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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
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168.女の子たちの夜④

「ん……」

 桃香の家の前から戻って、玄関を施錠しながら。

 そう言えばあの日はこうしているときに桃香をこちら側に迎え入れていたんだよな、と物足りなく思ってしまって……ついさっき笑顔を見て言葉も交わして僅かとはいえ触れたのに何を、と自分で額を押さえる。

 幾ら何でも際限がなさ過ぎる、と押さえた手で軽く叩いたところで。

「隼人」

「うわっ!?」

 突然の後ろからの声に肩が跳ねる。

「と、父さん」

「何かあったのか?」

「い、いや……何でもない」

 二局ばかり対戦した後今晩は少し飲みたい気分だな、と言って晩酌をしていて……その場合普段より小一時間早く床に就いているはずの父が僅かに赤い顔で廊下に立っていた。

「父さんこそ、どうしたのさ」

「少し水を飲みにな」

「そっか」

 向こうの親族での飲み会の時も酒量が増えた叔父たちに頼まれて準備したことを思い出しながら頷くと、父は父で成程、とでも言いたげに同じような仕草をしていた。

「父さん?」

「いや、何」

「?」

「母さんが桃香ちゃんくらいの時に知り合っていたら、と少し思っただけさ」

「……父さん、酔ってる?」

「そりゃあ飲んだからな」

 堂々と頷く父を見ながら、それでも八歳差の両親で父の方が高校生だと色々とまずいから最低限の分別はあるのか? などと妙な感心をしつつ。

「ちゃんと布団で寝ないとそれこそ母さんに怒られるよ」

「わかってるわかってる」

 とりあえず父が無事に台所の方に入って行くのを確かめてから階段を上る。

 上りながら普段の父らしからぬ惚気とも取れる発言に酔いの恐ろしさを感じつつも……。

「いや、俺は違う……」

 少し強めに首を横に振る隼人だった。




***




「ただいま~」

「おかえり~」

 一応、お湯の入ったケトルを持って桃香が自室に戻って来た。

「少し、かかった?」

「お母さんが元栓閉めてたの気付かなくって」

「そっかそっか」

 琴美が意地の悪い質問をするも、用意してあったかのような返答が返される。

「あと、何かご機嫌ね?」

「そ、そうかな……?」

「妬けちゃうわね」

「ちゃんと火は消したよ?」

「そっちではないわ」

 首を傾げる桃香に花梨が苦笑してから、さらりと口にする。

「桃香と吉野君の、仲の良さに」

「ほえ!?」

 多少弄られるのは想定と覚悟をしていただろうけれど、花梨にそういう言い方をされるとは思っていなかった桃香の手首がカップを一つ押してしまうが、上手いこと絵里奈が抑える。

「ご、ごめんね」

「大丈夫大丈夫、むしろ桃香こそ平気? 火傷でもさせたら吉野君に申し訳ないし」

「も……もぉ」

 ひらひらと手を振った後、後ろから抱き着いて来る絵里奈に桃香が頬を押さえながら、若干抗議気味に花梨を見る。

「花梨ちゃん、いきなりそういうこと言うし」

「あら? 常々思っていたことだけれど」

「花梨ちゃんこそ、この前も男の子に手紙渡されてたでしょ?」

「学園祭と体育祭で桃香が吉野君の、ってのが盤石になってからは特にね」

「「美春」ちゃん!」

 茶々に一声した後、夜も更け始めたのでカフェイン控え目にするため切り替えたほうじ茶を一口飲んでから花梨が口にする。

「勘違いしないでほしいけど、本当に良いものと思って言ってるのよ?」

「そ、それは……ありがと」

「ええ、どういたしまして」

 微笑んで花梨が桃香の鼻先を指で押す。

「あんなに離れていたのに、初恋を貫くものね」




「でも、だって……」

 桃香が捏ねまわしている指先に視線を落としながら口を開く。

「わたしが好きなのは、はやくんだけ、だもの」

「それはよく知っているけど、例えば中学生の間とか不安にならなかった? って話よ」

「だって、迎えにきてくれるって……信じてたし」

「……帰って来るじゃなくて迎えに来るなんだ」

「……やっぱりお姫様じゃん」

 真矢が感嘆し、美春が小さく突っ込む。

「電話とか手紙とかは?」

「えっと……わたしもはやくんも、そうしちゃうと会いたいのが我慢できなくなるからしてなかった、の」

「二人とも意地になると長そうだもんね……ってゆーか愛が重い」

 琴美の質問の答えに、絵里奈が苦笑いする。

「う……やっぱり」

「やっぱり?」

「わたしって……重め?」

 桃香が両手で頬を押さえながらおずおずと尋ねる。

「ま、その身長から言うと気持ち?」

「いや、でも、ほぼほぼ標準体重じゃん」

「付くとこにたっぷり付いてるせいなんだから桃香はそれでいいの」

「何で知ってるの!?」

「そりゃ、見ればわかるし、一緒に測定受けてるじゃない」

「で? どうなの? 正式に恋人になったし……吉野君には触らせてあげたの?」

「さ、さささささわっ!?」

「あ、これはまだだ」

 絵里奈のとんでもない質問への反応に、琴美が冷静に判定する。

「え、えっと……まあ、その、時々、は当たっちゃってはいると思うんだけど」

「あらあら」

「吉野君役得だ」

「わたしのこと……そこでもいいと思ってくれたら、とは思うんだけど」

「自分の武器、わかっているのね」

「桃香のは大分凶器寄りだと思うんだけど」

「吉野君頑張れ、色々と」

「あ、あはは……」

 真っ赤になってしばらく沈黙した後。

「じゃ、じゃなくって! ……わたしの、その、はやくんへの気持ちってそうなのかな? って質問だったんだけど」

 一度ばっと顔を上げてから、俯き加減に窺う忙しい桃香に全員が即答する。

「今更」

「自覚はあったんだ」

「重めとかじゃなくて重いの」

「だよ、ね……」

 若干萎びれながら桃香がぽつりと呟く。

「中学校の時……東尾さんや矢上さんたちに、有り得ないとか、いわれた……し」

「何!? あいつ等桃香に当たりキツイと思ってたらそんなこと言ってたの!?」

「ああ、だって、ブラコン東尾が瞬殺で兄貴がお断りされたの根に持ってただけだから……矢上は矢上で東尾兄のこと好きだし」

「あ、そうなの」

 一瞬で沸騰して膝立ちになった美春が琴美から明かされた話にそっと座り直す。

「むしろ、クリスマスあたりに共通の友達経由で遠まわしも遠まわしに聞かれたけどね」

「へ? 何って?」

「学園祭でうちの高校遊びに来た時に桃香と吉野君のラブっぷりを見せられたらしくて……その後が気になってたみたいよ? 結局付き合ったの? って」

「「あー」」

 琴美からの情報に、絵里奈と真矢が頷く。

「確かに他の高校行った友達にたまに聞かれる」

「桃香の王子様って帰ってきた? で、その後どうなってる? って」

「そう、なんだ……」

 それに心底驚いたような顔をする桃香を、二人が撫でる。

「ふっふっふっ……私達ほどガチじゃないにしろ『桃香の恋路を見守る会』の裾野は広いのだよ」

「ああ、大丈夫大丈夫、一部の例外除けば皆桃香の恋愛成就、応援してるから」

 わしゃわしゃされつつ……絵里奈のそれが若干エスカレートする中、桃香が頬を赤くする。

「わ……」

「ん? どしたん?」

「ちょっと恥ずかしくなってきちゃった……かも」

 桃香のその発言に、二人の手が止まる。

「いーまーさーらー?」

「遅い遅い」

「やっぱり桃香のツボって若干ズレている気がする」

「あんだけイチャイチャしといて何を言ってるのかわからない」

「本当、吉野君以外のことには鈍感なんだから」

 そうしてまた、集中砲火を受ける今宵の主賓、もとい主菜……なのだった。

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