とまだ頭に疑問符を浮かべている隼人を他所に勝利と誠人が何かを察した表情になる。

「ああ」

「成程、ね」

「つまり、どういうことだ?」

 幸いまだ隼人側の蓮の問いかけに誠人が応じる。

「つまり、隼人の彼女……」

「!?」

「一瞬で顔を臨戦態勢にすんじゃねぇよ」

 条件反射で表情筋に力が入ったところで、勝利に丸めた予定表で頭を叩かれる。

「……噂には聞いてたけど彼女が絡むとちょっとおっかない奴なんだな」

「これで冬休みまで付き合ってない云々言ってんだから大したもんだろ?」

「でも、まあ、今のは誠人が話を切るところが意地悪だったね」

 面白そうに笑う友也の指摘に、誠人も片手を立てにするジェスチャーで隼人に謝りつつ言い直す。

「つまり、綾瀬さんの交友関係から……話し掛ける糸口を掴めないか、ってコトだね」

 そうそう、と頷きながら友也が補足する。

「ちょうど今、修学旅行でそういう流れだしね」




「桃香の友達」

 確かに客観的に見れば綺麗所揃いだよな、と内心で頷く隼人の脇を蓮が突く。

「言っとくけど、お前のスマホの友達欄、是非知りたいってヤツ多いからな?」

「同級生にとどまらず美人のお姉さんの二人とかもいらっしゃるしね」

「言われてみればそんな話もあったっけか」

「これで見てわかるレベルの綾瀬一筋じゃなかったら袋叩きにされてるところだな」

 うんうん、と隼人以外の全員が頷いたところで。

「おーし、じゃあ折角だし昨晩更新された一年女子人気ランキングでも見とくか」

「え? 昨晩って……」

「伊東と加藤の部屋に各クラスの有志が集まって集計してたんだよ、消灯時間後に他クラスの部屋に行ったってこっぴどく怒られてただろ?」

「あれって……トランプしてたんじゃないんだ」

「女子にも聞かれる可能性があるところで彼奴らが本当のこと口にするわけないだろ?」

 言いながらスマホを弄って蓮が何かのファイルを開いて置いたところを全員で覗く。

「おー、やっぱり伊織さん高上さん尾谷さんはトップテン譲らずかぁ」

「あとは一組の藤野とか四組の萩原あたりも常連だよな」

「ああ、綾瀬は入ってないから安心しろ」

「え?」

 勝利の注釈に思わず素っ頓狂な声が出た隼人が他の全員から白い目で見られる。

「何だ、その反応」

「俺の彼女絶対可愛いだろ、とでも言いたげじゃねぇか……まあわからんでもないけどよ」

「マナーとして明らかに彼氏がいる子は選外だよ」

「ちなみに綾瀬さんが入ったのは五月開催の第一回目のみだね、ウチのクラス以外からの得票で」

「そ、そうなんだ」

 正体はよくわからないが敢えて分類するなら安堵の息を吐いてそっと一歩分下がる隼人だが、また物言いたげに見られる。

「こいつは……」

「綾瀬以外興味ないってか?」

「実際あったらあったで問題だけど、あの余裕はちょっと腹が立つね」

 蓮や誠人に睨まれる中、友也がもう一つ爆弾を面白そうに放り投げてくる。

「あ、それはそれとして、綾瀬さんが遂に愛しの彼氏のハートをゲットしてから更に可愛さを増しているというご意見はあったっぽいよ?」

「……」

「隼人、何か言うことは?」

「何を、言えと」

 言葉はそれくらいしか出ないし、あと顔も上げられない。

「隼人の布団押し入れにでも敷き直すか」

「え、ええと……」

「良いからお前は黙ってそこに座ってろ」

 確かに、これ以上迂闊に口を開くと余計な地雷を踏みかねない、と勝利に素直に頷く。

「……はい」




「で、ネギは一体誰狙いよ?」

 勿論絶対言えってわけじゃないけどよ、と前置きをして蓮が尋ねる。

「あの、だな……」

「美人の呼び声高い伊織さん、長身スポーティ高上さん、はたまた金髪フレンドリー尾谷さん」

 指折り挙げられていく中、他からの評価はそうなるのか、等と考えたりもする。

 隼人としては桃香の大事な友達で、隼人個人としても良い友人だと思っていて、多少……いや、大いに自分と桃香のことで遊んで来る人たちという印象が先に来る。

「ああ、若しくは元気な小型犬滝澤さん」

「……本人聞いたら怒って吠えてきそうだね」

「まあ、それがいいという意見も一部ではあるけど」

「そして控えめで大人しい瀬戸さんもそれはそれで魅力的」

 いろんな意見があるものだな、と思いながらも刺された釘に従い大人しくしていることにする。

「蓮も言ったけど、教えろという訳ではないけど、ターゲットが明白ならこちらとしても出来ることは増えるしね」

 どうですか? と尋ねる友也にしばし沈黙して。

「ああ、ええと……そっちのクラスの学園祭の出し物で」

「ほう?」

「雪女をやっていて……」

 二択になったけどどっちだ? と目配せし合う。

「髪の、長い方の」

 ああ、と隼人たち全員が同じタイミングで頷いた。




「ええと、そうしたら……彼女は僕と隼人と同じ班、だけど」

「ああ、知ってる」

「明日の自由行動あたりで、二人になれるようにアシストしてみればいいのかな?」

 友也が確認するが、そうではない、と返事が戻って来る。

「その、連絡が取れるなら……今から、階段の良い感じの所を目星付けたので来て貰えないのか、と」

 その申し出に、再度五人で顔を見合わせた後。

「まあ一応僕らもメッセージを送ることくらいなら宛先知ってるけど」

「綾瀬経由で口頭の方が良くないか?」

「同じくそう思う」

 隼人以外の四人が頷き合って、蓮が隼人を指差しながら纏める。

「よっしゃ、隼人一肌頼むわ」




 一応、他の面々から距離を置くため広縁に出て桃香に通話を発信する。

『はやくん?』

「いきなりごめん、今何をしてた?」

『さっきお風呂から戻って、みんなで髪を乾かしたりしてたよ』

 密談めいたこちらの部屋に比べて何とも和みに溢れた話だ、と思いながら……さて、どう切り出したものだろうとタイミングを計っていると。

「わかっちゃいたけど相手が相手だけに」

「何かやっぱあいつさっきまでと声色から違わね?」

 少々ブーイング気味に寸評が部屋の方から聞こえてくるが、気にしないことにする。

「その、変なことを頼んでしまうんだが……」

『……? うん』

「伊織さんに話がある、という人に今相談を受けてて」

『あ、うん、だよね?』

 思った以上に察しが良いな、と言う感想はすぐに裏が取れる。

『はやくんが他のクラスの人に話し掛けられていたの、もしかして、そういうことじゃないかな? ってみんなと話してたところだったから』

「そうか」

 まあそういうことには、なるよな? と頷いている所に。

『……わたしははやくんからかかってきてラッキーだけど』

「あのなぁ」

『はやくんは、そうじゃないの?』

「そうじゃないとは言ってない」

『えへ』

 そういうことを素直に囁いてくるから、まず一人にはなれない修学旅行中はこれも控えておこうか、という決め事、だった。

『えっと、じゃあ、花梨ちゃん』

『あら』

『やっぱそっちか!』

『知ってた~』

 端末の向こうで桃香が状況説明をしているのが遠く断片的に聞こえる。

 あと、何やら美春と絵里奈らしき囃し声も。

『吉野君?』

「はい」

 そして桃香とは対照的な花梨の声が届けられる、ものの。

『男女がフロア間を移動するのは禁止されています、ってお伝え願える?』

「ははは……」

 取り付く島もない、のお手本のような返答に乾いた笑いしか出ない。

『それに、吉野君や桃香を経由しなければいけない状況ではなく私を直接呼び出してくださるくらいの関係が最低条件では? とも』

「確かに、その通りかもしれない……ね」

 ド正論に頷かされながらも、連絡した手前多少のフォローを口に出す。

「その……悪い人では、無いと思うけど」

『吉野君』

「はい」

『私はお付き合いするなら悪い人ではなくて明らかに私にとって良い方、としたいわ』

「……」

『吉野君と桃香のように、ね』

 じゃあ桃香に返すわね、とさらりと告げられ。

 桃香の声が聞こえる前に、絶望顔を中心にやっぱりか、という顔をした部屋の方をギクシャクと向いて両手でバツを作る隼人だった。





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