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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
207/225

187.アメリカンスタイル

「おーっす」

「はよーっす」

 修学旅行二日目。

 朝食時間になり同じフロアの男子生徒たちがぞろぞろと部屋から出てきてホテルの大広間までの流れになる。

 一部眠れてないのか寝ていないのかゾンビのような足取りの面子が居るのもご愛敬、といったところ。

「伊東に加藤、お前らなにしたん?」

「……電気消して大富豪してたら」

「徐々に白熱して声でバレた」

「ご愁傷様」

 そんな風にして歩いていく中、流れが緩やかになったと思って前方を見れば階段から下りてくる女子たちと合流することになる地点でそのことには納得しつつ。

「……」

 無意識に、桃香の姿を探してしまう。

 すると丁度折よく踊り場で折り返す直前のよく見える角度で少し滞りがちな歩調に溜まっているいつもの面子を発見する。

「!」

 向こうも同じことをしていたのか、パッと顔を輝かせた桃香が元気に手を振ってくれ……完全に面白がっている美春や絵里奈もそれに倣ってくる。

 そんな華やかな光景に対して努めて冷静な顔で、それでも軽く片手を上げて返事にすれば。

「おやおや」

「綾瀬さん超ウキウキやん」

「吉野ォ……」

「やっぱオメーは男子の敵だ」

 穏健過激、それぞれに周りの声を浴びせられる中。

「綾瀬さん、ちょっと意外なの着てるねぇ……」

 南国とは言え一応二月の朝。

 男子は半袖が多いものの女子の半数以上がカーディガン等羽織っている中、桃香が着ていたのはオリーブグリーンのパーカー。

 一応そういう色合いのものを着ている女子が居ない訳でもないが、桃香の使っているものとしたら普段と異なる印象を与えるのはまあわかるし、前を空けたパーカーの下に見えるピンク色のシャツこそそれらしいと言える。

「それも結構サイズでかいな」

「というか多分男性用だよね」

「「「……」」」

 物言いたげな無数の視線が刺さるのを、感じる。

「……桃香の親父さんも結構大柄でガタイの良いひとだけど」

 丁度この時間くらいに仕入れから戻って大きな木箱やらを幾つもパワフルに荷台から降ろしている姿を思い出す、が。

「つまり男物だと認めるんだね」

「……」

 友也の笑顔に、しまった、と思うのも後の祭り。

「まさかこんな朝一からやってくれるとは思わなかったな」

「……本当に使うなんて思っていなかったんだよ」

「ツッコミどころはそこじゃねーけどな」

「色々と手遅れだな」

 肩を掴まれ背中を叩かれしつつ進んでいくと上手い事流れが整ったのか桃香たちと合流することになり。

「おはよ、はやくん」

「……ああ、おはよう」

「あ、みんなもおはよう」

「おーっす」

「おっはよー」

 階段の最後の一段を下りながらの極上のスマイルに小さく拍手が巻き起こる。

 そしてそれを待ってからクラスメイト達が声を出すのは何故だろうか。

 一応、桃香への目線に抗議の念を込めたのだが、全く意に介して貰えず……むしろその前にいた琴美が気付いて軽く振り返りつつ小さく舌を出してくる。

「ちょっとお腹、空いちゃったね」

「まあ、そうだな……元気な証拠だろ」

「ホテルのアメリカンスタイルの朝ごはんだって、楽しみ」

「ん……」

 まあ夏休みに桃香に準備して貰ったやつの方が美味いだろ、とは思うだけで絶対に口から出ないように気を付けつつ進んでいくと。

 会場の入り口でプレートを受け取る列になれば当然のように桃香と前後に並ぶことになる。

「ごはんの席もこの列のまま座れちゃえばいいのにね」

「それだと色々と収拾がつかなくなるだろ」

「それはそうだけどね」

 カリカリに焼けたベーコンにおいしそうと言いながらさらに進むとパンに塗るものをセルフで選ぶコーナーに差し掛かる。

「はやくんは、この中だとマーマレードだよね?」

 自分で取る、という暇すら与えられずプレートを一旦置いた桃香が自分のストロベリーを手早く乗せた後、隼人の分まで手に取り断定される。

「まあ、そうなんだけどな」

「はい、どうぞ」

「……ありがとな」

 軽く天井の豪華な照明を仰ぎながらも、これで多少桃香の溜飲が下がるなら良しとするしかないか、と考えつつ。

 余り気味のパーカーの袖とジャムは勿論お皿の端に盛られているケチャップが大丈夫かとか心配しつつ。

「多分……」

「?」

「いいや、なんでもない」

 内心、そのうち桃香と旅行に行ったなら宿の選択によっては朝食はこんな感じになるのか……と想像し。

「あ、本場だけあってパイナップルおいしそう」

「桃香が言うならそうなんだろうな」

「えへへ」

 得意そうな表情を横から見ながら。

 悪くないな、とか思うのだった。




 朝食を終えるのは勿論として、出発の支度の方は基本的に男子が早く……チャーターされたバスの席順も奥から男子が割り振られていた。

「今日は城及び文化体験、と」

「水族館、か」

 隣でしおりを広げている友也に後ろから生えてきた蓮が合わせる。

「どっちも行くのは初めてだけど」

「ま、有名どころだし」

「テレビとかでこれでもかって見てるよな」

 それは確かに、と周囲の皆が頷くけれど、だからといってテンションが上がらないわけでは全くなく、やいのやいのとスポット情報をチェックしたりしながら盛り上がっているうちに。

「おはようございます」

「お願いしまーす」

 ちょっと白髪の混じった運転手さんと若いガイドさんに挨拶しながら女子も部屋ごとに乗り込んでくる。

 またしても桃香の姿を探してしまいつつ、通路側に座っていて前を向いていれば当然視界には入るのでそれは見えてしまうだろうと言い訳しながら前を向いている、と。

「♪」

「!」

 サイドバッグとして使っている小ぶりのリュックを前に抱えて歩いてきた桃香の髪型が普段と若干違うことに気付く。

 時折デートの時とかに使ってくるハーフアップで……否応なしに今日の日程と合わせて梅雨の頃に初めて(能動的に)二人で出かけた時のことを思い出させてくる。

 あの青みがかって薄暗い空間の中で少しいつもと違う色合いで感じた表情。

 実際機嫌良さそうに前の席に座る直前の表情と何より最近改めて思い知らされているそういうことは逃さないし活用してくる桃香の性格から確信犯だと確信できた。

「……」

 昨日の夜、メッセージとして送られてきた「水族館楽しみだね」が桃香の声で聞こえてしまい。

 あんまり揺らしてくるんじゃないよ、なんて言葉をまだ発車していないバスの中でペットボトルの炭酸水と飲み込んで。

 主に班別行動で「うっかり」してしまわないように気を引き締めるのだった。





新しい連載も進めています、よろしければお願いします。 https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9512jx/


なお、パーカーの出所は番外13。

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