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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
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180.二月のイベント

「じゃあ、今度の土曜日、お昼過ぎにお邪魔するね」

「よろしくー」

「了解したわ」

 友也や勝利たちと雑談をして席に戻ってくると桃香たちは桃香たちで何やら約束を交わしていたようでそちらはそちらで楽し気だった。

「はやくん」

「ああ」

「次の土曜日はみんなと花梨ちゃんの所で……ええと、遊ぶことになったから」

「ん、わかった」

 丁度そこで割のいい単発のアルバイトがあるので皆で入れようかと相談していた所だからタイミングが良かったな、と思ったところで。

「吉野君」

「はい」

「気になる?」

 ニッと笑いながら美春に聞かれる。

「なるならないで言えばなるけど、全部を全部知ろうとも思ってはいないかな」

「あら、優等生発言」

「あんでよー、ちょっとは気にしなよ」

 感想を呟いた花梨に被せるように美春が下唇を出す。

「……聞いていいのかな?」

「そこは察してよ」

「どうしろと」

 若干テンション高めの美春に苦笑いしていると横から絵里奈が口を挟んできた。

「ではそんな吉野君に特別ヒント」

「……どうぞ」

「来月の半ばにある、特別なイベントって、わかる?」

 アイドル雑誌の表紙に出てきそうなポーズをとりながら意味深に聞いて来る絵里奈にやんわりと頷く。

「まあ、一般常識として知ってはいるけど、一応」

「だ・よ・ね? 普段は手が出ないお高いブランドのチョコレートが半額とかで買えるビッグチャンスのアレよ、アレ!」

 イェーイと右手を高々と掲げるこちらは普段よりだいぶテンションの高い絵里奈に若干圧倒されながらも呟く。

「世間一般にはその前日とかがメインイベントでは……?」

「おう、隼人にゃそうかもしれんけどそれを一般にすんじゃねぇ」

 突然後ろから蓮に結構本気の力で肩を掴まれる。

「あら、それはそれとして」

「「?」」

 そんな隼人と蓮に涼しく笑いながら花梨が言う。

「そのメインの前準備が本気の出しどころ、って人も居ると思うわ」

「お、おう……」

「な、なるほど」

 思わず頷きながら、ちらりと横目で確認すれば。

 メモ帳片手に琴美と由佳子と談笑している桃香の姿があった。




「あー……」

「くぅー」

 そして土曜日。

 各々ペットボトルを一気に飲み干して、男子のいつもの面子が天を仰ぐ。

「つかれた」

「絶対明日筋肉痛になる」

「てか、現時点で腕パンパン」

 果てしない数のパイプ椅子を運び終え無事アルバイトは終了したものの……自販機のあるベンチ付近からしばらく動けなくなりそのまま本日の勤務地のホールがある公園の片隅に溜まっていた。

「今頃女子は……」

「まあ、華やかにやってるんだろな」

「あちらはあちらで作業だろうけど」

 そんな中、蓮と勝利のボヤキから話はそちらの方に転がり始める。

「委員長、結構なお嬢様で……家のキッチンの設備が凄いみたいね」

「委員長は現在お前だろうが……」

 勝利のツッコミはそのまま流して、友也が話を続ける。

「オーブンの火力を聞いて瀬戸さんが地味にテンション上げてたの面白かったね」

「瀬戸、調理実習の時も案外手際良かったしな……あと、伊織と尾谷も」

「で、言わずと知れた綾瀬さん、と」

 時折色々焼いては美春や絵里奈に感謝のハグをされている様から腕の確かさはクラスでも知られている所の桃香を、誠人が面白そうに付け加えたが、先程から無言を貫いている隼人としては目を逸らすしかできない。

「滝澤さんと高上さんもいるから……クラスの綺麗所がエプロン姿でお菓子作り、だね」

「……ちょっと見てぇな」

 友也がそう言うと蓮がそう零す……調理実習の統一された格好とは違うだろうから、隼人を含め他三人も内心では縦に首を振ったのが僅かに表情に出ていた。

 華やかな光景なのは、どうにも否めない。

「いい香りもしそうだ」

「……そうだね」

 勝利の呟きに誠人が応じると……複数名の腹の虫が主張をした。

「ま、いわゆる友チョコってヤツみたいから俺らには関係ないか……」

 物凄くワザとらしく一旦言葉を切ってから隼人を見た勝利が付け加える。

「例外を除いて」

「……いや、女子の間でのやり取り、でしょ?」

「色々試作するとも言ってたケドね」

 逃げ口上に片目を瞑って友也が回り込む。

「つまりその中のか、それを受けての上物がココに収まるわけだ」

 横から蓮に腹の辺りをポンと叩かれる。

「相変わらず鍛えてるな」

「まあ、一応」

「綾瀬と付き合い始めて太ったんじゃないんか?」

「……いや、別に」

「蓮、その前からああだから変わらないよ」

「あ、そっか」

 しれっと蓮を正す誠人とあっさり納得する蓮に、思わず苦笑いする。

 否定が、し辛い……どころかできない。

「い、いや……その、そこのそれはそうかもしれないけれど」

 少々しどろもどろながらも話を逸らすことにした。

「別に、皆も貰わない訳じゃ、ないよね……?」

 皆、良い奴なのでむしろ自分なぞより先に交際相手が居たって不思議ではない、とは前々から思っていた。特に間違いなく見目も整っている友也などは。

 全員、うっすらとそうではないらしいことも聞いてはいるけれども。

「まあ、そりゃあ部活とか」

「妹とかからは貰うけど、さ?」

 友也と誠人に両肩を叩かれる。

「意味も質も全然違うから」

「そもそもそんなにポンポン彼女とかできるかって話だよ?」

「生まれた時から相手が居たやつとは一緒にすんな」

 そのまま肩に置かれた手には力が籠り始め、蓮には後ろから首を極められる。

「う、産まれた時からは大袈裟だ!」

「お? じゃあいつごろから綾瀬にチョコ貰ってた?」

「そ、それは……」

 目も言葉も盛大に泳ぐ。

「……記憶にある限りの昔から、だけど」

「それ見たことかー!」

「やっぱり男子の敵じゃないか」

 ぐわんぐわんと揺すられながらも、なお抵抗は試みる。

「ちょ、もう腕上がらないとか言ってなかったっけ!?」

「リア充野郎への怒りで回復したっつの!」

「で、でもさ……」

「ん?」

「チョコレート渡されたからってそうとは、断言はできなくない?」

「まあ、一般的にはそうかもだけれど」

 訝し気な目で見る誠人の横から、今まで黙っていた勝利がぼそりと口を開く。

「じゃあ、ちなみに記憶にある限り一番最初のヤツってどんなの貰ったのか言ってみな?」

「あ、ええと……」

 確か最初は流石に買ってきたもの、で。

 リボン付きの箱に入った大きなハート形のチョコレートを……くれた癖に羨ましがる桃香と二人で分けて食べた、思い出。

「…………」

 言えるわけが、ない。

「おやぁ? どうしたのかな、隼人くん」

「やっぱり昔からガチの本命だったんだろう? え?」

「……ノーコメントでお願いします」

「ほー」

「それ見たことか」

「蓮、やっちゃって」

「よっしゃ!」




「じゃあ、今日はこの辺りで解散で」

「あー、最後無駄に疲れた」

「ははは……」

 それでも作業終了直後に比べて一応小休止したことや全員で盛り上がったことによって元気にはなっていた。

「それじゃ、お疲れ」

 片手を上げてから自転車に跨ろうとした隼人を、友也の声が呼び止める。

「ちなみに、隼人は今から伊織さんの家に彼女を迎えに行くのかな?」

「……そのまま上がり込んで目と口を保養してくるんじゃねえだろうな」

「あ、いや」

 大分黒い念の籠った蓮の視線に首を振りながら答える。

「荷物とかの都合もあるから、尾谷さんの家の車で送ってもらうって言ってたし」

「荷物……ねぇ」

「材料は買い出しに行くにしても道具とか持ち込んだみたいだから、その関係じゃないかな?」

 そういう隼人の言葉に、さらりと友也が付け加える。

「でも、滝澤さんに絶対帰りの綾瀬さんには遭遇するな! って念を押されてなかった?」

「ま、まあ……うん」

「ほー……」

「やっぱりそういうことか」

 なるほどなるほど、と蓮と誠人が頷く中、勝利が呟く。

「案外」

「うん?」

「綾瀬のことだから今まで渡せなかった分! とか言って重箱一杯に作って来るんじゃないか?」

「……い、いや、まさか」

 どちらかというと労働後で空腹気味だった胃袋が途端にキャパ限界になった気分になる。

「いくら桃香がああだからって……それは」

「……いや」

「まさか、ね」

 隼人の漏らした声に、一斉に動きが止まる。

 有り得る、と全員が全員思った模様だった。

「お、おやおや、隼人……自分の彼女に何って言いかけたのかなぁ?」

「言い付けてやろ」

「鼻血でもニキビでも出してケアして貰え」

「お幸せに」

 ペットボトルを空にしたのに。

 最後はやや乾いた笑みでその日は解散したのだった。




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