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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
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番外15.雪国からの嘆き

「あー、もうやだー!!」

 手近なところに持っていたスコップを突き刺し身体を後ろに投げ出す。

 今の今まで思い知っていたこんもり積もった雪のため派手にめり込むものの痛みはない。

「何でこんなに降るのよー!」

「冬だから、だね」

 そんな望愛を上から覗き込んだ詩乃がこちらも持っていたスコップから雪を振り落とす。

「ぎゃー!」

「働かないならホントに埋めるよ」

「だって、もう飽きたし」

「……じゃあ、お手伝いの報酬は私が総取りするからね」

「……やる」

「よろしい」

 真っ白な雪の海の中で蛍光オレンジのウィンドブレーカーがもぞもぞともがく。

「あ、ヤバい、助けてしの」

「やれやれ」

 うんとこしょ、の掛け声で雪の下ニンジンが引っこ抜かれる。

「あんがと」

「ほら、キリキリ働く」

「はーい」

 止む気配のない雪の中、中学生二人の雪かきが再開された。




「とゆーか、おじちゃんち広すぎ~」

「夏にBBQとかするときは便利なんだけどねぇ」

 門前から車庫の所までを押し開きながら手を動かす以外にすることが無いので口も止まらない。

「去年までだったら隼人が大体一人でやってたみたいけど」

「お兄ちゃん単純作業はひたすら黙々とやるし体力お化けだしね」

「今から呼んで来てやらせよっか」

「電車代で赤字になるよ」

「どーこーでーもード……」

「ほら、手を動かす」

「へーい」

 スコップと雪の音だけ、の時間はけれどしゃべっていないと生きていけないのかと親戚中で評されている望愛の前だと続かない。

「どーせ隼人はさー」

「んー?」

「今頃あったかい部屋で桃香お姉さんといちゃいちゃラブラブしてんだろうなー」

「まあ、あっちは滅多に雪降らないみたいしね」

「じゃなくって! 詩乃も見たでしょ? あの隼人の変貌ぶり」

「そりゃ一緒に見たけどね」

 自由な時間はたまに親戚か男子の友達に誘われて遊びに行く以外は本を読んだりしているだけだった物静かな従兄がまさかの……だった。

 それも細かい表情やお相手の証言から察するに割とお熱、っぽい感じの。

「ただ、あれは」

「んー?」

「変貌ってよりは出てなかった、というか……しまってただけだと思うんだよね」

「あー……」

 幼馴染、みたいし……の呟きの後、無言で各々三回ほど雪を掬って捨てる音をさせた後。

「純愛、ってやつー?」

「多分ね」

「じゃあ、仕方ないか」

「許してあげようか」

「詩乃、何様」

「望愛こそ」

 一旦手を止めて「へっ」と笑い合った後、再び作業に戻る。

「桃香お姉さん、いい人だったもんね」

「可愛かったしね」




「でも、そういう望愛だってさ」

「うん」

「某先輩からの告白、オーケーしたんでしょ?」

 大人しく黙っていれば将来有望な結構美少女、というのは誰しもが認める望愛である。

 それが果てしなく難しいのも身近な人「は」よく理解しているのだが。

「……何故知ってるし」

「付き合いが長いのは伊達じゃないよ」

 髪型を整えて素直に笑うならばそんな望愛にも負けない詩乃が、ニヤリと笑う。

「それはそうなんだけどさー、それなのにさー、何で詩乃と雪かきしてるんだろ」

「……バレンタインの軍資金作ってるんじゃないの?」

「!」

 一瞬動きを止めた望愛に詩乃がやれやれと首を振る。

「お年玉、速攻で使い切ったんでしょ?」

「だって、あのセーターもワンピも可愛かったし、全巻揃えたい漫画もあったし」

「あとはゲームにいっぱい課金してたでしょ」

「詩乃はおかんか!」

「望愛が無計画過ぎなの」

「何も言えねー!」

 やり込められた腹いせか掬った雪を無意味に遠くに放りながら望愛が呟く。

「明日は晴れるみたいからデートしてきてやる」

「……二択だけど、いいの?」

「う……」

 地方の悲しさゆえか。

 中学生の足で雪の季節に行けるそれっぽい場所といえば町のショッピングモールか、町営のスキー場。

「絶対、誰かに遭うよね」

「300%間違いなくね」

 三回は知り合いに会う、という意味で。

「それは、さすがに、ちょっと……」

「望愛でも気にするんだ」

「その言い方、棘があるし」

 まだちょっとナイショにしときたいんだよね、と腕を組みながらブツブツ呟いている様に詩乃は肩を竦めてから作業を続行する。

 都合五回ほど雪をかいたあたりで、望愛がハッと何かに気付いたように顔を上げる。

「こんな時隼人たちはさ……」

「んー?」

「おデートしに行く先も選びたい放題なんだよね」

「そりゃあ……こことは比べ物にならないくらいの大都会だし?」

「ずっるーい!! ひっどーい!! 不公平!!」

 除けた雪で出来た小山に叫びながらパンチ、肘うち、ダイビングを敢行する。

「あんまりにも、ズルすぎない?」

「まあ、同じ日本とはいえピンとキリだし」

 いいから働きな、と眼鏡の奥の目線で告げながら詩乃が作業を続行する。

「おっしゃれーなカフェでラテとか頼んだり」

「するんだろうね」

「何かゴージャスなパフェ二人で食べて写真撮ったり」

「するんだろうね」

「水族館行ったり、二人で観覧車乗ったり」

「するんだろうね」

「イルミネーションって言ってもおじちゃんが手作りしてるみたいなのじゃなくて本物の街丸ごとみたいなの見れるんだよね!」

「そうなんだろうけど、口じゃなくて手を動かしな」

「あいたっ」

 目で言っても聞かない妬みで興奮状態の望愛に容赦なく握った雪玉をぶち当てて詩乃は再びスコップを握る。

「ほら、いい加減寒くなってきたからとっとと片付けて家に戻ってお茶飲むよ」

「へーい」

 一応、さっきから脱線しまくっていることに罪悪感が無いわけではないのか体力的に上の望愛がハイペースに腕を動かしながら。

「詩乃」

「何?」

「決めたんだけどさ」

「うん」

「今度の春休み……は厳しくても夏休みとかに、遊びに行ってみよっか」

「お兄ちゃんとこ?」

「そうそう!」

 叔母さんの所に、という大義名分で。

「それなら夏休みが良いかも……夏なら車で帰省してくるはずだから片道乗っけて貰えばお得」

「おおー! 詩乃、かしこい」

 分厚い手袋の手で籠った音の拍手が出る。

「隼人は渋るかもだけど、出来ればお姉さんと一緒に有名スポット巡りしたり映え写真撮りたい」

「甘いね、望愛」

「ん?」

「こういうときはお姉さんから先に口説いてしまっちゃうんだよ……そしたらお兄ちゃん絶対Noとは言えない筈だし」

「おおー! 詩乃、やっぱかしこい」

「ふっふっふ……」

 こちらも一旦手を止めて胸を張ってから。

「これは今から綿密な計画を立てておかないと」

「じゃあ、また隼人がお姉さんと一緒に居そうなタイミング狙って連絡とってみてだね」

「うん、そうしよう」

 ちょっとだけ邪な笑みで頷き合う。

「隼人、今頃クシャミしてるかも」

「そしたらお姉さんに心配して貰えてるんじゃないかな」

「何だ、隼人も得してるじゃん」

 二人して南の方を向いて。

「はやとー、素敵なイベントをプレゼントしてあげるからね」

「楽しみだねぇ、お兄ちゃん」

 ダシに使う気満々の従兄に、それなりに親愛を込めたメッセージを送るのだった。




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