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それで付き合ってないとか信じない  作者: F
三学期/結局二人は変わらない?
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161.二人の秘密?

「ちょっとだけ、久しぶりかも」

「夏休みに比べれば大分短いけどな」

「それはそうだけど」

 通学路で、繋いでいる手を揺らしてから、桃香が見上げてくる。

「起きたことならぜんぜん、負けてないね」

「……確かにな」

 二人で進んだ、二人の進んだ距離が、全くと言っていいほど違う。

「じゃあ、桃香」

「うん、決めたとおりに、ね?」

「ああ」




「はやくんとお付き合いしています、って言っちゃうと一つだけ出来なくなることはあるんだよね」

 一昨日、学校での件を思い悩む隼人に対してどこまでも楽しそうに桃香は言った。

「出来なくなる、って?」

「こっそり、付き合っちゃってるよ、って感じの」

 漫画とか小説であるみたいな、ね? と人差し指を秘密の形にして二人きりなのに声のボリュームを絞る。

 ついでにちょっとだけぎこちなく、片目を瞑ったりもしながら。

「そういうのも、やってみたいかな……というのはあるかも」

「成程」

 非常に消極的な理由にはなってしまうけれど、今更改めて切り出す機会など、と思っている隼人の現状とは合致する、ので。

「じゃあ、暫くは……秘密に、するか?」

「ちょっとだけ、楽しそうだよね」

 絶対、ちょっとじゃない表情をして。

「はやくんと、ふたりだけの、ないしょ」

「まあ、そうだけど」

「えへへ」




「じゃあ、そういうことで、ね?」

 それでもいつもより街路樹一本分長く手は繋いでから。

 そっと解いたところで、桃香がまた人差し指を口の前に持ってきて笑う。

「……」

「はやくん?」

「いや、何でもない」

 口ではそう言うものの、やはり去年までより、この前二人で登校した時……より輝いて見えてしまい内心慌てる。

 髪型も制服も羽織ったコートも巻いているマフラーも同じなのに。

 自慢したいのはこっちの方だ、と喉元まで上がった言葉を飲み込んで。

「忘れ物とか?」

「そういうわけじゃない」

 行こうか、と手で示して。

 再度通学路を並んで歩き始めた。




「緊張してたりする?」

「……意識はしてる、かもしれない」

 普段なら誰かと一緒になる校門から教室までのルートを小さな声でそんなことを話しながら二人で。

「桃香は?」

「ちょっとだけ、どきどきする……かも」

「そっか」

 いつもと同じようにしようと決めたけれど、同じようで決定的に違う……というのが内心の正直なところ。

 まあただ、過ごし方自体は同じはずだ、と教室の扉を潜る。




「おはよう」

「お、来た来た」

 別段今日来るのが遅かったわけではない筈だったけれど。

 教室にはいつもの面々はほぼほぼ揃っていて、それぞれ花梨と蓮の席に固まって話をしていた様子で。

 自分の席に荷物を置いた隼人と桃香も各々男女のグループに加わる。

「一応メッセージは送ったけど」

「あけおめことよろ、だな」

「うん、今年もよろしく」

 それは間違いなくお願いしたいところなので、拳を突き出してきた友也と蓮に応じつつ。

「そういや、そっちは帰省してたんだっけ?」

「あの雪、大丈夫だった?」

 勝利と誠人にそんな話題を振られて。

「まあ、ちょっとした大事には……なったよ」

「だよな」

「テレビで駅映った時にもしかして隼人いないかな、とか思って結構探したぜ」

「やっぱ、やることは一緒だったか」

「ははは……」




 そんな風に数分間それぞれの年末年始の話題で軽く盛り上がっていた最中。

「はーやくん」

 机二つ分向こうで花梨たちと作っていた輪から少し抜け出して、桃香に背中から話し掛けられた。

「ん?」

「ちょっと、確認があるんだけど……」

 そんなことを言いつつ、隼人の傍までやってきた桃香が。

「あ、そうだ……みんなも、改めて、今年もよろしくお願いします」

 先ほど、席付近を通過するときも少し話した友也たちに笑いかける。

「お、おう」

「よろしく」

「お願いする」

「ぜ……」

「「?」」

 やや、どころではない歯切れの悪さに桃香だけでなく隼人も首を傾げる。

「皆、一体」

「どうか、した?」

 そんな中で、少し置いて先ず勝利が口を開く。

「いや、なんつーか……綾瀬が矢鱈マブい、というか」

「隼人に睨まれるの覚悟で言うと……何だかいつもより可愛いのでは? というか」

 珍しく困惑気味の友也の後を蓮と誠人が引き取る。

「隼人のこと呼んでる声色も何だかその……アレだ」

「蓮ですらわかるんだから相当何というか……うん」

 顔を見合わせている四人に。

「そ、そんなことは……ない、よ?」

「いつも通りじゃないか?」

 若干焦っている桃香に、心当たりしかない隼人は目を逸らすしかなくて。

「ほ~らやっぱり」

「男子から見てもそうじゃん」

「桃香が、去年までより甘みと色艶マシマシじゃないか疑惑」

 そんな所を。

 今度は後ろから美春たちが桃香を意味深に見つめる。

「話を逸らして吉野君のところに逃げて行ったけど、確認したいことがあるのはこちらの方よ?」

 花梨の言葉を合図にして。

「「隼人?」」

「「「桃香~?」」」

 もう一歩ずつ、包囲の輪が縮んだ。




「ぁ……えっと」

 胸の前で両手の指を迷うように動かした桃香が、それよりずっと迷った表情でこちらを見上げて。

 それを受けて隼人は目線で一つ確認をする。

 それにもう少し頬を赤らめてから小さく桃香が頷いたので。

「その、実は……」

 口を開きながら手を取ればいいか、とそっと一歩分ほど離れている隣の桃香に手を伸ばしたところで。

「……」

 桃香は桃香で、隼人の方に柔らかく身を寄せて。

 結果。

「この前から、桃香とは……」

「わ」

「付き合い始めたん、だ」

 桃香の腰を抱き寄せながら、宣言することになった。




 一呼吸置いて、教室の一角の空気が爆発した。




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