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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
208/225

188.薄青い光の下で

「お城とか昔のこの地方の服装とかも興味深かったけど」

「ああ」

「やっぱり、わたしはこっちが楽しみかな」

「まあ、そうだろうな」

 バスから降り、誘導されつつ入口に並びながらそんなことを話し合う。

「でも、思ったより、その……混み合う、というか」

「一学年丸々だし、貸し切りでもないしな」

 完全に昨日や今日の午前中のように展示物を順路通り見ることになりそうというかそれ以外でき無さそうな雰囲気に思ってたというか想定していたのと違う、と言いたげな桃香に。

「まあ、あくまで学校行事よ?」

「そういうのがお望みながら吉野君に連れてってもらえばいいじゃん」

「隼人なら幾らでもウェルカムでしょ」

 同じ班の花梨と美春、友也が的確に指摘してくれる。

「いや……幾らでもは幾らなんでも」

「太っ腹なとこ見せるところじゃないの?」

「でも、吉野君、金銭管理もしっかりしてそうだから……そういう意味では安心ね」

 どういう意味で一体何の話だ、と苦笑いしながら……それでもそれなりに心を躍らせつつ、団体ゲートを通って館内に足を踏み入れた。




「水中で小さくてキラキラしてるのいい……」

「自宅でアクアリウムなんかも憧れますね」

「確かに見ているのはいいんだけど、温度管理とかがしっかりするのが大変なのと、あと生き物の組み合わせには気を遣うわね」

 班ごとにまとまって、といいつつもクラスごとに入場してその順番で動いていくので、どうしても隣の班とは隣接して……割といつもの面々が揃う。

 琴美と由佳子と花梨の結構濃ゆい水槽トークを聞きながらカラフルな熱帯魚のコーナーを通過すると。

「えっと、次はジンベエちゃんの水槽みたいだけど」

「あ、あのよくテレビに映るやつだ!」

 やはり目玉なのか美春たちの声が弾む。

「やっぱりこの水族館来たならあの構図だよね!」

「……ちゃん?」

 それはそれとしつつ。

 ちゃん付けになるほど可愛らしい生き物だっけ? いやでも、ある意味で愛嬌はあるか? なんて考えながら流れの中をそれに任せつつ、あまり桃香だけにベッタリにもならないことも意識し隣になったり若干斜めになったりしながら歩いて行く。

 まあ、楽し気にしているしそこは良いよな……と考えたところで、今朝ホテルで階段の上から見つけられた時のリアクションを思い出す。

 結局のところ、ずっと昔から桃香の笑顔が一番眩しい。

「……そうでなくて」

 いや、俺は珍しい生き物でもないし、そもそも可愛げなぞ……と脳内の話題を強引に変換して首を振りながら階段を下って下のフロアへと進んで行くと。

「わ!」

「ちょっとストップストップ」

 どうしてもメインの水槽の前で流れは滞り、ラッシュ時の車ならテールランプが次々と点くような感じにブレーキがかかる。

「ご、ごめんね」

「平気平気」

 前を行く花梨への追突を避けようとして逆に後ろに傾いだ桃香の両肩を、軽く支えつつ問題ないと声色でも伝える。

 一応そうしなくても大丈夫そうだったけれど、咄嗟にそうしていた。

「ヒュー」

「さっすが彼氏」

「……この場合は関係ないと思うけど」

 後ろから聞こえた蓮と琴美の茶々にも振り返らず応える。

 まあ、他の誰かなら背中を支えた筈だし躊躇いなく触れられたという点では限定ではあるし、二の腕と肩の境の柔らかさを一分にも満たない間とは言え堪能したのは否定できないけれど。

「ちょっとだけ」

「ん?」

「コバンザメの気分、わかったかも」

 ゆっくりと進んでいくのを待つ間、桃香が首だけで振り返ってそんな風に笑う。

「……ちゃんと自分で歩け」

「ひどい」

 髪留めを避けてチョップを入れれば。

「うわー、DVの現場目撃しちゃった」

「でも綾瀬さんも喜んでるのでは?」

「どー見てもいちゃついてるだけだろ」

「……違います」

 後ろを苦い顔を見せながら振り返りつつ。

 桃香の笑顔と軽い接触につい引き締めが緩んだことを内心で反省する。

 する一方で……もう少し触れたかったな、という気持ちはどうしても生じているのだった。




 そしてそれは同じ気持ちだったのか。

 大水槽の前に出て、空いたスペースに順に入って行くような流れに変わった隙に、人差し指の先端を一瞬だけ握られた。

 勿論、視線をそちらに向けるまでもなく誰の仕業かはわかる。

 そのくらい隣なのだからいっそのこと……と思うけれど今は抑えて。

「ジンベエザメ見るんじゃなかったっけ?」

「そうだね」

 人垣の向こうに大きなシルエットが低空飛行で泳いでいったな、とは思ったもののよく見えなかったし背が平均よりやや低い桃香だと尚更だろうとか思ったところ。

 丁度人二人分入れる隙間が空いてそこに進んで。

「……ジンベエザメ見るんじゃなかったっけ?」

「……そうだね」

 折角最前列に出たのにガラスに映るお互いと目を合わせてしまい……そんな風に言い合う。

 改めて、と前を向けば。

「大迫力、だね」

「ああ」

 目の前全体を泳いでいく魚たちに感嘆の声が出た後、また横目でお互いを確認する。

 そんな時、桃香の顔に大きな影が掛かり。

「あ、ジンベエちゃん来てくれたよ」

「流石にでかいな」

「はやくん何人分だろね」

「換算そこかよ」

 桃香の指差す先を目で追いながら、声が弾んでしまうのが自分でもわかった。

「あ、今度はエイだ」

「こっちもなかなか……なんというか、ワイド」

「そだね、ちっちゃい子たちも可愛いけど、おっきな子はクッションにさせて貰ったら気持ちよさそう」

「……ジンベエザメってサメ肌じゃないのか?」

「さあ? どうなのかな」

 仕様も無いな、と思うようなことで笑ってしまう。

「あ、でも、やっぱりクッションになってもらうなら」

「……何だよ」

「えへへ」

 軽く、桃香の肩が二の腕付近に接触する。

「あのー、お二人さん」

「お取込み中悪いけど、次、行くわよ?」

 そんな時間は友也と花梨にそれぞれ背中を叩かれるまで続いた。

「あ」

「ご、ごめんね!」

 正直、時間を忘れかけていた。

 そしてもう一つ。

「「!」」

 並んで少し急ぎ気味に順路に向かおうとする中で自然に手が伸びかけて……お互い慌てて引っ込める。

 確かに、幾らでもとはいかないけれど……また何かのタイミングで二人で行かなければ気が済まない気分にはなっていた。





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