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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
一学期/幼馴染同士の距離がわからない?
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19.それとこれとは別のスキル

「吉野、ジャンプしてみろや」

 昼休み、体育館に連行された隼人の若干下から勝利が天井を指さした。

「全力だぞ?」

「わかってるって」

 ほんの少しだけ膝を曲げて真っ直ぐ跳躍して手を伸ばす。

 指先はバスケットボールのゴールネットの真ん中あたりを掠った。

「おー、さすが」

 着地した隼人に拍手しながら友也が口を開く。

「長距離じゃなくて高跳びもいいね」

「入らないって」

「うーん、つれない」

 多少変速したもののいつもの会話だった。

 ただ、ここから加わる男子が二人いるのが少し違う。

「足も速いしスタミナもあるんだよね?」

「むしろバスケ部でも歓迎だぜ」

 同じクラスの亀井誠人かめいまこと池上蓮いけがみれんに肩を叩かれる。

「まあ、機会があれば?」

「これは入る気ないね」

「勿体ねぇ」

「……まあ、二人の気はそのうち変わると思う」

 若干唇の端を引き攣らせて笑う隼人に四人は疑問の表情を浮かべた。




 五分後。

「はいっ」

「んっ」

 誠人が投げたボールを受けてリングを狙うも派手な音と共にボールは明後日の方向に飛んで行く。

「あー、納得した」

 丁度落下地点付近にいた蓮がキャッチしてそのまま直ぐに放ったボールはボードに当たってきっちりリングの中心を通過する。

「そんなに難しい事じゃねーだろ?」

「そうは思うんだけどね」

 次いで勝利と友也が3Pのラインから連続でゴールに放り込んだ。

 それを見て隼人の肩ががっくり下がったのは、もう仕方のない事だった。

「いやー、スポーツで隼人に勝てることがあるとホッとしたよ」

「不甲斐ないのは自覚しているので駄目押しは勘弁してください」

「ま、不得意ならしゃーねーか」

 拾ったボールを人差し指の先で回し始めた勝利を畏敬の念を込めて見る。

「なんだよ」

「いや、ボールが言うこと聞いてくれていて羨ましいな、と」

「そんなにか」

「単にもう少し小さいもので遠くまで投げるとかならそんなに苦手でもないんだけど」

「ああ、それで体力測定の時は気にならなかったわけだ」

 現状隼人のシュート成功率はフリーの状態で三割だった。

「なので、その、他にいい人がいるのでは?」

「いやいや、そうじゃないよ吉野」

 誠人が温和そうな顔で手を横に振る。

「むしろ攻撃力は他で揃っているから少しくらいシュートが上手い人より高さのある人がいてくれる方が助かる」

 特に自分たちがね、と言って複雑そうな顔をする誠人は平均よりは上、といったところ。

「このくらいはハンデって言うんだよ」

 身長の話題に不機嫌になる蓮は平均より確実に下、という具合だった。

「そんな訳で、この五人でエントリーしようか……バスケ部所属は二名迄しか入れられないからいい所行けると思う」

「オッケー」

「良いと思うぜ」

 経験者二人と友也が確認し頷き合う。

 午前中の休み時間に何やら相談しているな、と思えばそのことを話題にしていたらしく勝利と、次いで隼人に声を掛けた模様だった。

「……んだよ?」

「いや、割とすんなり誘われてたな、と」

 結果的に余った隼人は勝利にふとした疑問を投げかけていた。

 どちらかというとこういうことを面倒がりそうな勝利があっさり加わっていることは少し意外だった。

「やるからにゃあ勝たないと面白くないんだよ」

「成程」

 これはこれで勝利らしいと思う質問の回答に頷くと、今度は勝利の方が口を開いた。

「吉野こそ普段と違う顔してるな」

「え? そう?」

「普段綾瀬にデレデレしてる時に比べてマシだわ」

「……」

 そんなことはないと言いたかったが否定できる材料が少な過ぎた。

「案外負けず嫌いなとこあるよな……ま、精々気張ってくれ」

「足は引っ張らないようにする」

「違うんじゃねーの?」

「え?」

 想定していたのと違う指摘が来て思わず聞き返していた。

「俺らのシュートがミスったときに役立つんだろ? その上背とジャンプ力」

「あ……そうか」

「亀井の言ってたこと聞いてたか?」

「今、理解した」

「なら良いわ」




 そんな風に会話が落ち着くところを見越していた様に体育館に声が響いた。

「おーい、はやくーん」

「あなたの姫がき……モガ」

 声に呼ばれた視界には入口で手を振った桃香が、流石に不特定多数の前でその表現は恥ずかしかったのか多少慌ててその手で美春の口を塞ぐ姿が入った。

「何か体育館に呼び出して面白そうだから見物しにきたよ……桃香が落ち着きなかったし」

「おーお、熱いこった」

「本当に吉野と綾瀬さんて仲良いんだ」

 勝利の若干呆れた声はそこまででもないが、入学以来初と言っていいくらいニュートラルに会話できていた男子である誠人の心底感心したような声は若干刺さるものがあった。

「委員長、一年二組男子バスケチームはこの組み合わせで行くのでよろしく」

「後で球技大会の用紙に書いておくわ」

 マイペースに告げる友也に花梨が頷く。

 大型連休も終わって一学期の大物学校行事が近付いていた。

 ついでに桃香がぱたぱたと隼人たちの場所に近付きながら言った。

「はやくんジャンプ力…………もあるしいいかもね」

 何故「ジャンプ力」で言葉がもたつく? という周囲に対して一人だけわかる隼人が背中に汗をかく。

 先日の夜の行為は若気の至り過ぎた。

「よっしゃ、じゃあ吉野にいっちょ決めてもらうか」

 先ほどまでの惨状を知らぬわけでもないのにニヤリと笑って蓮がパスを送る仕草をしながら促してくる。

 勿論隼人は勘弁して欲しかったが桃香が「わぁ!」と顔を輝かせた手前引けない。

「吉野君ガンバ」

「ゴーゴー」

 こちらは全く知らないであろう琴美と絵里奈の声援も飛んできて、覚悟を決めてスタートする。

 「三割は入るんだし」と若干ヤケ気味に足を動かす隼人の耳に今度はパスを出した蓮の声が入ってきた。

「あ、しくった」

 さっきまでより随分と高いんですが? と思ったがヤケの勢いで踏み切って思い切り手を伸ばせば……。

「はやくん、がんばって」

「!」

「すごっ」

「アレ届くの?」

 何とかボールをキープしてリングは今ならこの辺りだろうというところに押し出して。

 そこまでで限界だった、主に着地時の内履きのグリップ力が。

「うわー、吉野!」

「ちょっと、大丈夫?」

 シュートはリングに派手な音と共に嫌われた上に止まり切れず、体育館の壁に少々派手に額をぶつけることになり。




「はやくん……」

「大丈夫だって」

「ほんとに?」

「本当」

 クラスから微笑ましさ四割、妬みと呆れがそれぞれ三割といった視線を集めつつ。

 濡らしたハンカチをあてがってくれた桃香は午後の授業が始まるギリギリまで泣きそうな顔で隼人の傍を離れなかった。


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