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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
192/225

173.37.3

「おはようございます」

「あ、由佳子ちゃん、おはよー」

 校門が見えてきた辺りで隼人たちの姿に気付いたのか歩調を緩めた由佳子と合流することになった。

 桃香に続いて隼人も朝の挨拶を口にしたところで。

「……ええと」

「どうしたの?」

「いえ、得にどうという訳ではないのですけれど」

 首を捻っているようにも見える由佳子に隼人も内心で頷く。

 桃香本人にも自覚がないようなので何とも言い様がないのだが、朝一番桃香の部屋を訪れての会話とハグのときも登校している間も何となく違和感があるような気がしてならない。

 単に自分の気のせいでもないんだよな……と思ったところで。

「おーい、ももかー!」

 今度は後ろから美春が追い付いてきて一気に場が賑やかになり、その疑問は一旦保留になった。




 午前中は特に何もなく、昼食を終えて午後。




「昼食直後に持久走とか鬼かよ」

「流石にちょっと堪えたよね」

 前を行く蓮と友也の会話を聞きながら三キロばかり走った後、更衣室で着替えを終えて教室へと戻る。

「……次の授業、寝ちまいそ」

「……わかるよ」

「……よりによって世界史だものね」

 基本的に教科書をなぞる教師が受け持っている授業内容に対する勝利のボヤキに誠人と一緒に頷いたところで。

「あ、はやくん」

「ん」

 後ろから掛けられた声に、脚を止める。

「男子は、外でマラソンだっけ?」

「ああ」

「寒い中、おつかれさま」

 何となく友也たちも足を緩め、追いついてきた桃香たちとかたまりになるところで。

「桃香」

「うん」

「何かちょっと、顔赤くないか……?」

「え?」

 そりゃ彼氏の顔見りゃそうもなるんじゃ……という誰かの茶化しは流して思わず桃香の額に伸びた手を、流石にいかん、と寸前で止めたものの。

「つめたくてきもちいい」

「……そうじゃないだろ」

 桃香の方から突っ込んでこられて結局触れた指先で判定した体温は、体育の後ということを差し引いても明らかに高い。

「確かにボールへの反応がいつも以上にゆったりだったけど……」

「取り敢えず、保健室に連れて行くわ」

 そう申し出てくれた花梨と、二人分の荷物を受け取った琴美に思わずありがとうという声が出た。




「吉野君、取り敢えず落ち着きなよ」

 体育の後、ということで休み時間も限られて花梨は始業のチャイムまでには戻って来れず。

 気を揉みながら教室の入り口を見つめている隼人に後ろから琴美が声を掛けてきた。

「いや、落ち着いては居るよ」

「じゃあ、その机の上の古文の教科書はなにかなー?」

「……あ」

 何てベタなことを、と斜め後ろから絵里奈に突っ込まれて慌てて世界史の教科書に替えたところで担当の女性教師が教室に入って来て、その直後に花梨も続いた。

 事情を説明して花梨が自分の席に着いたけれど、当然授業もすぐ開始されるので結局この本日最後の授業が終わるまでどうしようもないか、と思い直したところで板書の隙を突いて斜め後ろの絵里奈から折り畳んだメモ用紙が投げ込まれた。

「?」

 開いてみれば何度か見た覚えのある花梨の筆跡で。

「七度三分。この授業が終わるまでは保健室で休むことになったわ」

 そう、状況が綴られていた。

「……」

 その次に教師が黒板を一度消して次の項目に移る、その合間に。

 窓際最後尾の花梨の方を向いて手で謝意を伝えれば。

 お礼を言われることでも無いわ、と言いたげに澄ましている花梨と、彼女とは対照的にそこからのルート上にいる由佳子や蓮が「良いってコトよ」とそれぞれにジェスチャーを返してくれた。




「……えっと」

 大丈夫だ、とはわかっていても体感で普段の倍以上の長さに感じた授業を終えてすぐさま教室を出て。

 保健室の入り口で養護教諭に家が近所だと説明して、保健室に居るのは桃香一人で職員室に用事がある旨を言われて後は一任される。

「桃香?」

「うん」

 躊躇いがちにカーテンの向こうに呼びかければ返事がすぐに聞こえた。

「起きてたのか」

「一五分ほど寝てたけど」

「……体調は?」

「けっこう、楽になったかな」

 そんな会話を交わしながら向こうを覗けば身体を起こした桃香と目が合う。

「熱は……そう簡単には下がらないか」

「どう、かな?」

「……」

 授業時間の間一人だったのもあるのか甘えた表情を見せる桃香に、二人きりなのを良いことに今度はしっかりと手を伸ばす。

「あ、きもちいい」

「……ってことはまだあるな」

「うん、そうかも」

 額に当てられた隼人の手に目を細めた桃香が小さく頷いた。

「しんどかったら、連絡して迎えに……」

「お仕事時間中だし、歩けないほどじゃないから」

「本当にか?」

「うん」

 そこそこに強情で意地も張るものの、それで周囲に迷惑をかける程でもないのも知っているので帰宅することは問題ないか、と判断する。

 無論、一緒にという前提で。

「じゃあ、帰ろうか」

「うん」

 促してから、今だけだからとベットから立ち上がる桃香にそっと手を差し出した。




「大丈夫?」

「うん、ありがとう……帰ってすぐ休めばへいき」

「帰りは……問題ないか」

「えへ、うん」

 隣からの信頼の視線を軽く頷きながら手早く自分の荷物を纏める。

 纏めながらも思い出したことがあって手を止めるも。

「あ、そうだ提出物……」

「そのくらいどうとでもしておくから」

「とっとと帰れ」

 片目を瞑った友也と仏頂面の勝利に追い払われるような仕草をされる。

「えっと、じゃあ、お願いします」

「ん」

 そこで丁度桃香も鞄の準備が出来たことを見計らって。

「帰ろうか」

「わ」

 自分の分も合わせて一気に担ぐ。

「い、いいよ、はやくん」

「よくない」

「そうだよ、甘えちゃいなって」

「そうそう、あったかくして帰りなよ」

 絵里奈が諭して、琴美が通学用のコートを取ってきてくれて羽織らせていた。

「なんだか、お嬢様みたい」

「……病人、だ」

 丁重な扱いにはにかむ桃香を訂正して。

「ほら、行くぞ」

「あ、うん」

 お大事にねー、という声に手を振る桃香を、確かにいつも以上に大事に大切に帰らないとな……と思いながら廊下に出た。




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