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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
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164.もう逃がしては貰えない(?)

「はい、はやくん、お弁当」

「ん、ありがとう」

 始業式とその翌日、翌々日と続いた冬休み明けのテストを終えて今日からは通常の授業が始まって。

 少し久しぶりな気がする落ち着いた昼休みに、机をくっ付ければ桃香から巾着包みを渡される。

「相変わらずの愛妻弁当だよね」

 昨日一昨日はテストのため軽口を叩く余力も無さそうだった美春が後ろの席から茶々を入れてくる。

 学業が苦手な彼女には悪いけれどいっそのこと毎日テストが続いていれば飛んでこなくなるのかな? 等と包みの紐の蝶々結びを解きながら隼人は受け流したものの。

「もう、違うよー」

 笑いながら後ろを見て否定した桃香が、戻る動作の中でこちらを向いた瞬間に表情を崩す。

 でも前よりそれに近付いたよね? そんな声が聞こえる笑い方だった。




「今日は気分転換でささ身カツにしてみたよ」

「うん……これも美味しい」

「よかった」

 弁当箱の主菜の変化球に舌鼓を打っていると。

「ようやく収まるところに収まってさ」

「うんうん」

「もーちょいラヴいの期待してたけど案外そうでもないよね」

「授業中もいつも通りだったし」

「桃香がちょっとパワーアップしているけど、元々と言えば元々だしね」

 後ろから聞こえてくる、というか多分聞こえるように言っている声に丁度タイミングよく鶏の衣の破片が気道側にドロップしかける。

「わ、だいじょうぶ?」

 桃香基準で慌ててお茶の入ったコップを宛がってくれて、何とか難を逃れたところで。

「すまん、助かった」

「ううん」

 今は遅くないか、と思わなくもないけれどそっと背中も叩いてくれる。

 そんな桃香に片手で礼を示してから、流石に後ろの面々に抗議の眼差しを送る。

「一体」

「あら」

「うん」

「何をお求めになっているのでしょうか」

 思わず、口からそう零れたものの。

「何って、それは、ねぇ?」

「言わなくてもわかるでしょ?」

「見る糖分補給、ってやつ?」

 隼人の抗議の視線も何のその、いつもの調子で返される。

 確かに、聞くまでも無かった……というか、聞いた自分が却って藪蛇か? と思うくらいだった。

「ここ、学校ですが」

 何を言ってくれていますか、という顔をしてから食事に戻ろうとするも。

「とはいえ吉野君や」

 一旦、返事をしたのが運の尽き、だった。

「あたしたち、このために桃香と同じ高校選んだんだから積年の望み叶えてくれてもいいじゃん」

「……え?」

 何だかすごいことを言っているぞ、と美春の発言に目を丸くしている隼人にこの面子どころかクラスでも間違いなく一番小さいランチボックスを仕舞いながら花梨がしれっと告げる。

「本当よ? この子たち、と真矢も」

「まじで……」

「「「てへっ」」」

「だから、テストの度に阿鼻叫喚してるでしょう?」

「ああ、まあ、うん」

「あ、そこで納得はしないで」

「一応、親には驚かれつつも喜ばれたから結果オーライなんだけどね」

 一笑い起きたところで、そんな訳で……と美春が続ける。

「だから、もうちょっとやっちゃってよ?」

「ヘイヘイ」

「もうクラスの皆なんてジャガイモかなんかだと思ってさ」

「ジャガイモはそんな視線でこちらを見てこないと思うのですが」

 爛々、といってもいい目付きに思わず腰が引ける。

 獲物を狩る目、というのはこういうのを言うのだろうか? 今は数の優位で追い込もうとしている?

「吉野君だって長年桃香のことを憎からず思ってたんでしょ?」

「高校初日にああいうことするくらい、にねぇ?」

「……それは、もう勘弁してください」

 桃香と話すことも出来なくて焦ってしまい、教室で衆目の中声を掛けたこと……気になってしまっていると自白したも同然の行為。

 行動を間違えたか間違えなかったかといえばもうちょっとスマートなやり方もあったのでは? と思ってしまうのであの時の自分に注意はしたい。

 ただ、結果としては今の形に辿り着けはしたので間違いでというのも違う気はした。

 ……そうでなかったとしても最終的にこうなっているのも間違いなかっただろうけれど。

「だから、ほら」

「いいのよ? もうちょっと正直になっても」

「……正直て」

 一瞬だけ考えて、いや絶対無理……と思ったところで軽く隣から肩と二の腕の境をつつかれる。

「ん?」

 反射的に顔をそちらに向けたところで。

「が!」

 口の中に、何が押し込まれた。

 味と触感から判断するに、オーロラソースを少々つけた星形ポテト。

「えへ」

 よく噛みながらも、犯人にソフトな抗議の目線を送るけれど……堂々とそんなことをする相手はその程度のことを気にする様子は全くない。

 それどころか。

「はやく食べないと、昼休み終わっちゃうよ?」

 隼人と美春たちにそう言った後。

 周囲から沸き起こった小さな拍手に。

「もう、だめだよ」

 美春たちの方を見てから。

「はやくんは、恥ずかしがり屋さんなんだから」

 小首を傾げた後、にっこりと笑って見せるのだった。




「いや、しかし……事前の予想通り」

「見事に手綱を握られているね」

 空にした弁当箱を仕舞うのを待って、愉快そうな誠人と友也に肩を叩かれる。

「何、その、事前の予想って」

「言葉通りだけどさ?」

「……」

 意味が解ってしまうので、何も返せない。

「敷かれてる、と言い換えてもいいけど」

「……勘弁してください」

 少なくとも、主導権は握られているのは否めない。

 そして桃香にそうされている状況を甘んじて受け入れている面も、確かにある。

 更に始末が悪いことに桃香が嬉しそうで笑顔でいてくれるのだから、それはそれでいいのか、と思い始めてしまってもいる。

 何せ、さっきはおかずを放り込まれてしまったものの……それでも、思っていたよりは。

「それでも、桃香は二人きりのときより割と抑えている方みたいだものね? 吉野君が学校で許容できるラインで」

「……」

「何か?」

「いえ、別に」

「なら良いわ」

 花梨に見透かされた通り、ではあった。

 結局、一言でいえば桃香のお気に召すまま。

「ま、明日からは多少大人しくしてもらうぜ」

 話を耳に入れていたらしい蓮がニヤリと笑う。

「なんせ昼からは、席替え、だからな?」

「でもさー」

 そこに机に頬杖を付きながら美春が口を挟む。

「ちょっと離れたくらいで大人しくなるかな? 桃香」

「絶対、ならないね」

「賭けてもいいよ」

 友也と琴美がすぐさま断言してくれた。

 隼人としても、そう思う。

「ちょっとだけ離れても楽しいことはあるけど」

「……」

 にっこりと笑ってそんなことを言う桃香に、隼人のことを呼びながら近寄ってくる様が簡単に脳裏に浮かぶ。

「いまは、近くがいいかなぁ」

 ね? と見つめられると何かを考える前に首が縦に動いていた。

 そんな自分に気が付いた時には。

「何だかんだで」

「隼人の方も大概なんだよな」

 それぞれがそれぞれの表し方で、生暖かく見られていた。

 桃香とのペアで。




 そして。




「えへへ」

「……」

「やったね」

 クジ引きの後、色々な声と机や椅子を運ぶ音が混じり合う教室の中で平和に桃香が笑う。

 いつかのように、自分の椅子に横向きに座って隼人を見ながら。

 あの時と違うのは隼人の方も机を持ち上げる必要のないこと。

「おとなり」

「ん」

 差し出された手に、軽くタッチを返す。

 そのまま握り込まないように自制しながら。

「三学期も、いいことたくさんあるといいね」

「……とりあえず、マラソン大会だな」

「もー」

 「よっす」「どもー」と後ろに移動してきていた琴美と絵里奈にも「照れてる照れてる」と言われるくらいの有様で、桃香にも当然笑われる。

「外にもいろいろ、あるでしょ?」

「……そうだな」

 桃香が居てくれればさえ、というのは口の中だけで呟いてそう頷いた。




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