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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
189/225

170.女の子たちの夜⑥

「みんな、準備はだいじょうぶ?」

「オッケー」

「いいよ」

「じゃあ、電気消すね」

「はーい」

「おやすみー」

「おやすみ」

 桃香がリモコンを押すと天井の照明が常夜灯に切り替わって一気に部屋の明度が下がる。

 暫くの間、各々が布団の中でポジションを整える音が続いてからそれが収まって静けさに支配される。

 そんな中で。

「ねえ、桃香」

「花梨ちゃん?」

「もう一つ、聞いてしまっていい?」

「うん、なぁに?」

「勿論、全部ではあるんだろうけど」

 そんな前置きをして、花梨が静かな声で尋ねる。

「桃香は吉野君の、どんなところが好きなの?」




 二呼吸、分ほどの間を置いてから。

 桃香が今夜は何度も零したくすぐったそうな吐息を漏らす。

「そうだね、ほぼぜんぶだけどね……」

「さっすが」

「吉野君、今頃寝ながらくしゃみしてそう」

 電気を消すまでよりは随分とひそひそ寄りになった笑いが部屋に満ちる。

「なんて言えば、いいのかな」

「じゃあ、どこから好きになったの?」

「あ、うん」

 アプローチを変えた花梨の問いかけにまた少し考えた桃香が、ゆっくりと話し出す。

「最初は、一緒にいたい、からかな」

「うん?」

「赤ちゃんのころから、お母さんたちの都合もあったりでよく一緒にお世話されたりとかしてたみたいなんだけど」

 さすがに覚えてないけどね、と付け加えた声にまた小さな笑いが起きる。

「幼稚園に通い始めて、ほかにお友達ができたりもしたけど、やっぱりはやちゃ……はやくんのとこがいいな、って探しちゃってたのはなんとなく記憶にあるかな」

「当たり前になっちゃってたんだ」

「それもあるかもだけど……いじわるしてくる男の子から守ってくれたりとか、お花咲いてるの教えに来てくれたりとか、その、ちゃんと優しかったのもあるよ?」

「そっかそっか」

「あとは、ちょっと足が速いからわたしのこと置いてっちゃうときもあるんだけど、きちんと戻ってくれるところ、とか」

「やっぱり昔から変わんないんじゃない」

 くすくす声が漏れては消える。

「そういえばわたしはよく覚えてないんだけど、お姉ちゃんたちの所の幼稚舎に誘われたりもしたみたいだけど」

「あれ? でも悠さんたちのとこって」

「うん、女子大の付属だから女の子だけだから、最初はちょっと乗り気だったみたいけどそれがわかったら大泣きして嫌がったみたい」

「ははは」

「ちょっと見たかったかも」




「それでね、そんな風に思ってたんだけどね」

「うんうん」

「男の子と女の子がずっと一緒に、ってなると……それはもうはやくんのお嫁さんになっちゃうしかないな、って小学生になる前くらいには決めちゃってた、かな」

 照れ笑いが声色にも乗った桃香の呟きが消えた後、冬の室内だけれど随分と温い笑いが湧きおこる。

「やだ、ちっちゃい桃香かわいー」

「でも確かにそれが一番ね」

「なっちゃえなっちゃえ」

「えへへ……」

 喝采の後、小さく笑って桃香がまた確かめるように呟く。

「それでね、お嫁さんにしてもらいたいなら……その人のこと、いちばん大好きってことだよね 」

「それは、まあ」

「そうなんじゃ……ない?」

 真っすぐに確認する桃香に、今や相槌の方に若干戸惑いが乗る程だった。

「だから、順番はちょっとあやふやかもだけど」

 一度言葉を切ってから、はっきりと口にする。

「わたしがはやくんのこと好きなんだな、って自分でわかったのはそんなとき」




「……ちなみにそのことって」

「うん」

「吉野君にも、言ったりした……の?」

 桃香のエピソードを聞いていた時より若干改まった声で美春が尋ねる。

「言ったし……あとね」

「あと?」

「七夕の短冊とかにも書いちゃった……から」

「強気」

「桃香、すごいわ」

 絵里奈と真矢が感心したように呟いた後、琴美が布団から出した手で隼人の部屋の方向を指差しながら引き取る。

「で、あちらの色男さんの回答は?」

「えっと、ね」

「あ、勿論言える範囲でいいんだけど」

「……あと、桃香のパパさんママさんの反応とかも気になるかも」

 流石に重大発表かと聞いた本人の方が焦ったところで、桃香があっさりと答える。

「お母さんは絶対それがいいって言ってくれて、お父さんは……この世の終わりみたいな顔してた」

「あちゃ~」

「まあ、それはそうなるかぁ」

 いつも娘にも、そしてその友達にも甘いので、若干居た堪れない空気が流れる。

 それに桃香が笑ってから、はやくんはね、と続ける。

「いつもは照れて黙っちゃうだけだったけど……ちょっとお別れする前の時は、きちんと返事をくれたよ」

「「「「「!」」」」」

 隼人の普段の行いから見るに多分色好い返事だろうけど一体何と? と全員が固唾を飲んだところで、

「そんなにかかる予定じゃないから、帰って来た時に結婚はむりだよ、だって」

 ああ一八歳未満だものね……と表を走って行く自転車の音がはっきり聞こえるくらいに部屋の中が静まり返った、その後で。

「……は?」

「そうじゃないし、そこでもないでしょ」

「らしいと言えばらしいけど」

「これは明日の朝呼び出して正座必須かな?」

「……むしろ今から呼び出したい」

 騒めきだす五人に、桃香が笑いながら付け足す。

「だから」

「「「「「?」」」」」

「帰ってきた後で、ちゃんと話し合ってから、お付き合いからはじめよう……って」

「な、なるほど……?」

「確かに筋は通ってる、けど」

「物凄く誠実なお返事なんだと思うけど」

「何かしら? そうじゃないでしょ、って言いたくなるこの感じ」

「吉野君ホント吉野君……」




「それでね」

 さっきまでより少々長かった花梨たちの声が収まるのを待ってから、桃香がさらに潜めた声で言う。

「はやくんもそのことは……ちゃんと覚えているし考えてくれてると思うの、そうじゃないと言わないこととかも言ってたし」

「覚えてなかったらさすがにとっちめるわよ」

「昔より好きに、っていうのもそれかな?」

「……どっちかっていうとオトコノコのプライドを感じる」

「ちゃんとしてるけど、若干ズレてもいるよね……」

 桃香の感想にも、順番に出てくるツッコミにも、他の皆が頷く。

 そうした後でまた桃香が蕩けた声を出す。

「どうなっちゃうのかな?」

「桃香?」

「わたし……はやくんとお付き合い始めちゃったんだけど、このあとはどうなるのかな?」




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