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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
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162.again&again

「あ、ごめんな」

 二の腕や太ももとも違う感触に慌てながら、抱き寄せる形になってしまっていた桃香の腰を離す。

「ううん、だいじょ……」

 そこまで言った桃香の顔が、一瞬で消える。

「ももかー!」

「やったね!」

「おめでと!」

 髪が流れた方向に斜め後ろを見れば美春たちに飛び掛かられた桃香が斜め下で揉みくちゃにされていた。

「隼人」

 そしてこちらはこちらで。

「やっとか」

「やっとだね」

「どんだけかかってんだよ、ってな」

 友也と誠人に両肩に手を乗せられ、蓮に脇腹を突かれる。

「……おっしゃる通りでございます」

「むしろ、今まで散々いちゃついていてもそういう意味の進展が無さ過ぎて」

「逆に冬休みに何があったか知りたいくらいだけど」

 爽やかに笑ってそう切り出した友也と誠人の話に、後ろから女子の声が割り込む。

「で、どちらから再告白したの?」

「いや、再、って……」

「だって吉野君と桃香、どこをどう見たって両想いだったじゃん」

「そ、今まで散々やきもきさせてくれちゃって、むしろどんなきっかけがあったら付き合い始めたのかを聞きたくなるレベルよ」

「そう、言われても」

 一旦桃香を離した琴美と絵里奈に指を突き付けられる、も。

 数日桃香と離れていたら細々と考えていたことが吹き飛ぶくらい寂しかった、等と言えようか?

 いや、無理だ、男の沽券とか様々な意味で……と口元を隠しながら考え込むと。

「ね? 桃香」

「どうだったのかな? 綾瀬さん」

「えーっと」

「待て待て待て」

 美春たちはともかく、男子組まで桃香を標的にして焦る。

「何で桃香に」

「だって、どちらかというと口が緩いのは、ねえ?」

 悪い顔をして微笑む絵里奈に、その場のほぼ全員が頷く。

「そういうわけで、もーもか?」

「ちょっとだけ、ちょっとでいいから教えなさいよ」

「えーっと……」

 迷う桃香に焦りを覚えてそちらの方に近付こうとするが、友也と誠人の手がしっかりと抑え込んでくる。

 というか、蓮に至ってはラグビー部でしたか? と言いたくなるくらい腰回りをホールドしてきている。

 そんな様を見て笑った桃香と視線が合って。

 少し考えた桃香がにこやかに口を開く。

「はやくんがね」

「「「おお!?」」」

「あ、やっぱりないしょ」

「「「ええー?」」」

 口元に指を立てた桃香に派手にずっこける面々を他所に、隼人はこっそりと胸を撫で下ろす。

 本当にそういうところが緩い桃香だけれど、流石にそこまでじゃなかったか、と。

「あ、でもね」

「ん?」

 その合間に、桃香が手をポンと合わせて笑顔を零す。

「とってもかっこかわいくて……はやくん、って感じだった」

 その言葉に、皆が顔を見合わせてから。

「吉野君らしい……」

「隼人って感じの……」

 各々が各々で考えて。

 それを、美春が代弁する。

「つまりやっぱりメンドクサイ感じ?」

「……もうそれでいいです」

 言いたいことが無いわけではないけれど。

 自分でもそう思う経緯なので、受け入れるしかなかった。

「だいじょうぶだよ」

 そんな隼人の手を、傍にやってきて桃香がそっと指先で触れる。

 その仕草自体は昨日までに、二人きりの時に比べて大分自重しているな、と思ったけれど。

「わたしは、そんなはやくんの言ってくれたことが、うれしかったから」

 言葉の方は全く抑えることなく。

 嬉しそうな笑顔を隼人と、その場の皆に見せていた。




「あ、あのぅ……」

 桃香の堂々とした態度に教室が揺れた後、丁度言葉が途切れたタイミングで、遠慮がちに自分の席の辺りに陣取ることになっていた友也や蓮に後ろから声がかかる。

 いつもより少し遅れて隼人の隣の由佳子が登校してきた。

「あ、悪い」

「ごめんね、瀬戸さん」

「いえ、おはようございます」

 そんな風にしながら机に荷物を置いた後、いつも以上に人が集まって熱を帯びている様に不思議そうな顔をして尋ねる。

「ええと、廊下に聞こえるくらいに盛り上がっていたみたいですけれど……」

 何があったんですか? という顔をする由佳子に皆が顔を見合わせる。

「何があったって……なぁ?」

「うん」

「ねえ?」

 順次、隼人に視線が集中する。

「いや、その……」

「ほらほら、もういっちょやっちゃいなよ? この際だし」

 クイクイッと両手と言動で美春に煽られる、いつもの面子のみならず遠巻きで聞いていたクラスの面々も同じような表情をしていた。

「さっきみたいに、さ?」

「うんうん」

 わざとらしく絵里奈の肩を抱きながら琴美が片目を瞑り、絵里奈は絵里奈で意味深に笑いながら科を作っている。

「あ、もしかして……」

 そこで元々察しの良い由佳子が口を「お」の形に開こうとする、も。

「おっと、ストップだぜ瀬戸」

「隼人には男を見せてもらわないとね」

 そっちはそっちで蓮が手でT字を作り、友也が何にかはわからないがうんうんと頷いていた。

「……悪乗りが過ぎる」

 周囲からの圧に、学園祭のときに猫の耳を付けさせられたことをほんのりと思い出したところで。

 そっと袖の辺りを握られ、軽く引っ張られる。

「はやくん、はやくん」

「ん……」

「わたしも、もう一回聞きたいな?」

 当事者の片割れのリクエストに肩ががっくりと下がる。

「……何でだよ」

「何回だって聞きたいから、かな」

 聞かざるを得ない声と表情でそんなことを言われてしまい……また一つ、周囲から歓声が沸く。

 そんな中で。

「えへへ」

 軽く腕に抱き付いて来る桃香を見て、一度目を閉じてから口にする。

「……この度、彼女になって貰いました」

「なっちゃいました」

 羞恥とかどうしてこうなったとか早く二人きりになって抱きしめたいとか、諸々複雑な感情が生まれない訳でもなかったけれど。

 桃香の弾むような笑顔とピースサインが心の中のそれ以上を占めていた。




「ええと、綾瀬さんと吉野君」

「うん」

「あ、はい」

 そんな中、由佳子の声に半分ほど現実に戻り。

「おめでとうございます」

「えへへ、ありがとうね」

「あ、ええと……」

 にこやかに返した桃香に、軽く手を突かれて隼人も返事をする。

「その、ありがとう」

「いいえ」

 そんな様に、花梨と琴美がコメントする。

「あら、吉野君すごく照れてる」

「桃香には悪いけど、かわいいじゃん」

「……な?」

 慌てて再度口元を押さえるものの、自覚できる熱量は顔の上半分にも浸透している。

 その様に、琴美には肩先を軽く叩かれ、花梨には小さく「ご馳走様」と呟かれる。

「でも、さっきは桃香に負けず劣らず大胆だったよね」

「まさか教室で桃香を堂々と抱き寄せるなんてねー」

 そんなところに、ニヤニヤを隠しもしない美春と絵里奈の声がわざとらしく耳に届く。

「い、いや……違う」

「違うの?」

「桃香のこと、遊びだったの?」

「無論そうじゃなくって、教室とかで桃香とその、ああいったことをする意図はなかったって意味で!」

「じゃあ、二人きりだったらそうするんだ」

「わーお」

 琴美と絵里奈に口笛混じりで聞かれた問いには。

「……一応、交際はしているので、多少は」

 女子からは黄色い歓声が、男子からは恨めしそうな呻きが上がる。

「多少、ねぇ?」

「ま、それについてはもともとしてそうだったしねー」

 美春と絵里奈が意味深に顔を見合わせていた。

「いや、あの、その……」

「まあ、今は何を言っても駄目だろ」

 そこに、いつの間にか後ろに立っていた、この件に関してはじめて口を開く勝利が肩を竦めた。

「ま、何はともあれ」

「うん」

「泣かすなよ?」

「……それは、勿論」

「あと、あれはもう何も言っても無駄だろ」

「ははは……」

 もう隼人と桃香の手から事態が離れて主に女子が盛り上がる教室の空気の中。

 ようやく鳴ってくれたチャイムでも喧騒は止まらず……救いは教室に入ってきた担任だった。




 とは言え。

 しっかり温まった空気は始業式などを経てもこっそり水面下で沸いており。

「桃香! あと吉野君!」

 自由時間になるや否や、隣の教室から駆け付けた真矢に再度盛り上がり。

 三度宣言をさせられることとなる隼人なのだった。




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